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世界最先端となる「自動車のメタバース販売」を日産自動車が実証実験開始

レスポンス / 2023年3月8日 11時15分

日産自動車は2023年3月8日よりメタバースでの自動車販売を開始する。3カ月の実証実験であるが、自動車販売は新しい時代に突入する。


今回オープンした「NISSAN HYPE LAB(ニッサンハイプラブ)」では、メタバース空間上で車種やグレードの検討から販売員との相談、見積もり、購入までをワンストップで行える。今回はこの取り組みの概要だけでなく、海外も含めた市場での位置付けや技術的バックボーンも含めて考察する。


◆販売員に相談できる本格メタバース販売


2021年11月にメタバースにバーチャルショウルーム「NISSAN CROSSING」をオープンして以来、日産サクラのお披露目会や試乗会などメタバースを使ったPR活動を積極的に行ってきた日産自動車が、さらに一歩進んでメタバース上での自動車販売を開始する。


今回の販売サービスは日産が独自に開発したメタバース空間NISSAN HYPE LAB上で行う。ログインするには日産グループ共通IDであるNISSAN IDが必要だ。


HYPE LABには、PCやスマートホンからアクセスする。VRヘッドセットには対応していない。一般的な3Dゲームと同じ操作法で仮想世界に作られたショールームで自動車を見たり、さらに個人ごとに割り当てられた「パーソナルルーム」(個室)でカラーバリエーションや内装のカスタマイズを試したり、バーチャルスタッフ(販売員)と細かい相談や見積もり、販売契約まで行うことができる。


24時間いつでもアクセスできるが、販売員がいるのは11:00から20:00の間だ。このためのトレーニングを受けた日産東京販売の営業スタッフ9名が交代で担当する。販売員が空いていればすぐ話せるが、空きがないときは予約を入れておくこともできる。会話は自分のパーソナルルームで、文字チャットとボイスチャットの両方が使える。


今回の実証実験では、メタバースのショールーム内には、フェアレディZ、エクストレイル、サクラ、アリアの4車種が展示されている。


個人ごとのパーソナルルームでは、エクストレイルとサクラの2車種を細かく検討できる。コンフィグレーター機能で車体や内装のカラーリングを変更してみることができる。表示されるクルマのCGは、開発のCADデータを元にしているので再現性も高い。


グレードや色を選択できたら「360°ドライビングビュー」でメタバース空間内を走行させてみることもできる。外部視点と運転席からの視点の両方を確認できる。さらに実車に乗ってみたくなったら試乗予約もここから直接できる。


エクストレイルとサクラ以外の車種についても、販売員に相談すれば外部のWebカタログを表示する機能を見ながら説明を受けることもできるそうだ。
今回販売を担当するのは日産東京販売なので、東京以外の地域のユーザーが訪れた際は、居住地に近い販売店を案内してくれるとのことだった。


◆単なる販売サイトではない


開発を担当した日産自動車Japan-ASEANデジタルトランスフォーメーション部部長山口稔彦氏によると、メタバースで自動車販売を開始する理由のひとつに、販売店への来店回数の減少があるという。近年では購入に至るまでに1回か2回程度しかない。


多くはインターネットで調べてから来店するが、一方で「もっと気軽に相談したい」という潜在ニーズがありつつ、「買う気がないのにお店に行ってはいけないのではないか」などの思い込みから、来店へのハードルが高くなっている。


また、お店に行きたいと思っていても、平日仕事が終わってからでは閉まっていたり、週末の他の用事があって行けないという人たちもいる。


メタバースに期待しているのは、いつでもアクセスできる利点と気軽に相談できる仕組みを組みあわせることで、上記の潜在ニーズをくみ取る新しいタッチポイントになることだ。


また、お店は家族や友人と行くことが多いが、Web検索はひとりでやる。メタバースなら、そこを待ち合わせ場所にして家族や友人と一緒にクルマを見ることもできる。ここをユーザー間のコミュニケーションの場としても使って欲しいという。


今回は販売まで一気通貫で可能とする実証実験だが、販売目標台数を問われると、「社内的な目標はあるが公開できない。むしろ、いかに多くの人に体験して貰うかが大事」との回答。


なおメタバースなので、理論的には何人でもアクセスできるはずだが、人が多すぎるとクルマを見ることができなくなってしまう。同時接続の人数は最大でも100人くらいに搾りたいとのことだった。


今回は3カ月の実証実験で、その経験を元に本格的なサービスインを目指す。日本で成功すれば、山口氏の担当領域であるASEAN(東南アジア諸国)にも広げてゆきたい。また、米国などその他の地域からも引き合いがあれば提供していきたいそうだ。


◆国内外と比較しても先進的


メタバース販売の動きは海外でも始まっている。2022年の12月よりステランティスがマイクロソフトと共同開発したンタラクティブショールーム「FIATメタバースストア」のサービスをイタリアで先行導入。2023年1月のCES2023でもデモを行い、今後北米でサービスを展開する予定だ。


ただ、公開されている公式動画やサイトを見る限り、FIATはメタバースというよりも3D CGによるeショップの域を出ていない。対応する販売員はいるが、NISSAN HYPE LABのように24時間いつでもふらりと訪れることはできず入店するのにも予約が必要だし、画像は美しいがインタラクティブが低くコミュニティ機能はまったくないので、「メタバース」とは言えないものだ。


2023年2月に開催されたMWC Barcelona 23では、世界の携帯電話事業者の団体GSMAがメタバース販売サービスのAPIを統一する「GSMA Open Gateway」構想が発表された。日本ではKDDIが参画している。


国内では、富士通、JCB、みずほフィナンシャルグループなど10社がオープンメタバース基盤「リュウグウコク(仮)」によるメタバース経済圏の構築を発表した。


これらは発表されたばかりの規格で、これらを採用した実際の販売ソリューションが出てくるには時間がかかるだろう。
こうして比較すると、NISSAN HYPE LABは世界的に見ても先進的な取り組みだと言えるだろう。


◆Unreal Engine 5が採用された意味


これまでの日産のメタバース活動は、メタバースプラットフォームとして世界的に人気が高い『VRChat』の上で行われてきた。しかし今回のHYPE LABは、3D開発環境の『Unreal Engine 5』を使って独自に作ったものだ。Unreal Engineは世界で4億人以上がプレイすると言われる人気オンラインゲーム『FORTNITE(フォートナイト)』を提供するEpic Gamesが提供するゲームエンジンだが、近年は自動運転の開発や映画制作など、非ゲーム分野での利用が広まっている。


特に最新のUnreal Engine 5はフォトリアリスティックな3D CG表現が可能で、それがリアルな車体や内装の表現に活かされている。自動車を真剣に購入したい思っている人向けのサービスとしては、車体の再現性は非常に重要だ。


Unreal Engineを採用したことで、一般的な3D ゲームと同じ作法で利用できることも重要だ。Unreal Engineは世界中のPCゲームやコンソールゲーム(Nintendo SwitchやPlayStation)で採用されており、3D空間内の操作はだいたい共通している。


そういった3Dゲームを触った経験があれば、HYPE LABの操作は簡単に習得できる。筆者のゲーム歴は浅いが、それでも触った瞬間から操作に迷うことはなかった。


VRChatは、Windows PCかVRゴーグルのMeta Quest2かMeta Quest Proが必要になるが、HYPE LABはMacでもスマホやタブレットからでもアクセスできる。これもUnreal Engineによる独自開発の利点だ。Unreal EngineはVR向け開発にも対応しているので、将来のVR対応も可能だろう。


また、購入サービスとしてはNISSAN IDと紐付けられることも重要だろう。HYPE LAB上で購入や見積もりをした顧客だけでなく、体験だけのユーザーも含めて日産自動車がダイレクトに繋がってサポートしていけることは大きい。


将来的にはNFTにも対応していきたいとしているが、VRChatだと販売プラットフォームとなっているSteamストアの規約の制限でNFTに対応できない。そういう点でもUnreal Engineで独自のメタバースを構築したことは今後有利に働くかもしれない。


◆IT技術採用に見るセンスの良さ


もう30年近く前の話だが、1990年代の中頃、Webの創生期に日産自動車は、スティーブ・ジョブズが率いるネクスト社の「WebObjects」を採用して、使い勝手の良いWeb版自動車カタログのサービスを開始した。当時の国内企業の最先端だった。その後、ネクスト社はアップル社に買収されて、現在のiOSやmacosの基幹技術となった。


IT企業ですらITセンスがなくて世界のIT化について行けない傾向がある日本の大企業において、最近のVRChatやUnreal Engineの採用など、日産自動車は不思議と要素技術の選択センスが良い。


「メタバース」というと、いまだに半信半疑だったり、掛け声だけで実態が伴わないケースが多い中、率先して自動車販売という中核ビジネスへの採用を、当初からかなりの完成度で始めた日産自動車はやはりセンスと先見の明がある。


現在はまだ対応車種が少ないが、これはCADデータを元に順次増やせば良い話なので、基盤となるプラットフォームとしてのHYPE LABの使い勝手を今後どれだけ良くしていけるかが鍵となるだろう。


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