【日産 セレナ 新型】e-POWER用エンジンは完全新設計!弱点の高速燃費も「まだやりようはある」
レスポンス / 2022年11月29日 12時0分
◆先代から、加速の力強さや運転のしやすさが格段に進化
新型『セレナe-POWER』に搭載する発電用エンジンは、新開発のe-POWER専用1.4リットル直列3気筒ガソリンエンジンだ。先代セレナe-POWERの1.2リットル直3ガソリンに対し、エンジン単体では出力を16%アップ(最高出力72kW/最大トルク123Nm)、組み合わせるEM57モーターも、20%出力がアップされた(120kW/315Nm)。これによって新型セレナe-POWERは、加速の力強さや運転のしやすさが格段に進化した。
このe-POWER専用エンジンを新規開発した経緯について、パワートレインEV技術開発本部 アライアンスパワートレイン エンジニアリングダイレクター兼パワートレインEVプロジェクトマネージメント部部長の木賀新一氏に伺った。木賀氏は、いま日産が出しているすべてのガソリンエンジンとe-POWER用エンジン、トランスミッション、CVTも含めたパワートレインの開発責任を一手に負っているエキスパートエンジニアだ。
◆発電用エンジンを新開発したのは「乗員が疲れにくくするため」
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今回の新型セレナ(C28)の開発目標は、「家族みんなでの特別なお出かけを、心から楽しみ尽くせるミニバン」だ。木賀氏によると、家族でのお出かけをより楽しむため、新型セレナではロングドライブでの快適性、具体的には、長時間ドライブでも疲れにくく、クルマ酔いも引き起こさない走行性能を目指したという。
疲れにくく酔いにくい走行性能を目指すため、着目したのが「会話のしやすさ」だという。騒音下での言葉の理解には、実は高い集中力が必要であり、会話の邪魔となるノイズが大きいと、乗員は疲れやすくなってしまう。そこで新型セレナで重視したのが、静粛性を高める対策だったそうだ。
静粛性を向上させるとなると、通常は、遮音ガラスや吸遮音材を増やして対策を行うところだが、先代セレナe-POWERでは、発電するためにエンジンがかかると、かなりの大きさで車室内へとノイズが入ってきていたこともあり、遮音による対策だけではなく、エンジンも、より静かで滑らかにする必要があると考えたそうだ。
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新開発のe-POWER専用1.4リットル直列3気筒ガソリンエンジンでは、3気筒特有のエンジン振動を抑制するバランサーシャフトやフレキシブルフライホイール、さらには高剛性クランクシャフト、エンジン本体のボディ剛性向上など、対策を織り込んだことで余計な振動を解消し、また先代比で16%アップした出力によって、より効率的な充電が行えるようになった。また、出力を20%アップしたEM57モーターも、アクセルの踏み込み量を抑えることで騒音レベルを下げ、静粛性を高めることができたという。
それ以外にも、路面状態やナビルートから充放電ポイントを先読みしてエンジン作動頻度を制御したり、遮音ガラスの採用をはじめとして車体遮音構造をつくりこむ、といった対策もなされている。会話明瞭度は、先代を遥かに上回るそうだ(最上級のLUXIONは更に静か)。
◆弱点の高速燃費も「まだまだやりようがある」
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この新開発のe-POWER専用発電エンジンでは、通常のスターターでエンジンをかける方式をやめ、発電機でエンジンをかける方式へとチェンジしたことで、軽量化とコストダウンも実現している。また燃費改善のため、ポート噴射式を直噴式へと変更し、排気量もセレナクラスのミニバンの使われ方をシミュレーションして割り出したという、102ps(75kW)程の出力が得られる1.4リットルへと変更(先代セレナの1.2リットル直3 e-POWER用エンジンは最高出力95ps(64kW))。
新型セレナe-POWERの燃費は、「X」グレードが20.6km/リットル、「XV」「ハイウェイスターV」が19.3km/リットル、「LUXION」が18.4km/リットル。新型ノア/ヴォク(WLTCモード燃費23.0km/リットル)よりはちょっと負けているくらいまでは引き上げた(ちなみに先代セレナe-POWERはWLTCモード総合燃費18.0km/リットル、新型ステップワゴンは20.0km/リットル)。
ただe-POWERは、高速走行時の燃費が弱点だ。エンジンとタイヤを直結するモードを持たないe-POWERの場合、高速走行時には、エンジンがかかりっぱなしとなるため、どうしても燃費が伸びにくい。しかも、エンジンで発電したうえで、その電気でモーターを動かして走る、という2段階となるためにロスも大きくなり、直結モードのある他社車よりも厳しい状況だ。
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意地悪な質問ではあるが、この点について前述の木賀氏に尋ねたところ、「日産の電動車戦略に従い、e-POWERは大切にしていきたい。e-POWERの方がモーターサイズは大きく、路面を滑るように走るスムーズさ、未来的なクルマのイメージは他車よりも優れていると思う。一方で、いまのe-POWERは高速燃費が不利という事実もしっかりと受け止めている。ただその点に関しても、エンジン屋としてはまだまだ“やりよう”があると思っており、今後しっかりと対策していきたい」と話した。
日産が発表している、究極の効率を目指した定点回転エンジンや、その他の可能性(ポルシェのBEV『タイカン』のようにBEV用の2段ミッションの採用など、通常のモーター駆動車はギア1段のみ)も含めて、引き続きやることはたくさんあるそうだ。年々厳しくなる世界の排ガス規制へ対応するため、(日本でガソリン車の新車販売が禁止される)2035年になってもエンジン屋の仕事は終わることはない、まだまだ忙しくさせてもらいます、としていた。
◆ガソリン車を残したのは「ユーザーの声に応えたかった」から
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新型セレナのガソリンエンジンは、先代セレナで実績のある2.0リットル直4ガソリンエンジン。ただ、制御ロジックは最新版へとアップデートされ、エクストロニックCVTの改良(シフトバイワイヤ化と新コントロールバルブ)によって、よりスムーズな走行フィールへと改善された。しかも、嬉しいことに、パドルシフト付きだ。
『ノート』や新型『エクストレイル』で国内導入をやめたガソリンエンジン仕様を、新型セレナではどうして残したのか。こちらも木賀氏によると、「先代セレナは、ガソリン車が販売の半数を占める状況であり、お客様の声を見落とすわけにはいかなかった。ハイブリッド車の燃費の良さで、元を取ることは無理だとお客様も分かっており、それならばガソリン車で十分というお客様が多くいる。お客様の声に応えるべくガソリン仕様の新型セレナを残した」ということであった。
ただ海外でガソリン仕様を販売している新型エクストレイルについても、「本当は国内へも出したいところでしたが…」とし、国内はe-POWERのヒエラルキーを高める狙いを優先したそうだ。ただし「需要があれば出す」と、トップが言っているとのことで、臨機応変に柔軟な対応を日産は取っていくはずだ、ということだった。
エンジンにはまだまだ“やりよう”があり、排ガス低減と燃費改善、そしてパフォーマンス向上と、細かな部分を詰めれば、まだまだ追及できる可能性があると感じとれたのは、非常にうれしいことであった。引き続き、e-POWERの進化には、注目していきたい。
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