「寸進」がちょうどいい、果物の収穫をサポートするヤマハの自動走行車への期待
レスポンス / 2022年10月14日 8時0分
農業に従事する人手不足問題の解消や、国際競争力の高い生産基盤の構築に向けて農業のスマート化が急務となっている。10月12日に開幕した「農業Week」内の「国際スマート農業EXPO」では、最新のITやDXを活用した新たな農業の形が数多く提案されていた。モビリティとロボティクス技術を提供するヤマハ発動機は、産業用ヘリやドローンで農業現場の課題解決に取り組むプレーヤーの一社だが、新たに自動運転技術を活用した小型の電動四輪車を発表。果樹園での作業の省力化、効率化をめざす。
人と寄り添う「寸進」の自動走行
初公開となったのはコンセプトモデルの「Auto Guided Orchard Support vehicle」(果樹園作業支援自動走行車)。淡いグリーンのボディカラーに、2席のシート、ハンドル、荷台というシンプルな構成だ。工場内で作業をおこなう自動搬送車「イヴオート」をベースに、果樹園での剪定や収穫作業に向けた自動走行車として開発された。
自動走行車としては機能もシンプルで、左右の樹列(果実がなる樹々の列)を車体左右に取り付けられた2つのLiDERが認識し、作業をおこなう樹列に沿ってゆっくりと自動走行をおこなうというもの。あらかじめ走行ルートを設定しておけば、樹列間の移動や折り返しも可能。作業以外の移動時には自動走行を解除し、人間が運転をすることも可能で、公道を走ることも想定しヘッドライトやウインカーなども取り付けられている。
また高所での作業時には、シートと荷台部分の高さを最大40cmまで伸ばすことができる。
デザインにもこだわった。ヤマハ発動機のデザイナー武石真里さんは「人がいないところで勝手に作業をするものではなく、作業をする人と一緒に、寄り添うもの。それを形にしたかったんです。カラーも、これまでのいわゆる農機的な警告色ではなく、人と一緒の空間にいるための『共生色』としてイメージしました」と語る。
自動走行はおこなうが、「自動収穫」ではないところが今回の車両のポイントだという。果実の収穫は、収穫に適した果実の選別や、果実ごとに適した剪定方法など、複雑な認知・判断と繊細な手捌きが必要となる。また、万が一機械任せで収穫をして果実を落としてしまったり、樹木を傷つけてしまうことがあってはならない。ならば作業に関わる移動や運搬の部分を自動化することで効率化して、人の手でおこなうことができるものはそのまま、という形を選んだという。
剪定や収穫のための自動走行において、特にこだわったのが「寸進(すんしん)」機能だ。自動走行車は常に一定の速度で走り続けるわけではなく、リモコンのボタンを押すことであらかじめ設定した一定距離分だけ進んで自動で停止する。これにより作業者のスピードに合わせた作業が可能になる。「これまで2人でおこなっていた作業が一人でできるのは省力化になる」と、実際に使用した農業従事者は評価する。
「省力樹形」とともに認知・普及をめざす
今回の自動走行車を運用する上で重要なのが、効率的な樹形だ。国の方針として、生産性を高める「省力樹形」の普及をめざしている。小さな木を密集して直線的に植えることで、作業動線を単純化することが可能で、さらに機械化の導入がしやすくなる。自動走行車を導入することで、整枝から収穫までのあらゆる作業時間が大幅に短縮できる。国立研究開発法人の農研機構データによると、整枝・剪定作業で約54%、収穫で約43%の年間作業時間を削減することができたという。
ヤマハの自動走行車が実際に運用をおこなうためには、この省力樹形が必須だ。省力樹形の例として紹介されていたのが、リンゴの木による「ジョイントV字トレリス樹形」。文字通りV字型に育った木が一直線に並んでおり、自動走行車による収穫もしやすそうに見える。ただ当然、今ある樹木から改植するとなるとコストがかかる(10アールあたり150万円前後)上、改植してから収穫できる状態まで成長するのにおよそ3年かかるため、その間の生産者の収益は激減する。
そのため国は補助金を用意しており、リンゴのV字ジョイントだと10アールあたり70万円程度、未収益期間の補助が同20万円程度で、合計90万円程度の補助を受けることができるという。
自動走行車の開発プロジェクトを取りまとめるヤマハ発動機の本田士郎氏は、「まずは生産者の方々に省力樹形を認知してもらわなければなりません。その上で一緒にビジネスにしていきたい。そのためにはコストが重要です。省力樹形を導入するための補助金が用意されていますが、それを適用いただくために実証に協力いただける方々を募っている状況です。実証を踏まえて、(自動走行車の)購入の補助金などにもつなげていきたい」と話す。
10年後ではなく明日使えるもの
実証試験を踏まえて、さまざまな期待が寄せられている。そのひとつが汎用性だ。剪定や収穫の時だけに活躍する“台車”ではなく、農薬や除草剤散布、アタッチメントを取り付けての草刈りなどの付加価値があれば、より導入しやすくなる。車体の形状やサイズなど、様々な需要に対応できるよう準備を進めているという。
今回の展示はあくまでコンセプトで、実際に市場投入される時期についても省力樹形の認知・普及次第ということになるが、「明日からでも使えるもの」を目指し開発を進めたと本田氏は語る。
「(生産者の)ロボットに対する気持ち、思いはまだ敷居が高いのだと感じています。フルオートメーションを機械メーカーである我々が掲げても付いてきてもらえない。将来に向けての研究開発は進めていかなければいけないと思いますが、それは今ではない。だからこそ、10年後に役立つものではなく、明日使えるソリューションとして(今回の自動走行車を)開発したのが今回の自動走行車なんです」
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