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トラックのデザインに最も重要なものとは、デザイナーが語る『eキャンター』の哲学

レスポンス / 2022年10月18日 12時0分

「トラックのデザイン」には何が求められ、そして何を実現しようとしているのか。街の景色を形作る要素のひとつであり、時代とともに姿を変えてきたトラック。だが、日々目にするものでありながら、ドライバー以外の人たちにとっては意外とそのデザインに目を向けることは少ないのかもしれない。


9月末にドイツで開催された商用車ショー「IAAトランスポーテーション2022」で、世界的トラックメーカーであるダイムラートラックの日本人デザイナーに直撃。欧州初公開となった三菱ふそうブランドの次世代EVトラック『eキャンター』におけるデザインのこだわりを軸に、トラックのデザインとは何かを聞いた。


トラックのデザインは「お客様ファーストの精神」


「まずは『お客様ファーストの精神』であることですね。お客さんの使い方、要望に基づいたところをできるだけフィードバックしたい。こういう風な造形にしたらかっこいい、とか、こうしたら他と差別化できる、というのはそれだけでは価値にならない。お客さんに評価してもらって初めて価値になるんです」


ダイムラートラックアジアのデザイン部 部長の松本正志氏は、イタリアでデザインを学んだのちに世界的カーデザイナーの奥山清行氏率いるKEN OKUYAMA DESIGNを経て、SUBARUに入社。2020年から現職という経歴の持ち主。乗用車のデザインも知るだけに、商用車=トラックのデザインがそれとは大きく異なるものであることを強調する。


「たとえば、この形は空力的にこういう風になっているんです、この形が安全性に寄与しているんですっていうふうに、しっかりとファンクションの部分で裏付けをとれるような造形のアプローチを心がけています。インテリア、エクステリア問わず、色までその思いでアプローチしているんです。高級スポーツカーメーカーであれば、純粋なスタイリングだけで攻めるということもあるのでしょうが、商用車はこれを使ってお金を稼いでいただかないといけません。それがしっかり表面に出てくるように、空力だったら空力、安全性能だったら安全性能がしっかりと、お客さんがそれをわかるような形で造形をしています」


それを見た人によって評価が分かれる、あるいは全く評価がされないようなものは排除し、機能に裏付けられた造形を盛り込んでいく。「ロジックに基づいたデザインをするというのが部の目標」だという。


「デザイナーのエゴにしない、ということです。例えば信号機の赤い色に疑問を呈す人はいないと思うんです。あれは機能的に赤が人間が認識しやすい波長の色で、危険というのがわかっているからその色にしているのであって、それが嫌いだから信号機イヤですっていう人はいないと思うんです。そういう風にデザインもちゃんと理屈をつけて説明をすると、形はそれほどだけど機能がちゃんとあるんだから受け入れると。それが商用車のデザインに求められているものだと思います」


クリーン、シンプル、アイデンティティの表現


9月に先行して日本で初公開となったeキャンター、およびキャンターは、こうした「ロジックに裏付けられたデザイン」を体現した三菱ふそうの最新デザインをまとっている。コンセプトとして重要視したのは、「クリーンであること、シンプルであること、アイデンティティをしっかり体現すること」だったと松本氏は話す。


「パーシブドクオリティ=感性品質。これを我々は非常に大事にしています。例えば(パーツ同士の)合いであったり、Rのひとつをとっても妥協をしないということを目標にやっています。お客さんが見たときに、全体で『大きなブラックベルトが付いていてかっこいい』というのももちろんですが、ちょっとドアを開けた時に見える処理にしても、『ああ、このクルマは手を抜かずにちゃんと作られているんだ』というのが見えるような形で、突き詰めるようにしています。トラックは長く使われるものですから、そういう細部にこそものづくり精神が宿るというか。そうしたことを基軸に時間をかけて熟成を重ねていくというプロセスをとっています」


フロントマスクの「ブラックベルト」は三菱ふそうの商用車のアイコンのひとつだが、これは60-70年代のキャンターの意匠を現代的なアプローチで再構築したもので、その名の通り柔道などの「黒帯」が持つ精神性を盛り込んだ。強さだけでなく、力を受け流す、相手と対峙した時にどうするか…といった精神性を表現しているという。また日本の製品である、というメッセージでもある。「ものづくりにおいても妥協しない。そして黒帯をしっかり付けられる人がしっかり運転してほしいというマインドでやっています」と松本氏は語る。


eキャンターはEVだが、これ見よがしに電気を主張するものはない。オレンジとブルーのステッカーが貼られているのみだ。ここにも三菱ふそうのデザインに対する哲学がある。


「今後、電動化や自動運転は当たり前のものになっていく。たとえば、90年代のスポーツカーのドアには“DOHCインタークーラーターボ”とか書いてありましたが、今は当たり前のものになった。いわばお客さんにとって付加価値がないものになったということです。長い目で見て、お客さんにとってしっかり価値が残るものとはなんだろうと考えたときに、普通のICE(ディーゼルエンジン)と差別化するのではなく、これはこれでしっかりお客さんが付加価値を感じてもらえたら買ってくださいというアプローチで仕立てています」


「Uの字ダッシュボード」と「オレンジのエネルギー感」


従来と大きく変わったのがインテリアだ。ある意味、商用車にとってエクステリア以上に重要と言える部分でもある。シンプルでかつ多くの機能性を盛り込んだ、と言ってしまえば単純だが、新型では新たに「Uの字型」のダッシュボードとすることで見た目の新鮮さと日々の使い勝手を実現している。ダッシュボードを正面から見ると、乗降グリップまでを含めて大きくUの字になっていて、エアコンやメーター、セカンダリーディスプレイなどを全て内包する造形となっている。まさしくデザインと機能が融合したかたちだ。


一方で、シートの硬さや全体のレイアウトなど、元々キャンターの魅力として受け入れられているものは継承している。課題であったストレージ(収納)についてはポケットや充電に対応するなど、現代的にアップデートしつつ、ユーザーの要望を可能な限り商品にフィードバックすることを心がけた。


また、ステッチやエアコンの吹き出し口には、商用車では珍しいオレンジ色が採り入れられている。これは「エネルギー感」を表現したものだという。


「LDT(ライト・デューティー・トラック)というカテゴリーは、街中でキビキビと動いて、効率よく荷物をお客さんに届けるというのが大事。そのエネルギー感のようなものを、ビビッドなオレンジで表現しているんです。『電気自動車=ブルー』という一般的なイメージがあると思いますが、エクステリアと同じようにEVであること自体はこれから標準化していく中で、三菱ふそうらしさを足そうとなったときに、『オレンジでエフィシエント』というのを表現しています」


ダッシュボードの色も暖色系となったことで、車内の印象を大きく変えている。商用車といえば黒一色やクールグレーの無機質な空間をイメージするが、「運転していること自体、仕事をしているみなさんが楽しんでもらえたらと思いました。エモーショナルなエネルギーをドライバーさん、働いているみなさんに与えられたらという思いで、運転環境をまとめています。差し色ひとつとっても、新しい色を作るとなるとコストは高くなる。でも、それがお客さんへの訴求力になるということを納得させうるデザインを仕上げた」とその思いを語った。


デザインの責任は、一つ上の付加価値に昇華すること


とにかく「お客様ファーストの精神」。これが長く愛されるキャンターに受け継がれてきた最大の哲学なのだろう。走行性能や機能性はもちろん、デザインにおいてもこれを体現したものとなっている。一方で、ユーザーの要求のハードルは年々高くなっていく。ユーザーに納得してもらって、購入してもらうためには松本氏が言う“感性品質”をさらに高めていく必要がある。「デザインが担保している責任というのは、それをもう一つ上の付加価値の部分に昇華していくこと」と松本氏は語る。


「この一筆書きのUの字の中にたくさん機能が入っているんだというのをお客さんがいつの日か、理屈じゃなくても理解してくれるというか、だからこうなっているのかな?というのを少しづつ発見してもらえると、それも面白い要素かなと思います。たとえばLCDのグラフィックもUの字に揃えていますが、これも『ああ、そうなっているのかもしれないな』というのを、ふとした時にに気づいていただけると、より三菱ふそうに対しての愛着を持っていただけたり、『これ俺のトラックなんだ』という気持ちになっていただけると嬉しいなと思います。


お客さんのユーザーエクスペリエンスというのは、日を追うごとに成熟されていっています。今からガラケーに戻れるかというとそうはならない。それと同じで、トラックに求められていたものが90年代と2023年ではどうかというと、やっぱり2023年の方がベースラインが非常に高くなっている。だからこそステッチを入れたし、たとえばステッチの下にステアリングヒーターがあることをわかるような体裁にしています。それがお客さんにとっての付加価値ですし、『おれのはステアリングヒーターがついているんだぜ』っていえるポイントだと思うんです。そこをぜひ、見ていただきたいなと思います」


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