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「MaaSはスタート時点では儲からないもの」、日本の課題と可能性…MaaS Global[インタビュー]

レスポンス / 2022年12月12日 14時45分

いまやモビリティサービスを語るうえで欠かせない概念になったMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)が北欧フィンランドで生まれたことは、ご存知の人もいるだろう。「MaaSの父」と呼ばれるサンポ・ヒエタネン氏の構想を国がバックアップする形で開発が進み、その過程でMaaSという言葉も編み出し、世界初のMaaSオペレーターであるMaaS Global(マース・グローバル)が組織され、世界初のMaaSアプリ「Whim(ウィム)」が誕生した。


それから6年を経た2022年。パイオニアであるMaaS Globalの日本法人が、新たなビジネスをスタートさせるという。日本でも各地でMaaSが展開されつつある今、なぜ本家本元が積極姿勢に出たのかMaaS Global Japanの日本カントリーマネージャーを務める嶋田智之氏に話を聞いた。


◆日本参入の理由は、MaaSの最適国だから


---:MaaS Globalが日本法人を設立した理由を教えてください。海外ではこのような法人組織はあるのでしょうか。


嶋田智之 日本カントリーマネージャー(以下敬称略):日本法人を登記したのは2019年で、翌年9月から実証実験を始めました。海外ではスペインやスイスなどに現地法人を構えており、フィンランドの本社が直接関わることもあります。


日本参入の理由は、MaaSの最適国だからです。公共交通が高度に発達しており、歴史も長く、正確です。島国であり、フィールドがクローズドであるところも、展開には有利です。モビリティサービスを享受できるベースが整っていると言えます。


---:これまでの日本国内での事業展開の実績、実証実験で得られた成果・知見を教えてください。


嶋田:2020年に千葉県柏の葉と東京の日本橋、2021年は東京の豊洲と日本橋で不動産×MaaSの実証実験を展開しました。いずれも三井不動産のマンション住民が対象です。


三井不動産はMaaS globalの株主なので実証はしやすいし、それが出資の目的でもあったと考えています。他の出資者でも、たとえばあいおいニッセイ同和損害保険はMaaS保険を発売したりしています。マルチモーダルな移動を保険対象にするという画期的な内容です


---:柏の葉での実証実験について、もう少し詳しく教えてください。


嶋田:柏の葉ではMaaSをシンプルに検証してもらい、どのぐらい関心を抱き、どういう感想を持つかを検証しました。都度利用とサブスクを用意するというメニューはヘルシンキと同じで、定額制プランの無償トライアルから開始し、その後、数種類の有料プランを試行しました。例えば、バイクシェア10時間とバスの300円チケット5回分、カーシェア10時間分が含まれるプランや、1万円の定額プランで1万2000円分の乗り物が利用できるプランなどを提供しました。


---:利用者の反響はどうだったのでしょうか。


嶋田:参加者は約50人で、説明前はMaaSに関心のある人は7%にすぎませんでしたが、説明後は30%に跳ね上がりました。そのうち40%は若者が占めています。結果を見ると、サブスクの契約者は都度利用の6.4倍アプリからの移動を引き出しました。どのくらい使うかの意向調査では、週2回が20%ともっとも多かったですが、毎日使うと答えた人も3.6%いました。


◆ビジネスのカギは「本質的な理解」


---:現在は日本国内で多くの事業者がMaaSを展開しています。その中で貴社の持つ強みはどこにあると考えるでしょうか。


嶋田:まずはグローバル展開をしていることです。欧州ではスイス、ベルギー、オーストリアなどで展開しています。それがシームレスというMaaSの概念でもあると思っています。ゆえにマルチリンガルでもあります。6カ国対応で、外国に行っても母国語や母国通貨で表示できます。


ネイティブアプリであることも特徴になります。アプリの開発はコストが掛かるので、日本ではウェブで展開するものが多くなっています。ウェブ方式はタクシーを選ぶと違うアプリに飛び、そこで新たに個人登録するパターンが多くなっています。ネイティブアプリは最初に登録するだけなので、はるかに便利です。


---:日本では「MaaSは儲からない」という言葉もよく聞かれますが、これについてはどう考えていますか。


嶋田:MaaSについて本質的な理解がなされていない例を見かけます。儲かる仕組みを作らず、システムを回すことが目的になっている。日本では交通事業者がMaaSを作る例もあります。これは日本だけの現象です。自分の会社しか乗せない、乗れないという状況を作りがちになってしまいます。


そもそもMaaSはスタート時点では儲からないものです。仕入れコストを抑え、サブスクユーザーを増やしていくことがビジネスモデルです。欧州ではWhimは「モビリティのネットフリックス」と呼ばれることがあります。ビジネススタイルを理解した言葉だと感じています。


◆「Whim ホワイトレーベル版」の導入


---:9月27日に「Whim ホワイトレーベル版」の導入を発表しました。導入のきっかけと、世界に先駆けて日本に先行導入する狙い、採用企業が得られるメリットについて教えてください。


嶋田:日本は世界では珍しく、アプリの自社開発を重視する傾向があります。しかしながら前にも話したように、アプリはコストが掛かります。Whimもこれまで約60億円投資しています。自社のアプリを作りたいが思うように作れないというジレンマに陥っている自治体や事業者は多いと想像しています。そういう方々にWhimのプラットフォームを、名前を使わずに使っていただければと考えました。


---:それでも導入費用はかさむと思いますが。


嶋田:グローバルでは、MaaSの運営費用は毎月数百万円レベルが一般的です。しかし日本の自治体がMaaSに割けることができる予算は、月20~30万円ぐらいだと思います。そこで私たちでは、10~15の自治体や企業が集まり、割り勘により導入してもらうことを提案します。隣接する自治体で同じプラットフォームを使うので、利便性も高まるでしょう。


◆黒船でもなくプラットフォーマーとも違う


---:日本のMaaSには、どのような課題と可能性があると考えていますか。


嶋田:国土交通省の担当者に話を伺うと、かなり先まで交通を見たうえでMaaSの設計をしていて、その点では当社と合致しています。日本でもデータを全国展開する想定はあるようです。人口が減っていけば交通ビジネスは厳しくなります。だからこそ規模の経済が大事であり、収益を上げることで厳しかった路線が健全に運行できるようになります。


さらに自動運転やシェアリングなど、モビリティサービスの種類が増えつつあります。既存の公共交通とこれらをつなげるためにもMaaSは重要です。私たちも乗合サービスの「ニアミー」とはつながっていますし、仕組み以外の部分も提供していくつもりです。


---:外国企業であることを気にする人がいるかもしれません。


嶋田:私たちは黒船ではありませんし、プラットフォーマーとも違います。私たちの目的は、つなげることです。MaaSはみんなが使えてこそ価値がある。だからこそユニバーサルで使えるサービスを構築していく必要があります。今回発表したホワイトレーベルもその一環で、ひとつでも多くの自治体や事業者とつながっていくことを目指しています。


---:他のMaaSオペレーターとの連携が大事になるということでしょうか。


嶋田:MaaSアプリをすでに展開している交通事業者のなかにも、Whimと連携して地域ごとにつなげていくことを協議している企業があります。JR東日本が導入を考えているQRコードや、VISAカードのタッチ決済とも連携できます。


大切なのは“移動の自由”というビジョンです。当社CEOのサンポ・ヒエタネンからも、「交通は何を提供するかを自問自答しなさい」と常に言われます。なので私たちは他のオペレーターをライバルとは見ていません。ひとつの会社でMaaSは独占できないからです。全部がつながることが大事なのです。


【Whim ホワイトレーベル版】
MaaS Global Japanは、MaaSアプリ「Whim(ウィム)」を自社アプリとして運用できる「ホワイトレーベル版」の募集を10社限定で10月1日より開始した。日本へはグローバルで先行導入となる。


現在Whimは、日本国内でバイクシェア、カーシェア、タクシー、相乗りシャトルの4つの交通モードを提供している。ユーザーは個人情報と決済方法などを登録するだけで、これらの交通を自由に検索、予約、決済することができ、従来必要となる各種交通への会員登録やサービス利用時の個別のログイン、アプリの切り替えなどの手間が不要になる。


「Whim ホワイトレーベル版」は、アプリに搭載された交通モードと機能のすべてを、日本で要望の多い「自社ブランドアプリ」として運用できるプラットフォーム。交通事業社だけでなく、様々な業種の企業やブランドが交通の提供を付加価値サービスとして活用することが可能となり、企業によっては、ポイントやクーポンなどの自社の既存サービスと連携させる ことでサービス価値の差別化や顧客エンゲージメント向上に応用することが可能だ。


MaaSアプリを自社で一から開発しようとすると、莫大な開発コストが必要となる。運用・メンテナンスのコストも利用の有無に関わらず発生するため収益化が難しい。MaaS Globalでは、 Whimのホワイトレーベル版の提供により、自社ブランドへのカスタマイズの初期コスト以外を月額のプラットフォームレンタル料のみで自社アプリとして配布、運用することを可能にし、参入リスクを小さくする。


Whimは今後も新たな交通モードを追加予定とのこと。そのコストもホワイトレーベル各社で負担を分けることができ、参画各社にとって安価に交通サービスの拡充が可能となる。また、同アプリでの交通利用で得られる収益がホワイトレーベル版各社に分配されることで、ユーザー数と利用額が増えるにつれ収益化を図ることができ、各業種の付加価値サービス向上 にとどまらず、MaaSサービス単体として見ても収益化を実現するとしている。

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