「マグネシウム空気電池」開発とEVの可能性…玉川大学キーマンに聞く
レスポンス / 2022年12月5日 7時0分
国内の大学が、世界のソーラーカーレースに挑み、トラブルや想定外の天候にみまわれながらも実績を残し、これまでニュースでいろいろとり上げられてきたけど、大学内に製造・開発ガレージに加え、カーボン製ボディ・シャシーも自作できる工房がある大学はめずらしい。
そんなボディ・シャシー自作工房があるソーラーカー開発現場が、玉川大学工学部エンジニアリングデザイン学科(サスティナブルエンジニアリング研究室)斉藤純准教授が率いる、Next Gen. Mobility WorkShop(ケムカー工房)。
ガレージ内には、太陽電池+マグネシウム空気電池のハイブリッドカー「未来叶い」や、市販EVをベースにマグネシウム空気電池のみでの走行を実現させた「Mg空気電池実験車両」、メカニカル充電方式マグネシウム空気電池で走る「S-Mg concept」などがいて、そのまわりにあるフリーアドレスのデスクで学生たちが研究活動に参加し、思い思いに実験や制作、プログラミングに取り組んでいる。
◆Mg循環、バイオマス水素、太陽光を併用した独自モデル
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玉川大学では、2003年にソーラーカーの安定した走行を目指し、水素燃料電池と太陽電池を組み合わせたハイブリッド・ソーラーカー「アポロンディーヌ号」を試作。世界で初めてハイブリッド・ソーラーカーによるオーストラリア大陸横断4000km走破を成功させた。
前出の大学保有ソーラーカーのとおり、2016年からはマグネシウム空気電池を搭載したハイブリッド・ソーラーカーの研究に着手。現在は、Tamagawa Sustainable Chemistry-powered-vehicle Project(TSCP)が、水素やマグネシウムなどの再生可能エネルギーや資源循環型エネルギーを有効利用したエネルギーキャリアとその利用について、SDGs時代をリードする研究をすすめている。
玉川大学がほかの大学のエネルギー研究分野と違うのは、マグネシウム空気電池で、マグネシウムを再生可能エネルギーや余剰エネルギー、未利用エネルギーで再精錬して資源循環型エネルギーとして使用する「Mg循環」、雑木や雑草などのバイオマス資源による有機酸から得た水素エネルギー「バイオマス水素」、これらの「エネルギーキャリア」を太陽光発電など再生可能エネルギーと併用してモビリティのエネルギー源にすることをめざしている。
◆海水中に0.13%含まれるマグネシウムに着目
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前出のソーラーカー「S-Mg concept」は、メカニカル充電方式を採用し、試作段階でもマグネシウム1kgで曇天時のハイブリッド走行で96km走行を記録。「こうした技術を応用し、送電網に依らないインフラを離島や遠隔地、災害時などに展開し、マグネシウムによるエネルギー貯蔵・輸送・地産地消が実現できる」という。
玉川大学 工学部 エンジニアリングデザイン学科 斉藤純 准教授は、「モビリティの電動化が進み、V2Hなどエネルギーの使い方だけでなく蓄え方も選択肢が広がっている。その手段は水素だけでなく、もっと多様化がすすんでいいと考えている」と唱え、こう続けた。
「マグネシウムは海洋資源から調達して再生可能エネルギーを蓄える手段として大きな可能性を持っている。地域ごとの特性を活かした地球環境に優しいエネルギーの地産地消のひとつとしてモビリティのエネルギー源に有効活用できる。
マグネシウム空気電池は、マグネシウムと大気中の酸素が反応して発電する。そこに塩水の電解液を入れる。川の水でもジュースでもいい。そこに塩だけあればいい。保存性のきく電池として注目を集めている
マグネシウムはまんべんなく地表に存在していて海水中にも0.13%含まれている。電池の主な材料がマグネシウム、炭素、塩と水で構成されているのが特徴で、安全性の点もモビリティに活用できる」
◆ヤシガラや竹などで電極も開発
![](https://response.jp/imgs/zoom1/1826413.jpg)
「海水から自然エネルギーを使ってマグネシウムがとれる。環境負荷がほぼない。劣化しない。そこに着目している。玉川大学は今後、電極も開発していく。ヤシガラ、竹などの活性炭のような持続可能な材料を使って電極をつくる。
電池そのものを自然由来のものからつくろうと考えている。また、化石燃料は消費するいっぽうだが、マグネシウムから発電すれば、発電後に水酸化マグネシウムに溶けるだけ。これを再生可能エネルギーでリサイクルする技術の開発にも取り組みたい」(斉藤准教授)
工学部・農学部・芸術学部・教育学部・文学部・経営学部リベラルアーツ学部・観光学部などをもつ総合大学の玉川大学は、2023年4月に工学部に新たに「デザインサイエンス学科」を開設予定。
このデザインサイエンス学科は、プロダクト・ロボット・環境の3領域でプロをめざせる、玉川大学の新たな学び場で、プロダクトデザインやマネジメントの先、知財、著作権、マネタイズ、量産化、安全性の担保、責任性、リスクヘッジ、特許取得などまで、プロダクトが世に出ていったあとも関わるビジネススキルの習得した人材育成をめざすという。
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