【MaaS体験記】神戸ウォーターフロントの活性化に寄与するモビリティ…低速自動走行モビリティ「iino」による実証実験
レスポンス / 2022年12月1日 11時0分
今回の取材は、神戸メリケンパーク南西部において、神戸ウォーターフロント開発機構がゲキダンイイノ(関西電力グループ)と自動運転モビリティを活用した実証実験だ。
低速自動走行モビリティ『iino(イイノ)』を複数台運行し、商業施設にとどまりがちな観光客の移動を促し回遊性を高めるねらいがある。今回はその体験会に参加してきた。
◆神戸ウォーターフロントとは
神戸三宮の南に位置し神戸港に面した、神戸ウォーターフロントエリアは、かつての物流拠点とは異なり、神戸ポートミュージアムや水際緑地などが整備され、神戸らしさに満ちた魅力的な街として変貌を遂げている。
神戸市の外郭団体、神戸ウォーターフロント開発機構は、神戸市が掲げる「『港都神戸』グランドデザイン」や「神戸港将来構想」に基づいて再開発を進めており、今回の実証もウォーターフロントエリアの回遊性の向上と賑わい創出に取り組むものだ。
2024年には、神戸ポートタワーのリニューアルや大規模多目的アリーナ「KOBE Smartest Arena」の建設も予定されており、このウォーターフロントエリアの再整備は神戸市の重点投資項目にあげられている。このエリアの回遊性向上に向けた調査・検討事業も数多く計画されており、本実証はその回遊性向上にあたって移動手段の事業化検討のひとつにあたる。
◆回遊性の課題とモビリティによる解決方法
2022年4月より、都心からウォーターフロント間を運行する連節バス「Port Loop(ポートループ)」が新神戸駅まで延伸したことにより、遠方からもアクセスしやすくなった。一方、このエリア西側に位置する複合商業施設「モザイク」から東側の複合文化施設「神戸ポートミュージアム」へ最短距離で歩くと21分以上かかり、歩くには遠く交通機関を利用すると遠回りになる、というモビリティの課題があった。
本実証では、時速5kmの自動走行モビリティiinoを導入し、このエリアの回遊性と滞在性に加え、事業化を見据えた収益性と受容性を調査・検証する。iinoを提供するゲキダンイイノは、関西電力出資の合弁会社で、今年6月にも神戸メリケンパークで実証実験を行っているため、2度目の実証となる。
実際に「モザイク」のある西側から東側を見ると、間にいくつもの埠頭用地や中突堤があり入り組んでいる様子が伺える。そのため、観光客は商業施設に滞在するだけか、移動する際にも最短距離で動くため、この入り組んだエリアは普段は利用されない、とゲキダンイイノ代表の嶋田悠介氏は話す。そのL字型になっているエリアに、ヨーロッパなどでも見かける「HOP ON HOP OFF」つまり乗り降り自由のモビリティを導入して「乗るとたのしくなる、ゆっくりモビリティ」を展開する。
木製のフォルムに、5人程度(大きいもので8人程度)が乗れる自動走行モビリティiinoは、いわゆる自動運転技術を用いており、専用のカメラや3D Lidarなどのセンサーを搭載している。実証前にこのエリアの人流は屋外に設置した3台のカメラで分析しており、実証中に車両の3D Lidarから歩行者なども含めカウントし、時間帯によりこのエリアに最適な台数が配備されること、また、そのときに最適なルートで走行されること、これらが今回の実証ポイントとなる。
さらに、車両前方に搭載されたセンサーにより、車両の前に人が通ると自動で停止するしくみや、乗り降りするときには車両の踏み台エッジ部分に足を乗せることで、自動で減速する様子が興味深い。最大5kmでの走行のため、途中で減速したりする横をいっしょに歩いてみると、歩くほうが早く到着する場合もあった。
◆自動走行モビリティの課題
今回は種類の異なる3台の車両を同時に自動走行させており、それぞれが決まった速度で決まったルートを行き来する。少し離れたところでノートパソコンを凝視していたゲキダンイイノの北田剛士氏に話を聞くと、車両のまわりにあるセンサーで位置情報を転送して走行管理をしていると言う。走行状況をモニタリングしている程度で、とくに操作しているわけではないと話す。ゲキダンイイノでは、今回の実証実験がこれまででも最大エリアでの実証だと言う。各車両にはドライバーが不在のため無人ということになるが、公道を含む場所も近くにあるため、近接監視スタッフが安全確保のため同行している。
さらに、今回はポップコーンマシンを搭載するタイプも走行し無人で調理と販売を行う。ゲキダンイイノの嶋田氏は、神戸メリケンパークの神戸港をのぞむ階段上のエリアには、友達やカップルが等間隔に座って動かないなど観光客が移動しない課題もあると説明する。そのため、スタジアムのビアガールをヒントに、移動しない観光客向けにモビリティが出向いていく仕掛けを考案したと言う。
◆乗り降り自由で運賃ゼロのねらい
乗り降り自由で運賃ゼロ。今回検証したいことは、最短距離で目的地に向かう移動手段としてのモビリティではなく、大型商業施設が複数あり公園などもあるこのエリアをモビリティでつなぎ、その場所の体験価値を向上させることにある。そのため、運賃ゼロの代わりに、走行ルート上での物販や時間限定でのクルージングコンテンツなどを実施することで新たな収益性を検証する試みだと嶋田氏は話した。
嶋田氏は「自動運転の取り組みでは、技術検証がほとんどで、場所の活性化やモビリティがその空間にどう寄与するのかを検証している取り組みはまだ少ない」と述べた。今回の検証は、いかにその場所の魅力を創り出すことができるかや、寄り道を増やすことなどが重要だと言う。
一方、事業化に向けて収益性が問われている。前回6月の実証では、運賃ゼロはもちろん、アンケートに答えるとレモネードがタダでもらえるという内容だったが、今回は収益性をふまえて、運賃ゼロはそのままに、モビリティの発着拠点に神戸発クラフトビールやホットドックを販売する。とくに、公道を含む場合には、監視員が多く必要となり、そのための人件費が多くなると言う。技術的には、決まった速度やルートでの走行には、ドライバーは不要となり人件費を抑える効果が本来あるはずだが、走行環境に合わせることのほうが逆にコストになっている。
◆空間の活性化に寄与するモビリティ
自動運転にはさまざまな種類がある。ゴルフカートを活用したグリーンスローモビリティ(グリスロ)もそのひとつになるが、今回の実証で導入している低速の自動走行モビリティiinoは少し違う。「動く歩道」という表現が近いこのモビリティは、人が動かなくても移動してくれる便利な乗り物というよりは、人が移動していることをアシストしてくれるようなロボットのように感じた。
もちろんルートは決まって走行してはいるが、決まった「道」を走行するというより、「エリア」を縦横無尽に動いているほうがこのモビリティらしい。目的の方向に行きたいから乗るのではなく、なんか動いているから乗ってみた、というほうがゲキダンイイノが求めている姿には近いのではないだろうか。
この場所の活性化という新しい視点により、このモビリティへの評価は分かれるだろう。「乗り物=運賃」という単純な価値交換ではなく、「場所=人の往来」という体験価値にこそ、このモビリティは活かされる。したがっって、実証結果も定性的なアンケート評価ではなく、その場所の活性化に値する定量評価が出てくることを期待する。
「道路交通法の改正を目前に控え、低速の自動走行の分野は来年また大きく飛躍する」とゲキダンイイノの嶋田氏は語っていたのが印象的だった。
■3つ星評価
エリアの大きさ★☆☆
サービスの浸透★☆☆
利用者の評価★★☆
事業者の関わり★☆☆
将来性★★☆
坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室室長
グラフィックデザイナー出身。
2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。
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