【スズキ スイフト 新型試乗】「スポーティの壁」は取り払われたのか?…中村孝仁
レスポンス / 2024年2月6日 21時0分
新しい『スイフト』を作るにあたり、スズキがこれまでの顧客の意見を聞いたところ、「高い走りのイメージ」が壁だったのだそうだ。
顧客の中にはスタイルがスポーティ過ぎて私には無理…という意見や、走りのイメージが強く、そこまで要らない…などの意見があり、それらを払拭したのが今回のモデルなのだそうである。これを聞いて、正直「おいおい」と思った。
実はこれと全く同じようなオーナーサーベイの元に作られたのが、現行『アルト』だからである。結果アルトは精悍なデザインから丸みを帯びたソフトムード一色のクルマに変貌し、走りのイメージをけん引してきた『アルト・ワークス』が消滅した。しかし、現状アルトは売れているようで、スズキのマーケティングは正しかったということになる。
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冒頭に話したようにスイフトもアルト同様、走りのイメージを払拭すべく、クラムシェル型の丸いボンネットをはじめ、スタイルは旧型よりもソフトムードの漂うモデルになった。それでもエンジンとCVTは完全に一新されてエンジンはZ型と呼ばれる1.2リットルの3気筒。それに合わせるようにCVTは従来よりも低剛性化したダンパーを入れた新しいものに変わっている。低剛性化ダンパーの採用は、3気筒の振動を抑える目的で採用されたとのこと。
因みにZ型新エンジンが従来のK型に他モデルでも置き換わるか聞いたところ、将来については未定とのことだったが、いずれ置き換わっていくことは間違いないと思う(勝手な推測だが)。
◆「スポーティの壁」は取り払われたのか
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さて、実際に走らせてみてその「スポーティの壁」は取り払われたのだろうか。結論から行くと走りの質はむしろ高くなっていて、依然として十分にスポーティだし、以前よりも多くのドライバーに乗り易いと感じるセッティングになっているのではないかと思う。
具体的にどこがどのように?という点だが、まず発進のスムーズさは確実に上がっていることと、メーカーの技術者が言う角を曲がる時などのハンドルの切れ込みがスムーズになっているという点は、簡単にいうと何も四つ角を曲がるときだけでなく、コーナーへの侵入の際にステアリングを切り込むと実にシャープにそしてスムーズにノーズが向きを変えてくれることで実感する。パフォーマンスに関しては従来と変わらない印象だが、静粛性の向上は顕著だった。
一方で走りに不満がないわけではない。特に気になったのはピッチング方向の揺れの抑えが効いていないことで、路面の不整に対する往なしができていない。このため不整路に差し掛かるとクルマはぴょこぴょこと跳ねる傾向がある。ローリング方向のチューニングは注力したようだが、果たしてダンピング特性なのかあるいはスプリングレートの問題なのか、そのあたりは定かではないが、ピッチング方向の足のセッティングに関しては要改善という印象を持った。
◆男性ユーザー向けにはマニアックな進化
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男性色の強かったユーザー層から、ターゲットを女性ユーザーを取り込む方策を講じている印象を受けた。それは上質感に現れていて、メーカーの言うように確かに立体的に見えるダッシュボードのパネルなどはそれなりの質感を出している。また、ADAS系が弱かったという先代の反省から今回はかなり力を入れていて、停止まで機能するACCの採用をはじめ多くの安全デバイスが追加されているから、こうした面でも女性には安心感を与えるものとなっているだろう。
では男性顧客にはアピール点はないのか? ということになるのだが、こちらはかなりマニアックな部分で進化していた。それは目に見えない部分だから対面で顧客に対応する営業マンのトークにかかっているかもしれないが、まずボディの床面はほぼ全面的に覆われ、エンジン下にもアンダーカバーを装着してボディ下面を整流している。
加えてサイドシル下にもアンダーカバーを装備して空気の流れを整流しているあたりは空力にかなり力を入れている印象が強い。高速を走れば燃費にも確実に効いてくるはずだ。音対策にも効果的で、特にエンジン下のカバーは熱気の吸い出しを心配するレベルだが、ちゃんとそのあたりは考慮済みだそうだ。
◆スズキ・マーケティングの勝利となるのか
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というわけで、新しいスイフトは見た目かなりマイルド感が増し、狙い通りに女性ユーザーには気に入ってもらえそうだが、これまでスイフト・スポーツがけん引してきた走り&スポーティーなイメージは影を潜めている。この辺り、アルト同様スズキ・マーケティングの勝利となるのか、あるいはその逆か。走りのインプレよりもそちらに興味を持ってしまったモデルになった。
とはいえ、跳ね気味の乗り心地を除けば、クルマとしての性能は確実に良くなっているし、走りを期待する向きにはMTの用意も今回はあるから、結果、スズキのマーケティングは適切だった、に落ち着く可能性が高い。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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