【BYD ATTO 3】もっとも影響を受ける競合EVは?…日本での価格と販売体制が明らかに
レスポンス / 2022年12月6日 15時0分
11月5日、BYDオートジャパン代表取締役社長 東福寺厚樹氏が、2023年1月31日から国内販売が始まるBYD『ATTO 3(アットスリー)』の販売価格やサポート体制について発表した。まずは1モデルのみ販売で、価格は440万円(税込)。
◆意匠や設備を統一したディーラー展開
BYDの日本市場参入について、2022年7月の発表以降、中国国内や海外での価格帯から「300万円台の可能性もある」という声もあったが、東福寺社長が事あるごとに「価格勝負の売り方はしない」と発言していたとおりの価格となった。しかし、本体価格が400万円、CEV補助金対象(現行規定では最大85万円)であること、自治体によっては別枠の補助金の対象にもなり得ることを考えると十分な競争力を持つ価格ともいえる。
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ディーラー網や販売体制については、まず国内22店舗を「開業準備室」として23年1月から順次オープンしていく。22店舗は発表時点で確定している拠点であり、交渉中や契約手続き中の店舗は含まれていない。リストにない地域も順次増えていくとする(東福寺社長)。開業準備室としているのは、BYD Auto JapanのディーラーショールームはロゴのほかLEDイルミネーションなど一定の基準で意匠が統一される予定だからだ。店舗によっては仮設の店舗、ショールームになる可能性があるが、商談、試乗などディーラー機能はすべて備えた形でのオープンとなる予定だ。
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なお、BYDディーラーは、50kW級のDC急速充電器の設置が営業の条件に含まれている。充電器の設置はディーラーの責任(負担)で行うが、国内でも充電サービスや設置代行といったプロバイダービジネスが立ち上がりつつある。場所だけ貸せば少ない投資で急速充電器の設置が可能だ。
余談だが、90kW、150kWといった高圧充電器の場合、保安装置(キュービクル)の設置や事業契約の条件がある。高出力の充電器はまだハードルが高い状態だが、海外では150kW以上の充電器が増えており、商用利用でも経路上の高出力充電が必要とされている。
貧弱な充電インフラは、大容量バッテリーの輸入車の障壁となり国産EVには有利かもしれないが、グローバルで通用しない車両や規制の中では国際競争力が落ちるばかりだ。安全設備を省略する必要はないが、事業許可の要件緩和などは行政や電力会社に期待したい。
◆ユーザーフレンドリーな全部入りモデル設定
ATTO 3は国によっては複数グレードが展開されているが、日本においては単一グレードでの販売開始となる。ただ、追従型オートクルーズコントロールやレーンキープアシストといったレベル2対応の各種ADAS機能、ヒートポンプ、ナビ、コネクテッド機能、OTA、アラウンドビューやドラレコ、シートヒーター(運転席・助手席)、PM2.5空気清浄システム、タイヤ空気圧モニタリングシステム(TPMS)、パノラマサンルーフ、電動テールゲート、E-Call(緊急時自動通報)など、最近の乗用車の上位グレードと同等な設定といってよい。
オプション設定は、不要な装備を省いて軽量化やコストダウンが可能で、ユーザーの選択肢を増やすメリットがあるが、メーカーオプションやディーラーオプションの違い、オプションセットの組み合わせによっては購入費削減にならない、組み合わせが複雑でわかりにくいといった欠点もある。自分に合ったグレードやオプションを選ぶという楽しみはあるが、実態はほぼ作り手売り手の事情と言えなくもない。
現在は、コネクテッド機能やOTAによって、後からサービスや機能を追加することができる。最初から全部入りの共通設定で販売し、アプリやアップデートで付加価値を提供するスタイルのほうがユーザーフレンドリーかもしれない。ATTO 3の場合、OTAによるリモートアップデートの予定があるというので、今後の機能追加が期待できるかもしれない。OTAは国産車でも新車のほとんどが対応しているが、(セキュリティ対策やトラブル時対応のため)更新はディーラー持ち込みが条件となっている。
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◆WebナビのUIと機能に期待
コネクテッド機能関連では、車載ナビにも注目したい。ナビの地図データはゼンリンものを利用して日本語に対応したものがインストールされるのだが、Webアプリ方式のナビだという。一般的なメーカーナビ、ディーラーナビは、ナビ本体のハードウェアとともにインストールされるスタンドアロン方式だ。
Webアプリ方式のナビは、地図データや探索・ルートガイドアルゴリズムはクラウド上にあり、車両からはIVIなどインフォテインメントシステムのアプリを介して利用する。
Android AutoやApple CarPlayと同様のナビということだ。つまり、地図、目的地情報の更新や探索アルゴリズムの他の改善はクラウド上で行われるので、本体データやソフトウェアの更新作業が必要ない(コネクテッドサービスの契約内容に依存する)。日本語対応したナビは来年1月にならないと日本に入ってこないそうだ。そのため、日本仕様のナビの評価ができていない。
だが、Google Mapsのナビ機能は人によって評価が分かれる。このことを考えると、従来型のスタンドアロンナビに慣れた人は、ひょっとすると、ATTO 3のWebナビを使いにくいと感じるかもしれない。
◆EVオーナーにうれしいBYD専用保険も設定される
BYDオートジャパンは、SBI損保、損保ジャパン、東京海上日動らを引き受け会社とするBYD専用自動車保険も用意した。正規ディーラーへの入庫・修理を条件にタイヤ、ホイール、バンパー、ドアミラー、ドア、ガラスについて、保険期間中どれかひとつを1回まで無償修理することができる。ガラスはフロントシールドだけでなくすべてのウィンドウに適用される。パノラマサンルーフのガラスも補償対象だそうだ。
ミドルサイズSUVの場合、横幅が1800mmを超えるものが多い。ホイールやバンパーは意外と傷がつきやすい。駐車場の輪留めや縁石が鬼門だったりする。地味にうれしい補償内容だ。
◆ライバルとなる車種は?
東福寺社長は記者会見でも「特定の車種や車両をベンチマークやライバルとして意識はしていない」と発言している。しかし、ATTO 3の440万円は、見方によっては競争力のある戦略価格だ。ATTO 3によって影響を受ける車種モデルはあるのだろうか。
SUVというカテゴリでは、ヒョンデ『アイオニック5』、日産『アリア』、テスラ『モデルY』が真っ先に浮かぶ。これらの価格はともに500万円以上であり、ATTO 3の400万円台は非常に脅威となる。ATTO 3の内装もよくできており、スポーツジムをモチーフにしたというインテリアは洗練されている。外観もスポーティーでアグレッシブな感じもする。しかし、筆者の試乗体験や取材した範囲では、アイオニック5、アリアともに内装のプレミアム感はATTO 3よりも高いと言える。
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ただし、スペック表の機能や特徴だけを比べると、アイオニック5やアリアと大きな違いはない。EVであること、CASE車両としての機能がほしいという層にはATTO 3のほうが手が届きやすい。
むしろ影響を受けるのは、日産『リーフ』やプジョー『e-208』あたりかもしれない。折しもリーフは値上げを発表しており、ATTO 3はリーフe+よりも安くなっている。現行リーフのパッケージングは非常に高く、普段の買い物からちょっとした旅行もこなせる。ディーラー網やEV販売ノウハウも十分で、信頼性には10年以上発火事故を起こしていない実績が裏付けとなっている。ワンペダル操作も、他社EVが完全停止制御を嫌っているため、貴重な差別化ポイントだ(ATTO 3の回生ブレーキはガソリン車のフィーリングに合わせている)。価格や装備をどう評価するかによって、ATTO 3を選ぶユーザーがいるかもしれない。
輸入車同士ではVW『ID.4』とも競合しそうだ。価格ではATTO 3だが、EVとしての機能や特徴は拮抗している。ガソリン車からの乗り換えでも違和感のない設計ポリシーも共通だ。VWならではの細部の作りこみやブランドを評価ポイントとするならID.4。そうでないならATTO 3はお買い得だ。同様のことはe208にも言える。プジョーの足、インテリアはやはりプジョー車でしか得ることができない。
しかし、国内市場においてそもそもEVのカバー領域は穴だらけだ。ATTO 3はEV SUVの中ではこれまでにない価格帯モデルだ。セダンやスポーツプレミアム、実用重視の軽・コンパクトでもない。ATTO 3の登場は、既存EVと市場を奪い合うというより、セグメントの穴埋めとして市場を盛り上げる存在と評価すべきだろう。
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