「キープコンセプト上等!」なスバル『クロストレック』は何が進化した? FF初採用の理由とは
レスポンス / 2022年10月17日 11時0分
スバルの新型SUV『クロストレック』が、いよいよ11月に受注を開始する。価格や詳細なグレード体系などの発表についてはまだしばらくお預けだが、先行してプロトタイプへの試乗が叶った。それを踏まえ、開発責任者の毛塚紹一郎プロジェクト・ゼネラル・マネージャー(PGM)に、開発に込められた思いを聞いた。従来モデルの『XV』との違いは、そして初めて採用したFFモデルのねらいとは。
「このクルマ何となく楽しいなぁ」が開発指針に
「いろいろな場所にクルマで出かけて楽しんでいただきたい。であればお客様だけでなく、開発、製造、販売をする我々も楽しい気分で取り組みたい。コロナ禍もあり、何となく暗い感じもあったので、それに負けないよう“FUN”をキーワードにやろう……そんな思いで開発に取り組んだクルマでした」
クロストレックの開発をとりまとめた毛塚PGMは、これまでも3代目『フォレスター』、先代の『アウトバック』『レガシィB4』など数多くの車種を手がけてきたが、今回のクロストレックは「最初に試作車が出来て運転した時に“このクルマ何となく楽しいなぁ”と思った」のだそう。その気持ちがそのまま開発の指針になったという。筆者自身も、これまでの『XV』(クロストレックの前身にあたるモデル)はまさにカジュアルで肩肘張らずに乗れる楽しいクルマだと感じていたから、毛塚PGMの言葉はすんなりと理解できた。
一方で、限られたコース内での試乗ではあったが、新しいクロストレックを走らせて印象的だったのは、なめらかでフラットライドが実現されているという点。そのことを毛塚PGMに伝えると、「もともとSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)では先行開発で乗り心地、走りの味を開発をしており、じゃあもう一歩進めるには何が必要か?という研究にも取り組んでいた」のだそう。そこで「我々が持っている要素に加え、人が感じるところを突き詰めれば快適性がより向上できるんじゃないか、という点に着目。もう少し人の身体を勉強しようということで大学の医学部とも議論しながら、そこから得た要素を入れた」という。
人の骨盤をしっかりと支えることで頭を抑制する構造のシートや、高減衰マスチック(弾性接着剤)を使い、ルーフの振動によって発生する騒音の音圧(30~50Hzの音圧変化)の低減を図り、音の収束を早めるようにしたことなどは医学的アプローチから実現したもの。試乗では新旧(“旧”は従来のXV)の乗り比べができたが、確かに走行中の室内でザワつく感じがスッとなくなり、クルマから感じられる上質感がより高まった印象だった。
初めて設定した「FF」のねらいは
またクロストレックでは、AWD(全輪駆動)だけでなく、新たにFF(前輪駆動)も設定された。スバルといえばAWDに絶対的な信頼を置くメーカーとして知られるが、この点については、「我々が掲げている安心と楽しさのうち、たとえば“楽しさ”は方向性は同じだとしても、『WRX』とクロストレックは同じ性能でいいかというとそれは違う。使用するシーンに応じて楽しさを提供するのだとして、AWDは必要ないと仰るお客様もいらっしゃる。そこでそういう方のショッピングリストにも載せていただけるように、今回はFFを追加した」という。
ただし「FFとAWDで基本的に装備差はつけない」として、インフォテイメントやアイサイトはついている。決して、ただ車両価格を抑えるためだけにFFが設定されたという訳ではなく、価値観としてのFF、ひいては燃費、価格……という話ということのようだ。
「キープコンセプトと言われても異論はありません」
ところで新しい『クロストレック』は従来型の『XV』に対してキープコンセプトにも思えるのだが……と毛塚PGMに向けてみた。
すると、「従来の『XV』はSUVながら軽快なスポーティさ、カジュアルさでご好評をいただきてきた。外観の楽しさ、軽快な走りは『XV』がもっていたところでもあり、キープコンセプトと言われても異論はありません」とのこと。従来型『XV』のもっていた世界観、良さをなくす必要はないというのが判断だった。インフォテイメント系、動的性能、SUVらしいデザインなど、もちろん新しいものだが、「根底に流れているものは変わらない」というのが答えだった。
このタイミングでクロストレックを投入する背景のひとつに、「我々のフォレスターより少し下のクラスの他銘柄のSUVが続々と登場している。その中でこれまでのXVの存在感をより高めるため、安全、動的質感などSUBARUの強みをより伸ばして存在感を示す」というのが、新しい『クロストレック』の意味だったという。
「なので次期『インプレッサ』よりも先の登場、導入となったのですね?」と(こちらも無意識だったが)水を向けると、「誰かが開発しているかも知れませんが、私にはわかりませんのでそれにはお答えできません」と毛塚PGMは言葉を濁した。
人気を集めた従来型XVのファンの期待を裏切らない……というよりもクルマとしてより進化を果たしたクロストレックが、実際にユーザーの手に渡り、どれほどの“楽しさ”を味わわせてくれるかが楽しみだ。
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