強烈なEVトレンドと先鋭化するICE…LAショーならではの電動化ヴィジョンとは
レスポンス / 2022年12月1日 9時0分
ロサンゼルスモーターショー(LAオートショー)は初回開催が1907年と、世界有数の歴史あるモーターショーでもある。1929年は会期中に会場が漏電火災に見舞われ、死傷者ゼロながら展示車両のほぼすべてを焼失する災難に遭った。当時の損害額は約100万ドル(今日の約1580万ドル相当=22億6000万円)に上ったが、数日後に会場を変えて再開したとか。かの大恐慌直前の景気もあったとはいえ、物資ならいくらでも替えが効くという彼の地の感覚にはそら恐ろしいものがある。
今、欧米で急進的なEVコンバート(変換)が起きている。だが日本と同じく資源の必要量は輸入で賄わざるをえない欧州と、資源輸出国であるアメリカでは、その実感だけでなく下地や背景も異なるといわざるを得ない。2022年のLAオートショーでは、テスラやリヴィアンのようなスタートアップのEVメーカーが出展せず、代わりにGMのような販売台数でも価格面でもメインストリームのメーカーのEVが、幅を利かせてきた。政府補助金による奨励策も打ち出されているとはいえ、EVの普及が本格化しつつあるともいえる。
◆電動化への野心を見せたGMの西海岸ツアー
2035年までにすべての新車の電動化すると述べているGMは、今年のLAでとくに野心的だった。地元デトロイト・ショーで9月にワールドプレミア発表は済ませてはいたが、『ボルト』に続くEVであるシボレー『エキノックス』、『ブレイザー』、『シルバラード』を披露した。いわばコンパクトSUV、ミッドSUVにダブルキャブのフルサイズ・ピックアップトラックという、全米の販売ボリューム上で大多数を占める人気セグメントをEV化した3モデルの「西海岸ツアー」といえる。
これらSUVの現地での車両価格は、エキノックスが約3万ドル(約430万円)~、ブレイザーが約5万ドル(約715万円)~。シルバラードはスタンダードモデルで約4万ドル(約572万円)、RSTモデルには約10万5000ドル(約3万9000円)とアナウンスされている。
実車を前にすると、とくにブレイザーの完成度の高さに目を見張るものがあった。ICE(内燃機関)の頃より明らかに質感の向上した内装に、スポーティなダッシュボード、さらに17.7インチの巨大なタッチスクリーンからメーターパネルは高輝度かつ高解像度であるばかりか、表示も相当に凝った高速アニメーションを用いていた。同じくGMのEVプラットフォームであるアルティウムに基づきつつ、最大航続レンジはエキノックスの300マイル(=480km)に対し、ブレイザーは320マイル(=512km)を見込んでいるという。
◆「体験」に力を入れたフォード、ジープ
対して『マスタング マッハE』や『ブロンコ』を一昨年、昨年と投入済みのフォードは、展示車両は『ラプター』など最新の追加モデルに留まった。その分、動的な展示つまり体験試乗に力を注いでいた。EVで排ガスが少ないからこそ、ホール内のインドア試乗スペースは以前より明らかに広く長く、コンクリートブロックで安全確保されたスペースが巨大化している。「ブロンコ・マウンテン」と名づけられた急坂あるいは不整路などで、登坂能力やヒルディセントアシスト、あるいは3輪でもトラクションが抜けないこと、さらにサスペンションの伸びなどの効果をデモ体験するのだ。
他に体験試乗に力を入れていたのはステランティス・グループのジープで、ブロンコより明らかに巨大で急角度のブリッジを含む巨大な特設コース「キャンプ・ジープ」を設営していた。ジープ陣営にピュアEVは今のところ、欧州生産で10月のパリサロンで発表された『アヴェンジャー』のみ。よって『ラングラー・サハラ4xe』、あるいは『グランドチェロキー4xe』といった最新のPHEVが体験デモ車両となるが、フル乗車に近いほど人を乗せながらほとんど音も立てずに急傾斜を、EVモードの力強いトルクで鮮やかに登っていく。ようは、EVのもてあますほどのトルクそしてバッテリー重量による重心の低さは、こういった使い途こそ有効なのだ。
◆アメリカでしかあり得ない「ラム・トラック」のパフォーマンス
パフォーマンスはつねに実証主義で、ショーの要素を含むアメリカでは、やはりアメリカでしかありえないコーナーもある。それがラム・トラック・テリトリーだ。6.7リットルの直6ディーゼルとか、6.4リットルのV8ヘミを積むライト・デューティもしくは後輪デューリーのヘビーデューティ仕様が、なんと屋内で体験できるのだ。
先述の本格オフローダー用特設コースよりは傾斜は緩やかだが、ノーマルとはいえ巨大な体躯をある程度リフトさせたトラックのロードクリアランスを、不整路で経験したり。あるいはディーゼルの牽引トルクやキャパシティを見るため、ヘビーデューティ仕様の『ラム3500デューリー』に、滑車を介して実際に3万7090パウンド(17トン弱)のウエイトに繋ぎ、見事に持ち上げてしまう。体験試乗を兼ねた、なかばショーのようなものだ。
ただしこれらの、往年のビッグブロックの伝統を繋ぐ巨大排気量のICEモデルと並行して、ラムは来年のCESで『ラム・レヴォリューション・コンセプト』というEVのフルサイズ・ピックアップトラックのコンセプトを、来年のCESで発表する予定にある。国土の広いアメリカでのEVの実需あるいはそれに対する自動車メーカーの対応は、通信規格の世代が変わる毎にアップデートが必要になって、カバー率が多少なりとも心許なくなる携帯電話ネットワークのようなもの。まだEVでは100%近くまでまかないきれない用途やエリアがある、というだけだ。
◆フィアットが米市場へ『500e』投入を宣言
一方で同じステランティス・グループ内からは、フィアットが『500e』をアメリカ市場に導入することを今回のLAオートショーで発表した。500eはバッテリー容量は42kWhでリアルの航続レンジが165~355kmとされるコミューターEV。記者会見でスピーチしたオリヴィエ・フランソワCEOは、「500eでアメリカのすべての地域をカバーできるとは思っていない」からこそ、都市部でセレクティブに展開する意向を明らかにした。
とはいえこの日、フィアット・ブースに姿を見せた500eは、移動をまかなうだけの実用コミューターからは程遠かった。本来なら2020年ジュネーブ・モーターショーでお披露目されるはずだったがコロナ禍で中止されたため、オンライン画像で公開されていた500eのスペシャル・プロト、ブルガリ/カルテル/ジョルジオ・アルマーニの各仕様が展示されたのだ。ようは500eは、アシとして必要で乗ることはあってもライフスタイル・プロダクト、というメッセージだ。
加えて各ブランドがノウハウやスタイルを巧みに凝らした、500eの仕立てや質感をリアルで確認できる機会でもあった。カルテル仕様のグリルやホイールカバー、ドアミラーカバーのメッシュは、同社が得意とするインテリア照明を彷彿させた。500eの「アルマーニ仕様」はドアを開け放って内装も公開された。ボディパネルにはわざわざレーザーでヘリンボーン柄が一列づつ刻み込まれ、グレー/ベージュの柔らかトーンの内装レザーやファブリックと統一したモチーフとしなっていた。いずれも凝った造り以上に、小さくても乗り手を包み込み、見る者に語りかける世界観を備えたEVといえた。
◆ICEの中で存在感を放った『コルベット』
他方では、すでに存在する世界観をさらに尖らせたICEも際立った。シスポーティな車は多々あるアメリカ車で、唯一のスポーツカーとされる『コルベット』、その最強版である「ZR06」の2023年モデルが、シボレー・ブースにクーペとコンバーチブルとして展示されていたのだ。コルベットは早ければ2023年に電動化するとしているが、おそらくはICEのV8コルベットの最終スペックとなるであろう5.5リットルV8「LT6」の究極スペックが、今回の2023年モデルと予想される。
軽量のフラットプレーンクランクシャフトを採用し、バルブやピストン、コネクティングロッドにチタンや鍛造パーツが惜しみなく奢られ、最高出力670hp/8600rpmと、パワフルかつ高回転型パワーユニットとなった。このパワーを受け止めるためボディの全幅もタイヤサイズも拡大され、8速デュアルクラッチATのファイナルギア比を下げている。オプションのカーボンホイールを装着すればバネ下重量を18.6kg軽くすることもできる。結果として、60-60mph加速は2.6秒、コーナリング時の最大発生Gは1.22Gに達するとか。
変化は兆してもリスクをことさらあげつらうより、乗ってみれば分かるといわんばかりの大らかさ。車のあらゆる多様性を否定しない楽観主義的な寛容は、LAオートショーを通じて確かに感じられた。
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