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レースでAT!? GRヤリスDAT、スーパー耐久でデビュー

レスポンス / 2023年9月15日 11時0分

9月2日と3日の2日間、モビリティリゾートもてぎ(栃木県)でENEOSスーパー耐久シリーズ2023 Supported by BRIDGESTONE第5戦「もてぎスーパー耐久 5Hours Race」が開催された。今大会では、MTと同等でレースが行えるATヤリスが登場し注目を集めた。


◆8速ATヤリスがS耐に参戦


スーパー耐久シリーズ(S耐)のように、長時間かつ熱が多く発生するレースにおいて、レーシングカーのトランスミッションはMT(マニュアルトランスミッション)が主流だ。


AT(オートマチックトランスミッション)では重量が重くなるほか、ドライバーの思ったようなシフトがしにくいこともある、長時間や高負荷に耐えられないということで、基本的には採用されていない。シーケンシャルミッションは、パドル操作やシフトノブを前後に動かし、シフトチェンジをしていることが多いためATのように見えるが、ギアによる変速を操作しやすいようにしたものなので、機構的にはMTの一部と考えられる。


今回のS耐ではST-Qクラスに、ORC ROOKIE RacingからDAT搭載の『ORC ROOKIE GR Yaris DAT concept』が参戦した。DATとはダイレクト・オートマチック・トランスミッションの頭文字から取られたものだ。


ORC ROOKIE Racingでは今までも水素カローラを走らせ、さまざまな技術的困難を克服しながらレースを行っている。今回水素カローラは一旦欠場させ、DATを鍛えることになったという。


DAT搭載車両は、TOYOTA GAZOO Racingが主催するラリーチャレンジで実戦投入され、すでに多くのテストを行いながら走り続けている。


『GRヤリス』の開発責任者でもある齋藤尚彦GR車両開発部グループ長によると、今回S耐に投入となった経緯は、「ラリーの場でもテストは行っているが、より高負荷でより熱による弊害、レーシングスピードの高さ、タイヤのグリップの違いなどを見て検証を行う」ためだという。


ラリーの場ではアクセルを全開にする時間もそれほど長くない。ダートのような路面では、タイヤが空転し力が逃げることで、ミッションに弊害が及ぶのを防げるという。


一方、S耐のようにグリップ力の高いスリックタイヤを履いて、アクセル全開時間も長く、高いコーナリングGがかかるレースでは駆動系への負荷などがテストできるそうだ。


◆モータースポーツの間口が広がる可能性


現場では、練習走行開始日から想定以上の負荷がかかったことで過度な熱が発生。冷却系の見直しを多く行った。練習走行や予選でもトラブルが発生してしまい予選通過とならず、最後尾からのスタートとなった。


本線は、レース中でもずっとDレンジ(ドライブレンジ)に入れっぱなしで走ることができたという。コーナリングの手前でブレーキングをしながらパドルでギアを落とせば、瞬時にブリッピングし適切なエンジン回転を維持しながらコーナーを抜けられ、その後アクセルを踏みっぱなしの状態でシフトアップが行える、一般的なATのような感覚で5時間を走り抜けた。


齋藤氏は、「いずれMTと同じ操作感を味わえるもの」を目指して開発を行っていると話す。


ORC ROOKIE GR Yaris DAT conceptは水素カローラと同じく、MORIZO、佐々木雅弘、石浦宏明、小倉康宏の4人でドライブを行った。


佐々木雅弘選手は「MTと遜色ない走りができている。なによりシフトミスが起きないので、自分や石浦選手はほぼミスをしないが、MORIZO選手や小倉選手はいわゆるジェントルマンドライバー。クラッチを踏み、シフト操作を行いながらステアリングを切る。そしてアクセルを踏みシフトアップをしていく。という操作のなかでミスが起きてしまうこともある。DATならばそのミスが起こらないのでブレーキングとステアリングに集中し安定した走りができる」とDATのメリットを語る。


実際のレースでも5時間130周を走り抜け、MORIZO選手が2’11.953のベストタイムを刻んでおり、佐々木選手が2’11.939、石浦選手が2’10.855、小倉選手が2’13.521というベストタイムを出している。プロとジェントルマンがほぼ同じラップタイムで走れているのがわかる。


さらに「身体的なハンディキャップを持っているがモータースポーツを楽しみたい方、AT免許しかないけれどサーキットを走ってみたい方、そういう方にもモータースポーツを楽しんでもらえるようになるかもしれない」ともいう。


◆「量産車に向けて検討を行っていく必要はある」


レース総括ラウンドテーブルには、トヨタコンパクトカーカンパニー チーフプロダクションオフィサーの新郷和晃氏も登壇。


「コンパクトカーカンパニーではヤリスやカローラと言ったコンパクトカーを生産している。以前であればレースと量産車は、モータースポーツはモータースポーツ、量産車は量産車というふうに分かれていたが、GRカンパニーと一緒にGRヤリスやGRカローラを開発するようになった。そのことで、モータースポーツから量産車へ、逆に量産車からモータースポーツへフィードバックされたりというサイクルにもなっている」


「今回GRヤリスに搭載された8ATのDATも量産車の開発からすれば想像もしないことだが、モータースポーツからの発想で、新しい可能性もあるのかも、というふうに考えたりするなどいろいろな波及が出ている」という。


「量産車に向けて8速ATはトゥーマッチな部分もあるとは思えるが、MTのようなダイレクト感はお客様にとっても楽しい車になるのではないかと思える。ノーマルヤリスとGRヤリスで共通化できる部分と、差別化する部分なども考えながら、量産車に向けて検討を行っていく必要はあると思う」


「レースで走るためにさまざまな8速ATの制御をさまざま行っている。今回のコースにシフトパターンをきっちり合わせこめているかといえばそうでもないかもしれないが、走りながら制御もいろいろ知見を得て今後に活かしていきたい」とモータースポーツと量産車を繋いでいく必要を感じているともいう。


齋藤氏も、「将来的にいつ市販化などのことは全く未定だが、ATの方がレースは速いという時代がくるかもしれない」と語った。

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