【マツダ MX-30 ロータリーEV 新型試乗】航続およそ770km、実質300万円台前半から。これが「真打ち」だ…中村孝仁
レスポンス / 2023年12月10日 12時0分
『MX-30』と名の付くクルマが誕生したのは2019年のこと。日本市場に最初に投入されたのは24Vのマイルドハイブリッド仕様(MHEV)だった。ヨーロッパでは先行してBEVが投入されたが、日本でBEVが投入されたのはMHEVから4か月ほど遅れて2021年1月にデビューである。
試乗会の時はいざ知らず、その後じっくり乗せて頂くとやはり負の側面が大きく顔をもたげた。それは当時試乗した試乗車の価格(506万円)がファーストカーに対して支払う対価ではないということ。つまり、日常的にこのクルマをファーストカーとして使うにはあまりに航続距離が短く、ほとんど軽自動車のような自宅周辺での買い物とか、往復50km程度の通勤などならまだしも、休日に家族旅行という使い勝手を持たないから、ファーストカーにはなり得ないというものだった。
マツダのエクスキューズは色々とあったものの、それらはあくまでも作り手ファーストであって、ユーザーフレンドリーではなくユーザー目線からはかけ離れたもののように映ったのである。だから当初から公言されていたガソリンエンジンを搭載して発電できる(レンジエクステンダーという言葉は少なくともアメリカでは使えないのだそうである)シリーズハイブリッドに期待を寄せたのは当然である。しかもその航続距離を延ばすための内燃エンジンがロータリーであると聞けばなおさらであった。
◆ファーストカーとしての対価に十分納得できる
今回はバッテリー容量がBEV車よりさらに少なくなり17.8kWhで、EVでの航続距離は107kmと従来の半分以下に落ちた。これはマツダの説明ではウィークデーの車両の使用を見ると、ほとんどがこの107kmの航続距離に収まっているからとのこと。ただし週末はこの限りではなく、300kmを超す遠出をするケースが多いらしい。そこで、必要になるのがレンジエクステンダーというわけで、今回それをロータリエンジンが司る。
同じような出力をレシプロに求めるとうまい具合にはエンジンルームに収まらず、先般行われたジャパンモビリティーショーに参考出品されたコンセプトカー『アイコニックSP』の2ローターもMX-30のエンジンルームには収まらないのだという。この内燃機関での充電を含めたトータルの航続距離は表示できない(してはいけない)のだそうだが、バッテリー満充電で走る107kmとハイブリッドの燃費15.4km/リットルにタンク容量50リットルをかけて770kmだからその合計が可能航続距離ということになる。これなら十分である。
しかも今回も一番高いモデルが491万7000円で、ベースモデルは423万5000円だから、補助金を想定すれば東京都の場合300万円台前半から購入可能ということになって、これならば価値はあるというか、ファーストカーとしての対価に十分納得できると思うわけである。
◆乗り心地は今考え得るマツダ車のベストと言っていい
では、その内容は如何に?ということになるのだが、初めに軽くびっくりしたのはバッテリーの容量を半分にしたのだからてっきり軽くなっていると思いきや、ロータリーエンジン他の重量物のせいで従来のBEVより130kgほど重くなっているというのである。ただ、それでも1780kgに収まっているから、昨今2トン越えが半ば常識になりつつあるこのサイズのBEV車に比べれば相当にましだ。BEVはタイヤの減りが内燃車よりも2割増しになるそうだから、ランニングコストを考えればやはりBEVよりもPHEVに落ち着くのが良いのかもしれない。
MX-30の使い勝手を良いと捉えるか、悪いと捉えるかはその人のライフスタイルにも関わるから敢えて言及はしないが、例えば我が家のケースでは小さな子供が二人いて、その子供を安全に(要はいたずらしてもドアが開かない)運ぶには持って来い。障害者の方が車いすを乗せる時なども便利なのだという。
乗り心地は今考え得るマツダ車のベストと言っても過言ではない。BEVと比べて少し重くなってはいるが、前後バランスが良くなったのか従来よりフラット感の増した乗り心地が印象的だった。
当たり前だが、静かである。走行モードがノーマルにチャージとEVの3種があってデフォルトはノーマル。パドルシフトで回生ブレーキの強さを変えることができるが、これもドライバーが設定したものを一度ギアをPポジションに入れただけでデフォルトに戻してしまう。この辺りの作りはマツダのフィロソフィーのようだが、エンジンを切ってクルマから離れるというならまだしも、一度止まってPに入れるともうそれ以前に設定した状態からデフォルトに戻してしまうのは少しやり過ぎのような気がする。
ハンドリングもすこぶるスムーズで気持ちが良い。以前のMHEVやBEVもハンドリングが良く、それは主査が名うてのドライビングの名手だったから(しかも女性主査)という側面もあるだろうが、今回もそれが踏襲され、さらに良くなっている印象を受けた。
◆肝心のロータリーエンジンは
肝心のロータリーエンジンだが、これが動力源というわけではなく、あくまでもジェネレーターとしての機能しか持たないから、敢えて言及するほどのことはない。エンジンがかかると低く、ロータリー独特のサウンドを聞かせてくれる。昔持っていた『サバンナGT』を思い出すロータリー特有のサウンドである。まあ、メリットとしてはかかった時のショックもなくスムーズで、その静粛性も同じシリーズハイブリッドシステムを持つ某社の内燃機関よりは滑らかだと感じる。
結論を言うと、MX-30としてはこれが真打ちのモデルだと思う。改めてじっくり乗ってみて、航続距離を試してみたいが、机上の数値とまではいかないまでも、それに近ければ内燃車と変わらない使い勝手を持つし、短距離ならガソリンを使うこともないからやはり良いチョイスになる気がする。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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