【VW ゴルフR 新型試乗】“R”が成立するのは、やはりゴルフの素性がいいからなのだ…渡辺慎太郎
レスポンス / 2022年12月21日 12時0分
現行のVW『ゴルフ』のフラッグシップモデル(=車両本体価格が1番高い仕様)である『ゴルフR』は、プレスリリースによれば「ゴルフ史上最もパワフルなハイパフォーマンスモデル」だという。昭和生まれのおっさんである自分なんかは、「ゴルフのスポーティモデルはGTIでしょう」といまだに思っていたりして、あらためてちょっと調べ直してみた。
◆操舵を楽しむGTIに対してRは速さを楽しむゴルフ
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自分はゴルフで“R”と言ったらいまでも3代目ゴルフの「VR6」がすぐに思い浮かぶくらいの旧い人間である。おそらくゴルフに“R”が冠された最初のモデルがこのVR6だったと記憶している。VR6はVWとしては初めての量産V型6気筒エンジンを搭載したモデルだったが、バンク角がわずか15度という狭角の大変ユニークなユニットだった。
当時の『コラード』や『パサート』にも採用され、ゴルフでは5代目までがこれを使い、いつしか「R32」と呼ばれるようになった。だからゴルフで“R”といったらV6のイメージがいまでも残っているのだけれど、6代目からは直列4気筒ターボを搭載するようになり、現行モデルもそれを踏襲している。
では、GTIとRはゴルフのラインナップの中でそれぞれどういう立ち位置なのか。そもそもVR6は、「アウトバーンでメルセデスやBMWをカモれる」ことを目標にして開発されたとまことしやかに囁かれていた。VWが「スポーツカー」と呼んだコラードがこれを積んでいたことからも、この噂があながち間違ってはいないとも想像できる。つまり、操舵を楽しむGTIに対してRは速さを楽しむゴルフ、ということなのかもしれない。実際、GTIは依然として「FFのホットハッチ」としてのキャラクターを大切にしているいっぽうで、Rは4輪駆動による安定的なトラクションの確保が重視されている。
◆エンジニアのプライドが感じられるブレーキ
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ゴルフRに搭載される直列4気筒ターボエンジンは「EA888 evo4」と呼ばれるもので、先代のevo3と比較してインジェクターの高圧化や各部フリクションの低減などにより、最高出力は10psアップの320ps、最大トルク20Nmアップの420Nmとなった。
エンジンをいじってパワーアップして終わりではなく、速くなった分だけそれをきちんと制動できるブレーキも用意しているあたりに、VWのエンジニアの賢明な判断とプライドが感じられる。ディスクを1インチ拡大するとともにマスターシリンダーの容量も増やし、高速域でのコントロール性も向上させているという。
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ブレーキポッドをアルミ製に変更したのは、ばね下重量軽減のため。標準よりも15mm低くなったスポーツサスペンションが組み込まれ、18/19インチの大径タイヤ&ホイールを履いてもタウンスピード領域で快適な乗り心地が実現できているのは、このばね下重量の軽さも効いていると思われる。ゴルフRの速度域を問わない快適な乗り心地には少々驚いた。
◆一石二鳥の「Rパフォーマンストルクベクタリング」
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現行ゴルフRの装備の中で最も注目するべきは「Rパフォーマンストルクベクタリング」である。これは、リヤアクスルにふたつの湿式多板クラッチを設けることで、これまではフルタイム4駆の4MOTION機構による前後の可変式駆動力配分(100:0~50:50)だけだったものが、後輪左右の駆動力も可変式となった。
いわゆるトルクベクタリングとは、旋回中に左右輪の回転数を積極的に変化させることによりニュートラルステアに近い挙動に持っていこうとする機能である。コーナーで内輪のブレーキを摘まむことで外輪との速度差をつけるタイプのブレーキ式トルクベクタリングはいまや一般的だが、これを駆動輪でやるとせっかくのパワーをブレーキによりロスしてしまうことになる。
湿式多板クラッチの圧着率で駆動配分を行うeデフのような機構だと、内輪で抑え込んだ駆動力を外輪に振り分けられるのでパワーロスが少なく、コーナリング速度が極端に落ちずに済む。速さにこだわるゴルフRにはもってこいであると同時に、曲がる楽しさも享受できるのでまさしく一石二鳥の装備なのだ。
◆ゴルフの素性がいいからRが成立する
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コーナリング速度は確かに速く、ターンインの後に意図的にアクセルペダルを踏み込んでみても顕著なアンダーステアに見舞われることなくさらに速度が上がる。それでも旋回姿勢は安定したままなので不安感はまったくない。
これはRパフォーマンストルクベクタリングの恩恵だと思うけれど、制動からターンインして再加速までの一連の動きが極めてスムーズなのは、電子制御式デフロックのXDSや電子制御式ダンパーを含むアダプティブシャシーコントロールのDCC、そして4MOTIONなどの統合制御に因るところが大きいと推測する。場面ごとに最適な機能が働いて上手にバトンを繋いでいるような感触を受けた。
確かによく曲がるのだけれど、個人的にはそれよりもやっぱり旋回中の速度や安定感に感心した。「そういえば、ノーマルのゴルフはどんな感じだったっけ?」と、ゴルフe-TSIアクティブにも試乗してみたら「これだって十分よく曲がるじゃん」とあらためて感服した。
ゴルフRというハイパフォーマンスモデルが成立しているのは、やはりゴルフの素性がいいからなのである。
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■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★
渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。
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