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100万以下の超小型EV「ミニマムモビリティ コンセプト」誕生秘話【KGモーターズ徹底分析 第1回】

レスポンス / 2023年3月2日 11時0分

次世代の“チョイ乗りモビリティ”を目指し開発中の1人乗り超小型EVに熱い注目が集まっている。100万円以下、原付並みの維持コスト、狭いスペースにも置ける、それでいて屋根付き4輪の安心感。


スタートアップ企業ならではの思い切ったコンセプトに期待が高まるがその実態はどうなのか? 長年自動車業界で活躍し、EVに詳しい鈴木万治氏が、開発元のKGモーターズに密着取材し、その実像をレポートする。第一弾はKGモーターズの代表取締役CEOで電動モビリティ専門YouTuber 「くっすん」としても活躍する楠一成氏の想いがいかに『ミニマムモビリティ コンセプト』に結実したかを解説する。


また、画像ライブラリには、KGモーターズから提供された貴重な写真も掲載した。そちらもぜひ参照していただきたい。


◆なぜマイクロモビリティなのか


1982年、広島県呉市に生まれた楠一成氏(以下「くっすん」)は、小学生の頃から、プラモデル、ラジコン、鉄道模型など「ものをつくること」にのめり込んできた。そして、「つくる(カスタム化する)対象」が自転車、原付、バイク、クルマと進化していった。


そんな生活の中で、くっすんが感じていたこと。それは「軽自動車でも車幅がギリギリの、細くて坂が多い呉の道を気軽に移動できるクルマが欲しい」という漠然とした思いだった。


軽自動車でもギリギリな細い坂道が続く呉の市街地。ミニマムモビリティの発想の原点となった風景。

自動車専門学校を卒業し国家整備士資格を取得後、自ら起業し複数の事業を立ち上げた経験を経て、2018年にものづくりに対する想いを伝え、共感してもらえる協力者を集めるために、YouTube配信を開始。当初はバイクのカスタマイズを中心テーマとした。2020年に内容を電動化にシフトし、2021年には「広島発のマイクロモビリティメーカーになる」と宣言。初のコンセプトモデルである『T-BOX』プロトモデルの開発に着手した。


T-BOX開発現場の生々しさが伝わる配信により、チャンネル登録者が19万人を超える人気YouTuberに成長。翌2022年1月、東京オートサロン2022で開発中のT-BOXを展示。同年7月、くっすんは仲間と共にKGモーターズを設立。2023年1月に開催された東京オートサロン2023では、2025年に量産を目指すミニマムモビリティ コンセプトを発表・展示した。


東京オートサロン2022で展示された『T-BOX』。アウトドアを意識した遊び心を重視したデザインで、『ミニマムモビリティ コンセプト』とは大きく異なる。

◆T-BOXとミニマムモビリティ コンセプトの間にあるもの


ここからはミニマムモビリティの設計に込められた、くっすんの想いを紐解いていこう。一見してわかるが、T-BOXからミニマムモビリティ コンセプトは、連続的な進化ではない。そこには、日々の学びを継続してきたKGモーターズの姿勢が見えてくる。


筆者が、初めてくっすんと出会ったのは、名古屋大学パワーエレクトロニクス研究室の山本真義教授と日本能率協会が主催した2021年10月の「宏光Mini EV分解大会」の時であった。多くの参加者が、興味はあっても分解のための手が動かないなかで、くっすんと仲間たちはEVを手際よく分解していき、個々の部品だけでなく五菱の設計思想についても山本教授や筆者と徹底的に議論したことが今でも強く印象に残っている。


宏光Mini EV は、中国国内では50万円以下で購入できた世界で一番売れている小型EVだ。そこからの学びとることで、自分たちの定番や常識から外れて、低価格で量産可能な全く新しい設計とする決断は勇気の要ることだが、くっすんにとっては、自然なことだったかもしれない。


「50万円以下EV」として話題になった『宏光Mini EV』。現在は37,600元、日本円で約74万円弱。2022年の販売台数は55万4000台を上回ったとされ、世界でもっとも売れたEVとなった。

T-BOXの開発開始宣言は、宏光Mini EV分解の後に行われたが、実際にはその前にT-BOXのコンセプトは確定していた。そのため、宏光Mini EVの解析結果はT-BOXには反映できなかったが、翌年のミニマムモビリティ コンセプトの設計には大きく活かすことができたという。


T-BOXからミニマムモビリティ コンセプトへの連続的でない進化を実現した学びの姿勢こそが、バックヤード・カスタム企業から、量産EV企業への道を開く鍵である。今回の発表は、広島に2番目の自動車メーカーが誕生するための記念すべき第一歩だったと振り返る日が来るのも遠くないだろう。


◆サイズ、コスト、デザインへのこだわり


ミニマムモビリティ コンセプトの最大の特徴は、全幅1090mm、一人乗りという仕様だ。冒頭に書いたように、呉市だけでなく日本全国の地方の沿岸部や山間部の狭い道路において、全幅1480mm以下という軽自動車に比べて約400mm幅が小さいことは圧倒的な運転しやすさに直結する。


一人乗りについては賛否両論あるが、地方における「一人一台軽自動車(または軽トラ)」という現状をみる限り、多くの場合には問題ないだろう。ドライバー視点でみれば、一人乗りでもよいので、買い物などの荷物が運べるなどの利便性、しっかりしたドアがあることによる安心感が大事ではないだろうか。


魅力的な新しいモビリティの提案においても、低コストであることは最重要な項目である。宏光Mini EVが世界一売れている理由もその安さにある。ミニマムモビリティ コンセプトも、設計初期から徹底的な低コスト狙いの設計に挑戦している。


その代表例が、前後対称デザインの車体だ。前後で共通した部品を使えることで、量産時の金型コストを半減できる。


前後対称でありながら違和感のない形状にするために、KGモーターズの素人だったメンバーが、まずは独学で3D CADを操ってコンセプトや低コスト化に関わる部分を確定させた。


コストダウンのため前後対称としたミニマムモビリティ コンセプトの独特なサイドビュー。

それをベースに、プロのデザイナーがプロジェクトチームに参加し、議論を交わしながら現在のデザインを完成させた。チームには、技術顧問の山本教授、デザインチーム、設計チーム、プログラマーやAIエンジニアなどの各専門職の約10名が参画している。そのチーム全員で議論を戦わせた結果が、今のデザインだ。自分たちが極めたいものは、自分たちの手で設計する。これこそが「自動車メーカー」となるために必要な資質だ。


ミニマムモビリティについて語るCEO楠一成氏(左)、名古屋大学・山本真義教授(中)とNaturanix・金澤康樹氏(右)。

◆過去の想いが未来に結実


今回はコンセプトモデルであるため、車体以外は市販品を流用した部品と3Dプリンターで自作した部品で構成されている。近年の3Dプリンティング技術の進化により、樹脂部品で少ない個数であれば、極めて短時間で十分な品質のものを得られるようになった。この状況なら、3Dプリンティングを活用して試作だけでなく量産を狙うことは正解だ。


航続距離は約100km。地方での足としては十二分の距離だ。充電時間も、家庭用電源のAC100Vで満充電まで約5時間。乗る前にコンセントから抜いて、乗った後はコンセントに挿して夜の間に充電しておく。スマートフォンと同じ使い方なので、自宅の外の充電インフラはほぼ不要となり、EV専用の充電インフラ整備には全く依存しない。


このミニマムモビリティ コンセプトが100万円以下で発売されれば、地方の2台目、3台目の軽自動車が、この新しいモビリティに置き換わるのも夢ではない。地方では、ガソリンスタンドの廃業が相次いでいる。ガソリンを入れるために片道30km以上もかけて行くとうガソリンスタンド難民も増えている。自宅のコンセントで充電できて、ガソリンスタンドに行く必要がないことは大きな魅力だ。


くっすんが呉市での生活の中で感じた想いを、自らの手で生み出したミニマムモビリティで解消する日。日本の地方都市で多くの人たちが狭い道でもストレスを感じることなく、笑顔でミニマムモビリティを運転する光景が見られる日も夢ではないだろう。呉の街で育った少年の想いが、現実世界に結実したもの。それがミニマムモビリティ コンセプトについての、一番わかりやすい表現かもしれない。


楠一成氏の元に結集したKGモーターズのメンバー。ミニマムモビリティ コンセプトの車体の細さもよく分かる。

今回は、ミニマムモビリティ コンセプトに至るくっすん=楠一成氏の想い(思想とも言える)を中心にまとめた。第2回ではいよいよ試乗インプレッションと実力分析を、第三弾では量産に向けての具体的な技術課題についてお伝えする。

連載 KGモーターズ徹底分析
100万以下の超小型EV「ミニマムモビリティ コンセプト」誕生秘話【KGモーターズ徹底分析 第1回】
超小型EV「ミニマムモビリティ コンセプト」に試乗、開発行程&設計の詳細【KGモーターズ徹底分析 第2回】
超小型EV「ミニマムモビリティ コンセプト」本格テストで判明した量産への課題【KGモーターズ徹底分析 第3回】

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