【VW Tロック 新型試乗】クルマの本質とは無縁なところで損をしている?…中村孝仁
レスポンス / 2022年10月18日 20時0分
今もって質実剛健を貫き通すVWの不利
その昔、ドイツ車を評して質実剛健という言葉をよく使った。そしてその代表がVWであった。イタフラ車のような粋さはないが、クルマの出来は抜群。そんな評価だった。
でもこれ、走る、曲がる、止まるというクルマとしての基本がとても大事にされていた時代に通用したクルマ作りである。質実剛健を辞書で引くと、「飾り気がなく、まじめで強く、しっかりしていること」とある。まさにVWそのものじゃないか!と思わず膝を叩きたくなる。この作りは80年代以前ぐらいまでなら立派に通用した。何故なら、ドイツ車以外はあんまり真面目に作ったとは思えなかったし、しっかりもしていなかった。だから飾り気がなくてもドイツ車は日本人の気質にマッチしていたのだと思う。
翻って今、その出来の良くなかったイタフラ車や、ドアのインナーパネルをはがしたら腐ったハンバーガーが出てきた(これホントの話)アメリカ車なども皆品質を気にするし、とにかく壊れない。まあ、ドイツ車に追いついたというか、ようやく比較しても遜色なくなった。こうなると選ぶ基準が変わる。つまり粋でオシャレ…などという要素がとても重要になってくる。
こうなると今度はドイツ車は不利だ。元々高級車しか作ってこなかったようなメルセデスベンツはともかく、他のドイツ車はそれになりに色気を纏って来たが、VWは今もって質実剛健を貫き通している印象が強い。
乗り味は如何にもドイツ車らしくなった『Tロック』
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『Tロック(T-Roc)』というモデルが初めて日本に登場した時、つまり先代に試乗した時はその遮音性の低さやサスペンションのドタバタ感を指摘した。今回その二つはまさに見事というほど奇麗に直されていて、乗り味は一言でフラットで如何にもドイツ車らしく、路面から侵入する大きめな入力をピシャリと一発で収めるし、1.5リットルの直4エンジンも至って静かである。この1.5リットル、性能的にも十分満足できる瞬発力や伸び感を持っていて、ディーゼルに加えて新たな魅力をTロックに与えた印象である。
そういえば情けないほどプアだった先代のインテリアと違って、今回は少なくともダッシュ上面はソフトパッドで覆われていた。きっとインシュレーターも増し増しになったのか、透過音も明らかに小さいと感じた。
試乗した「TSI アクティブ」というモデルはいわゆるTロックのベースグレードで、装着タイヤも最も小さい16インチである。ただし、そうは言っても215という幅方向はどれも同じ。天地方向に少し厚みのある215/60R16とされているのが違いで、試乗車にはインフォテイメント系のディスカバープロとフロアマットがオプション装備なだけだったが、これで不都合は全く感じなかった。
因みにディスカバープロは最上級の『TロックR』にのみ標準で、他のグレードもすべてオプションだから条件は上級グレードと比較してもあまり変わらない印象である。というわけで質実剛健を取るならこのベーシックグレードのアクティブはお勧めである。ただ、色気を感じさせるアンビエントライトなどは省かれている。
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クルマの本質とは無縁なところで損をしている?
とにかく、乗り味では上質な印象を振りまいてくれるTロックだし、エクステリアのデザインも個人的には大いに好ましい印象を受けているのだが、だいぶ向上したとはいえライバルのモデルと比べるとまだまだ色気を感じさせないインテリアの作りや質感、そしていつも指摘させてもらっているナビの使い勝手の悪さなどは、ある意味でTロックの泣き所。
でも、日本の輸入SUV市場では同社の『Tクロス(T-Cross)』と共にワンツー体制を構築しているそうで、つまりは売れているのだから何をか言わんやなのである。
とはいえ、色気の無さだったりナビの使い勝手だったりと、およそ評価されるべきクルマの本質とは無縁なところでもし評判を落としているとしたら、Tロックに限らずVWはずいぶんと損をしているのではないかと思ってしまう。最近は時にライバルのプジョーやシトロエンなどフランス系のモデルが色気だけでなく質感も向上させ、おまけに品質的にも質実剛健を是とするドイツ車に追いついてしまったのだから厄介である。
![](https://response.jp/imgs/zoom1/1809675.jpg)
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
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