【マセラティ MC20 試乗】ミッドシップのお手本のような走りを実現…岡本幸一郎
レスポンス / 2023年4月11日 18時15分
スーパーカーブームの頃にもマセラティは、フェラーリやランボルギーニとは一味違う路線で独自の存在感を発揮してきた。近年はラグジュアリーカーのイメージが強まっていて、特に最近ではSUVにかなり注力している中、こうした本格的なスーパースポーツを送り出すとは思いもよらなかった。
◆マセラティブランドの新時代の幕開け
2020年2月に『MC20』を発表し、同年9月にモデナでローンチイベントが開催された。日本国内では2022年初よりデリバリーがスタートしている。「MC」が「マセラティ・コルセ(イタリア語でレーシングの意)」の略で、「20」はマセラティが「新時代の幕開け」と位置づけた2020年をそれぞれ意味する。
実際にもMC20は、マセラティブランドの新時代の幕開けを象徴するモデルとして、100%オリジナルを基本理念に開発。マセラティとしては22年ぶりに自社開発の特徴的なエンジンを搭載していることにも驚いた。
そんなマセラティが久々に送り出したミッドシップのスーパースポーツは、どこへ行っても注目の的だ。イエローに微妙にブルーを混ぜたという、光の当たり方で違った表情を見せる専用色「ジャッロ・ジェニオ」のボディカラーも効いてとにかく目立つ。バタフライドアの採用はマセラティ初だ。まずこれを見ただけでテンションが上がる。ボディカラーは全てMC20のために開発された新色が全6色で用意されている。
◆エレガントでありながらパフォーマンスを追求
エレガントでありながらパフォーマンスを追求したスタイリングは、開発にダラーラも携わっているという。ボディの上下それぞれに異なるテーマを持たせるという手法を採用した。
アッパーは派手なスポイラー類はもちろんエアダクトやエアロパーツの類を廃して、マセラティの伝統であるエレガンドなラインを追求した。それでもダウンフォースは十分に得られている。アンダーは反対に機能に徹していて、カーボンファイバー製パーツが多用されている。
水平直線基調の端正なデザインのインパネをはじめ、コクピットはレザーとアルカンターラとカーボンの組み合わせにより、上質でスポーティな空間を構築。見た目にも印象的なカーボンファイバー製のセンターコンソールかわりに、シフトセレクターおよびドライブモードセレクターと快適にドライブをたのしむためのインフォテインメント系の諸機能が集約されている。
こうしたクルマで右ハンドル仕様が取材用に用意されたことにも少々驚いたが、ポジションは自然で足元も狭くない。車内に荷物を置けそうなスペースはなく、エンジン後方に意外と大きめのスペースが確保されているほか、フロントにも書類を積んでおけそうな薄いスペースがある。
◆F1のテクノロジーを市販車に初採用
「ネットゥーノ」と名づけられた3.0リッターV6ツインターボエンジンは、「MTC(=マセラティ・ツイン・コンバスチョン)」と呼ぶ、プレチャンバー(副燃焼室)を備えた独自の燃焼システムを用いている点が特徴だ。F1では一般的でも市販車への採用は初めてのことで、通常の点火とプレチャンバーによる点火を適宜使い分けることで燃焼効率とレスポンスを向上している。最高出力630ps/7500rpm、最大トルク74.4kgm/3000-5500rpmとリッターあたり実に210psを誇る。これにトランスミッションは8速DCTが組み合わされた。
トライデントをイメージした透明なカバーの付くエンジンルームを覗くと、ドライサンプの採用によりかなり低い位置に搭載されていることがわかる。ターボチャージャーもバンクの内側ではなく両サイドの下側に配置。ポート噴射と直噴を併用しており、プラグとインジェクターは各気筒に2個ずつ備わる。マイルドハイブリッドなど電気的なものは何も付かないが、ゆくゆくはBEVも予定されているという。
いかにも過給圧が高そうだが、圧縮比も11:1と自然吸気なみに高く、良好なアクセルレスポンスと盛り上がり感のある加速フィールにもそれが表れている。低回転から力強く、独特の低く吠えるかのようなサウンドを聴かせながら、パンチの効いた加速を示す。さすがは0-100km/h加速が2.9秒、最高速が325km/h以上と伝えられるだけのことはある。
◆ミッドシップのお手本のような走りを実現
基本骨格にはバスタブ型のカーボン製モノコックを用いているほか、カーボンを内外装の目で見える部分だけでなく骨格にも多用していることが見て取れる。おかげで大きさのわりに軽量で剛性感も高く、操縦安定性にも優れる。フロントにもリアにもイナーシャの影響をあまり感じさせない、ミッドシップのお手本のような走りを実現している。
フロントには常に安定して荷重がかかり、リアもコーナーで振り出されるような感覚もなく、ワインディングで何の不安も感じられない。エアロダイナミクスも効いて、まさしく地を這うようなコーナリングを楽しませてくれる。ハンドリングは俊敏ながら俊敏過ぎないあたりにも、あくまでマセラティというのはそういうブランドだというメッセージが垣間見える。
さぞかし高価なのだろうと思ったら、車体価格は2650万円とのこと。もっとも、試乗した個体には高額なオプションがてんこ盛りだったわけだが、以前のMC12が1億円以上といわれたこともあり、これほどわかりやすくて魅力的なスーパースポーツが思ったほど高くないことにも驚いた次第である。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
岡本幸一郎|モータージャーナリスト
ビデオマガジン「ベストモータリング」の制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスに転身。新車から中古車、カスタマイズ事情からモータースポーツ、軽自動車から輸入高級車まで、幅広い守備範囲を誇る。「プロのクルマ好き!」を自負し、常にユーザー目線に立った執筆を心がけている。
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