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【メルセデスベンツ GLC 新型試乗】高級の何たるかを知るメルセデス。GLCはやはり抜きんでた一台だ…中村孝仁

レスポンス / 2023年9月23日 18時0分

◆セグメントの頂点に君臨し続けたメルセデスというブランド


80年代ごろまでのメルセデスベンツと言えば、メカニカル制御の権化のようなクルマで、その作り、その佇まい、そしてその性能など全てを兼ね備えたクルマ作りをしていた。ある意味自動車界の全知全能の神的存在と言っても過言ではなかった。何故か?答えはいたって簡単で、高級車しか作ってこなかったからである。


当時のメルセデスのパッセンジャーカーラインナップと言えば、最高級の『Sクラス』とそれまではコンパクトクラス、その後ミディアムクラスに名を変えた『Eクラス』。それに80年代初頭から190シリーズと呼ばれた今の『Cクラス』に繋がるコンパクトなDセグメントのモデルを作り始めたころだった。どのモデルも確実にそのセグメントの頂点に君臨し、ライバルを寄せつけなかった。


特に当時最新鋭だった190シリーズはその作りがまんまSクラスを手本にしていた関係で、セグメント的には明らかなオーバークォリティー。利幅の少ないモデルと言われていた。というわけで、メルセデスベンツというブランドは高級車作りのノウハウをふんだんに備え持ったブランドだったというわけである。


翻って今、下はCクラスよりもさらに降臨し、コンパクトなCセグメントの『Aクラス』まで作り、当初は庶民に手の届く安価なモデルを誕生させている。


言っておくが、今ライバルと目されるBMWやアウディと言ったモデルはその当時まだようやくブランドの地位を確立し始めた時で、とてもじゃないがメルセデスの牙城に迫るとは考えもしなかった。それもこれも生産技術の進化と言えば聞こえはいいが、実体としてはメーカーが儲かるようなクルマ作りに奔走し、本当の意味での高級車を作っていたのではメーカーが持たないような状況になってしまったことと、エンドユーザー自体も、本質に迫るものを求めなくなったということも挙げられよう。


◆「高級の何たるか」を知る引き出しの多さを感じさせる


前置きが長くなったが『GLC』である。このクルマは基本的にCクラスをベースに作り上げたSUVだ。つまりルーツを辿るとオーバークォリティーで作られた190に辿り着く。その時代、高級車に求められたのは極上の乗り心地だったり、座り心地が良くて快適なシートだったり、細かいことを言えばドアの閉まる音にまで拘りを見せたものである。勿論ダッシュには本木目が使われ、手に触れる部分のすべてがソフトなパッドで覆われていた。


今はどうか。少なくともメカニカルな部分で差別化を図ることはとても難しい。何せ超が付く高級車で、時計でいえばパテックフィリップのようなロールスロイスやベントレーだって、メカニズムはBMWやフォルクスワーゲンが作り上げるものが据えられている。まあ言ってみれば例えは悪いがパテックのメカニカルムーブメントが少し高級なグランドセイコーのそれと同じと言えばわかる人にはわかるだろうか。これで差別化を図れと言っても無理がある。だから勢いソフトな部分、即ち室内に使う素材だったり、手に触れる部分の加工など、もっぱらソフトな部分での差別化に終始するというわけだ。


GLCで感心したのはオプションではあるが、「ブラックオープンポアウッド」というダッシュの設えである。ブラックウッドというのはアフリカのセネガルあたりに自生する木で、ローズウッドなどと同じツルサイカチ属に属するものだそうだ。とても密度が濃く、最近では非常にその価格が上昇している木なのだそうである。


過去は高級本木目と言えば、瘤目のウォールナット一択だったように思うが、時代が変わり今回のブラックウッドのような木が重宝されているらしい。メルセデスはそれにアルミのアクセントラインを入れた。この辺りのデザインセンスは個人的に中々素晴らしいものがあると思うし、やはり高級の何たるかを知る引き出しの多さを感じさせてくれる。


◆このセグメントでもやはり抜きんでた1台だ


冒頭お話ししたように、メカニカルな部分で差別化はとても難しい。とはいえ、先代と比べて直4ディーゼルのサウンドがだいぶ抑え込まれている印象があったので、旧型を持つ友人に音を聞かせて同時に意見を聞くと、自分の持っている先代GLCとは雲泥の差だというから、やはり進歩しているのだ。


それに今回はISGと組み合わせたマイルドハイブリッド。発進はスムーズに電気がこなすからこの辺りの滑らかさが抜群である。エンジン自体もクランクシャフトを新しくするなど、ICEにはもうお金をかけないのかと思いきやどうもそうではないようなので、少し安心をした。


今回のGLCはこの2リットルターボディーゼルとISGを組み合わせた48Vマイルドハイブリッドの一択。駆動はやはり4マチック一択である。試乗車はオプションの4WS(リアアクスルステアリング)が装備されていて同位相、逆位相ともに4.5度切れる。これを装備した時の最小回転半径は5.1mで、無しだと5.5mとなるそうだ。


高い静粛性と快適でシック且つ高級感あふれるインテリア。そしてメカニカルな部分で差別化は難しいとはいえ、ちゃんと上質な挙動を作り上げるGLCはこのセグメントでもやはり抜きんでた1台と言えよう。ただし、今回の試乗車のオプションを含めた価格は1043万7000円と、1000万円を超える。


■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★


中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

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