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【アバルト 695トリブート 131ラリー 新型試乗】「うるさい、乗り心地悪い、快適でない」最高の一台…中村孝仁

レスポンス / 2023年10月1日 12時0分

◆日本にわずか200台、5速MT一択の限定車


実は、アバルト『695』に試乗するのはこれが初めて。今回お借りしたのは『695トリブート131ラリー』と呼ばれる限定モデル。


何でも全世界でたったの695台。日本向けの割り当ては、右ハンドル、左ハンドル各100台の合計200台だそうである。なわけで、多分もう無いかもしれない。ただ、この限定仕様はともかくとして、アバルト695がどんなクルマかをここではご紹介したいと思う。


ということで、さらっとこの限定モデルについて話をすると、リアエンドに屹立したリアスポイラーや、ブラックアウトされて装備されるオーバーフェンダー、リアに上下に配置された4本出しマフラーなどを特徴とする。また、そこかしこに「131ラリー」のモチーフが描かれている。因みに最初に書いた屹立したスポイラーは12段階に手動で可変させることができるから、フラットにすることも可能。手動とはいえきっちりと6角ネジで止められてれているから、それなりの工具が必要となる。


これまでもトリブート系のモデルは存在して、最初は「トリブート・フェラーリ」だった。確かこの時はツインクラッチのDCTトランスミッションを持っていたと記憶するが、今回のモデルは潔く5速MT一択である。


◆「えらいクルマ借りちゃったなぁ」


未知のクルマだったのでそれなりのコックピットドリルを受けて駐車場を後にする。ビルの駐車場には速度を規制するハンプがあるのだが、そこを乗り上げた途端「なんじゃこりゃ!」と思わず叫びたくなるほどの突き上げ感。路上に出る時も歩道との段差を超えてまた 「なんじゃこりゃ!」である。お世辞にも乗り心地が良いとは言えない。


それに、180psだという4発エンジンのサウンドやら路面からのロードノイズやら、さらには電動ファンが回りだすと、「おいおい、シャフト曲がってるんじゃないの?」という振動を伴ってファンの音が手に取るようにわかるほどのお見事なサウンドを奏でてくれる。言っちゃ悪いが雑音オーケストラである。


というわけで、始まりは「えらいクルマ借りちゃったなぁ」であった。しかし、住めば都ではないが、人間の順応性は素晴らしいものがあって、ちょっと郊外まで走って巡航速度が上がってくると「なんだ、飛ばしゃいいんだ」になった。こうなると雑音オーケストラだったサウンドはチェリニ峠(モンテカルロラリーのハイライトになる峠道)を快走するアバルト131ラリーのサウンドに思えてくるから不思議(言い過ぎだが)。


だからついついダッシュボードに3つ並ぶボタンの左端、サソリマークを押したくなる。こいつを押すと、ダッシュボード上にちょこんと乗る丸形メーター(実はターボブースト計)の中央にSPORTの文字が点灯し、サウンドが変わり、スピードもいちだんと速くなる。停車中にこいつを押して発進すると、それまでとは明確に異なる加速を示すとともに4000rpmを超えるとまさに野獣の咆哮のようなエクゾーストサウンドが室内まで届くようになる。


こうなるともう完全にハイド氏の性格に変貌し、それまでジキル博士だった性格の制御は効かなくなる。と言ってもこのクルマ、ほとんどはじめからその性格がハイド氏なのだが…。


◆クラッチを踏み、ギアを繋ぎ、ステアリングを操作する楽しさ


広い川原で撮影をしようと、ガレ場を行くと、これはもう微速前進(5km/h以下ぐらい)でないと身が持たないほど上下に揺すられ、下手をするとボディ下面も傷つけてしまうのではないかと思うほど揺れる。まあおよそこんなところには不向き(アウトドア派のクルマは沢山いたが)だということがよく分かった。


しかし、クラッチを踏み、ギアを繋ぎ、ステアリングを操作するという作業がいかに楽しいかという実体験をさせてくれることも間違いないと思う。確かに微速前進や、微速でハンプを超えたり、歩道の段差を超える時は仕方ないとして、中速(ここでは60km/hくらい)以上になると、その乗り心地もピシッと決まり、路面からの突き上げは最小限となるし、サソリマークを押してスポーツに放り込んでおけばエンジンサウンドというかエクゾーストサウンドは、煩いではなく痛快に変わるから人間の感覚なんていい加減なものである。禁断の果実のごとく、こいつに乗るとついつい飛ばしたくなる。


だからヤバイ。近頃すっかり自動車が移動のための道具と化して来たが、こいつは大人をおもちゃで遊んだ頃の童心に戻してくれる。確かに試乗後の疲労度は高い。でもそれを超えた楽しさを味わうことができる。自動車として評価するなら、うるさい、乗り心地悪い、快適でないとおよそ褒めるところはないが、別な自動車の性格を持ったクルマとでも言おうか、とにかく車庫に仕舞って時々ストレス発散に乗り回すには最高の1台だ。


■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★(ただし特定の人向け)


中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

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