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【VW ID.4 新型試乗】EVとは異質な「普通感」、合理的な作りはVWそのもの…中村孝仁

レスポンス / 2023年1月10日 20時0分

◆EVを取り巻く環境には暗雲が?


冒頭から全く個人的な感想を述べる。2030年にはすべてのクルマを電動化します…と謳うメーカー。本当に出来るんですね?MHEVやPHEVばかりなら怒りますよ。


とにかく電動化、特にフル電動化を謳うメーカーは、まあそこに生きるニッチなブランドとしてやって行けるレベルの規模のメーカーであって、かつて1000万台クラブなどと呼ばれ、その規模の量産体制を築いたVWの言うことではないよな。…これが個人的感想だ。


のっけから悪口を書いて恐縮だが、VWはあのディーゼルゲートでヨーロッパからディーゼルを駆逐しようとした。だから次は電気だと言わんばかりに次から次へと「ID」の名を持つ電気自動車(EV)を上梓している。しかし最近になってEVを取り巻く環境には少し暗雲が垂れ込めている気がしてならない。


例えばインフラの問題。充電施設の採算は実際には取れていないそうで、だからメンテナンスをしない。それは公共の充電施設のみならず、ディーラーの充電設備でもそれがある。私は某メーカーの急速充電を使おうと立ち寄ったものの、2か所連続で故障中で使えないという体験をした。


某有料道路の充電施設は使えるものの、液晶パネルが見えないほど劣化していて、危ないと感じたりもした。それに送電側にも問題がある。電池はコバルトフリーの電池が開発されない限りいずれコバルトが枯渇することも目に見えている等々、全自動車メーカーがEV化を推進するには不安材料ばかりが目に付くわけである。


◆EV=駿足、ではない


初期に登場したEVはその桁外れの加速力で話題を独占した。実際どのEVに乗ってみてもアクセルひと踏みで異次元の世界へ誘うことが可能なほど爆発的な加速力を音を伴わずに実現して、EV=高性能が同義語のように感じられたものである。たとえ2022年の日本カー・オブ・ザ・イヤーを獲得した軽自動車の日産『サクラ』や三菱『eKクロスEV』にしても、アクセルに力を籠めればおよそ軽らしからぬ加速を見せる。


というわけでEV=駿足も定着したEVの性能と言って過言ではない。しかし、VWの『ID.4』はそうではなかった。


街中ではそうアクセルを目いっぱい踏める環境になかったし、普通に流れに乗って車を走らせようとすると、あくまで静かな普通のクルマという印象が強く、ことさらに電気を意識するシーンがなかったのである。


そんなわけだから120km/hの最高速度が可能な新東名で思い切りアクセルを踏んでみた。実は頭の中の脳が後ろにずれる感覚を期待したのだが、ID.4は至って速いものの、その期待には遠く及ばない、ある意味普通の加速感を示したのである。だから、街中と高速を総合してもID.4の走りは従来のEVとは異質な「普通感」というかICE車と変わらない使い勝手に感じたというわけだ。


◆合理的な作りはまさにVWそのもの


正直この点には驚いた。しかし、それを除けばまさにクルマはVWそのものというか、合理的に作られている。困ったのはクルマに乗り込んでスターターボタンが無いこと。説明ではクルマに座ればすでにその時点でいわゆる走行可能な「Ready」になるとのことで、我が家からのスタートとは違い、試乗会らしい車両のスタートになった。いずれ借りてこの辺りはもう少し掘り下げてみたい。


シフトレバーはメーターパネルの端についていて、つまみを上に回せばドライブ、下に回してリバースに入る。Pはそのつまみの横側を押すと入る。つまりは前に走るか後ろに走るか止まるか。それだけである。ギアを駆使して操るなどという感覚は捨てた方が良い。


パワーウィンドーも合理的。ボタンは左右の窓用にひとつづつ。リアウィンドーを開け閉めしたい場合は一度“Rear”と書かれたボタンを押すと後席用窓の操作に切り替わり、開け閉めができるといった具合であった。あとはほぼすべての操作がダッシュ中央にあるディスプレイ上で行われ、物理的なスイッチはほぼゼロ。これは電気自動車というやつの本来あるべき姿なのかもしれない。


◆極めてICE的な走りをしてくれる


勿論、全長4585×全幅1850×全高1640mmというサイズの割には結構軽量(あくまでEVとして)な2140kgの車体は、十分にひらひら感を満喫できるレベルの走りをしてくれるのだが、ここでも操り感は無し。まあ、頭がICE時代のままであるから仕方がないと言われればそれまでだが、「自動車」と呼ばれた時代(今は電気自動車と区別して考えている)の「自由にどこまでも」といった感覚に乏しいと感じてしまうわけである。


極めてICE的な走り(静けさを除いて)をしてくれるID.4だから、EV的特別感が薄れたのにドライバーの征服欲を満たさない「乗せられている感」を強く抱いてしまうのは頭の固さ故なのだと思う。とにかくこいつはよくできたEVである。


■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★


中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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