「信号が見えていない」という可能性…眼科医が指摘する事故の原因と対策【岩貞るみこの人道車医】
レスポンス / 2022年10月27日 15時0分
「信号が見えていない」という可能性
信号がからむ事故は昔からあるが、最近はドラレコが装着されているクルマが増え、明らかに赤信号なのに突っ込んでいる映像を報道などでよく見るようになった。
2022年9月にも、同様の事故が発生した。栃木県にあるホンダカーズ野崎が持つ車両が、信号無視のクルマとぶつかったというものだ。ホンダカーズ野崎の松本正美店長は、F1全盛期に無限ホンダエンジンを設計していた「F1店長」として有名な方である。そして事故映像を見て私はのけぞった。
「ぎゃー! うそ、タイプRなの?」
そう、『シビックタイプR』。プレミア付きの名車である。映像を見て、もったいない! と、つぶやいたレスポンス読者の方も多いことだろう。
以前なら赤信号無視は故意によるもののほか、よそ見をしていたのではとか、ぼーっと走っていたんだろうと言われる事故である。しかし現在、事故原因はもっと多角的に調査されはじめている。そのひとつが、健康起因事故だ。よく言われるのは、病気で意識を失っていたのではないか。睡眠時無呼吸症候群で一瞬、深い眠りに落ちていたのではないかといった意識障害である。
しかし、シビックタイプRの事故の場合、加害者には意識があったようだ。ならば、原因は絞られる。疑うべきは、目の病気だ。
「加害者は、信号が見えていなかったのではないか?」
もちろん、単なる信号の見落としである可能性は否めない。けれど、加害者の目の検査をするべきだと強く訴えるのは、西葛西・井上眼科病院の副院長、國松志保医師である。
「次に起こすかもしれない死亡事故を防ぎたい」
西葛西・井上眼科病院は、日本の眼科医療機関としては最初に「運転外来」を開設し、視野障害をきたす緑内障などの病気に特化したドライビング・シミュレータ(以下、DS)を持つ眼科病院で、國松医師はこのDSを担当している。ふだんは、緑内障を専門とする眼科医として、交通事故原因にもなる視野障害を見つけ出すべく診察にあたっている。そして、私の「急性緑内障発作を起こすヤバい目」を見つけてくれた恩人でもある(目の検査、本当に大事!)。
ここ数か月のあいだに、清掃関係者の車両が赤信号を突破して子どもをひきそうになったり、和菓子屋関係者の車両が事故を起こしたりと信号がからみ、かつ、話題になる事故が起きている。國松医師は、それらも、もしかしたら、「上方視野が欠けていて信号が消えて見えなかったのではないか」を考えるべきだという。
國松医師は言う。
「信号無視をしてクルマ同士でぶつかっても、車内は安全性が上がっているので軽傷ですむかもしれない。しかも、ドラレコがあるので信号状況も確認できます。でも、相手が歩行者や自転車ならひとたまりもないし、人にはドラレコがついてないので、真実もうやむやになってしまう。どうして、しつこく何度も、目の検査をしたいと言うのかというと、『次に起こすかもしれない死亡事故を防ぎたい』。これに尽きます。」
「見る」が正しくできなければ、判断も動作も遅れる
ハインリッヒの法則というものがある。300件のヒヤリハット、29件の軽度の事故があれば、1件の死亡重傷事故が起きるという有名な法則だ。
ホンダの事故も、清掃事業者の事故も、和菓子屋の事故も、死亡重傷事故には至っていない。けれど、もしも加害者の視野障害が原因で事故が起きていたとしたら。それに気づかずにこのまま運転を続けていたら、いつかきっと重大事故を起こしてしまうだろう。
もしもこの記事を読んだ読者のみなさんが事故にあったら、ケガの大小にかかわらず相手のドライバーに目の検査を強く勧めてほしい。そして、自分が事故を起こした場合も、もし、軽い事故であっても、今回は人のケガがない物損だけでよかったねと安心せずに、目の検査を考えてほしい。
ちなみに、自動車保険は被害者救済が基本のため、その時点で目の異常が発覚したとしても支払いには影響しない。
運転は、認知~判断~動作である。けれど、認知するための「見る」が正しくできなければ、判断も動作も遅れる。つまり、運転であれば事故になるということだ。
安全運転をしましょう、信号を守りましょうとこれまで何度も標語が掲げられているけれど、気合と根性だけでは事故はなくせない。目に異常があり必要な情報を得ることができなければ、しかもそれが本人の知らないところで進行が進んでいるとしたら、いくら気合を入れたところで重大事故はなくならないのである。
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「ハチ公物語」「しっぽをなくしたイルカ」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。最新刊は「法律がわかる!桃太郎こども裁判」(すべて講談社)。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
池袋暴走事故で母子2人死亡 高齢ドライバーの事故防止対策に関心高まる 警視庁150年 144/150
産経ニュース / 2024年12月21日 8時0分
-
赤信号を無視し交通事故 本人無傷も相手方の女性にけが 危険運転致傷の疑いで男を逮捕 島根県出雲市
日本海テレビ / 2024年12月9日 12時1分
-
緑内障とは? 具体的な症状と早期発見のヒント
マイナビニュース / 2024年12月2日 11時0分
-
「オトナの近視」は失明予備軍…40代から始まる「最近、見えにくくなった」を放置してはいけないワケ
プレジデントオンライン / 2024年12月2日 7時15分
-
なぜ? 10歳児童に「過失100%」判決! 信号無視でクルマに衝突事故で。 「子どもだからといって無責任ではない」声も!? 何があったのか
くるまのニュース / 2024年11月27日 9時10分
ランキング
-
1「余命1年」治療第2弾がん免疫療法のリアルな効果 副作用は軽く、旅行に行けるほど体調良好だったが…
東洋経済オンライン / 2024年12月21日 9時20分
-
2香取慎吾「2025年はソロでブレイク」超納得の理由 「国民的ソロタレント」としてのポジション確立なるか
東洋経済オンライン / 2024年12月21日 10時0分
-
3トヨタ『エスティマ』復活最新スクープ!…生まれ変わった天才タマゴに採用される技術とは
レスポンス / 2024年12月21日 7時0分
-
4災害時にも役立つ! 「ハンドソープ」の便利な持ち歩き方 警視庁が公開
オトナンサー / 2024年12月20日 22時10分
-
5高血圧の人はヒートショックの危険が増大する…薬を飲んでいても注意
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年12月21日 9時26分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください