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フォーミュラE王者ジェイク・デニスが語る連覇への必要条件、シリーズの“現在地”と東京開催の意義

レスポンス / 2024年2月9日 20時0分

3月30日に待望の日本初開催戦「2024 Tokyo E-Prix」が実施される「ABB FIAフォーミュラE世界選手権」。そのディフェンディングチャンピオンであるジェイク・デニスが、迫る東京初戦への想いなどについて語った。


◆参戦初シーズンに初優勝、3季目に頂点を極めたデニス


電動フォーミュラマシンの最高峰シリーズ、フォーミュラEの歴史は2014年から2015年にかけて実施された“シーズン1”を起点とする。やがてシーズン7(2020/2021シーズン)からは世界選手権の称号を纏うようになり、2024年2月の今現在は、節目ともいえる“シーズン10”(2023/2024シーズン)が進行中だ。


実質的には2024年シーズンと考えてもいいシーズン10(全16戦を予定)は、1月に第1~3戦を実施しており、次戦第4戦は3月16日のブラジル・サンパウロ戦。そしてその次の第5戦が、日本初開催の「Tokyo E-Prix」(3月30日)ということになる。


2月は実戦開催に関しては小休止というタイミングになるわけだが、そこで昨季(シーズン9)王者、ディフェンディングチャンピオンのジェイク・デニスに、所属する「アンドレッティ・フォーミュラE」(ANDRETTI FORMULA E)とスポンサーシップ契約を結んでいる長瀬産業(NAGASE)の取り計らいによってオンラインインタビューすることが叶った。


ジェイク・デニス(Jake Dennis)は1995年生まれ、現在28歳の英国籍ドライバー。レーシングキャリアは「8歳からだ」と、本人が振り返る。やがてジュニアフォーミュラへと歩を進め、フォーミュラ系とハコ系、双方で世界トップ戦線へと進出していくことになる。


フォーミュラEにはシーズン7から米国籍チームのアンドレッティで参戦している。参戦初シーズンに初優勝を飾り、以降、今季(シーズン10)まで全てのシーズンで1勝以上を継続中だ(今季も第2戦で既にシーズン初白星をあげている)。参戦3季目の昨季、シーズン9には自身初のフォーミュラEドライバーズタイトル獲得も成し遂げた。


デニスには、F1を戦うレッドブル・レーシングの開発ドライバーという顔もあり、昨年のF1最終戦アブダビGPでは金曜フリー走行に出走。BMWのファクトリードライバーの任にも就くなどして、マルチな活躍を演じ続けてきた。


◆戴冠の原動力は「全員のハードワーク」、連覇に向け重要なのは「一貫性」


フォーミュラE・シーズン9におけるデニスの戦いぶりを振り返ると、勝利数は2と決して多くはないものの、とにかく上位でのフィニッシュが多かった。全16戦中、実に12戦で決勝4位以内のリザルトを残しており、うち11戦が3位以内、いわゆる表彰台圏内という高位安定度である。特にシーズン後半、第8戦以降の9戦はすべて4位以内(1戦を除き3位以内)で、5戦連続の表彰台獲得もあった。


「あの5戦連続表彰台は重要だったと思う」と、第8~12戦の流れがタイトル獲得への土台になった旨をデニスは語る。そして成功の原動力は、「やはりチーム全員のハードワークと献身的な働き、これに尽きる。それがあったからこそ、Gen3初年度(*)に信じられないくらい素晴らしい成功をおさめることができたんだ」。チーム一丸の継続的な努力の重要性を説くデニスである。


(*Gen3:第3世代マシン。フォーミュラEは昨季=シーズン9から全チームが使用するマシンを3代目に“モデルチェンジ”した。また、アンドレッティ陣営はシーズン9からポルシェのパワートレインで走っている)


今季第2戦(サウジアラビア2連戦の1戦目)でのシーズン初勝利は、2位に13秒という大差をつけての圧勝だった。デニス自身、「これも信じられないくらい素晴らしい勝利で、非常に大きなマージンをとって勝つことができた」と喜ぶ。ただ、タイトル連覇に向けて必要な条件としては「consistency」(一貫性)という言葉を強調する。


第2戦こそ圧勝したが、今季は3戦を終えて表彰台がこの1回のみと、昨季のデニスの高次元での安定ぶりに比べれば、成績的なアップダウンが激しい。それもあって「一貫性」という言葉に力が込められたようにも思えるところだが、主な理由はそこではない模様。デニスの考えは大所高所からのものであった。


「チームメイトが新しくなったこともあるし(ノーマン・ナトが加入。フォーミュラE優勝経験もある実力派)、チームとしての一貫した戦い方が大切になる。昨季のような成功を繰り返すのはとても難しいことだ。だからこそ、より良い結果を得るために、ミスをせず、自分たちのレースをすることに集中する、そういう取り組み方が重要だと思うんだ」


◆カーナンバー1、そしてアンドレッティというチーム名がもつ重み


今季、デニスはチャンピオンだけに許される特別なカーナンバー「1」を背負って、連覇という難事の達成を目指している。“1番”をつけて走る想いとは、どういうものだろうか。


「カーナンバー1はとてもスペシャルだ。自分たちが勝ち獲ったものであり、(今季のフォーミュラEでは)他の誰にも使う権利がないのだからね。でも、ドライバーである自分だけがこのナンバーに相応しいわけではなく、チームみんなの力で得たものであり、チームみんながそれに相応しいのだと考えている」


彼のチームの名はアンドレッティ。モータースポーツの世界では極めて大きい“家名”だ。マリオ・アンドレッティ、マイケル・アンドレッティらが築いてきたアンドレッティ家の栄光は比類なきものといえる。


「レースを始めて、年齢が上がってくるにつれて、“アンドレッティ”が成し遂げてきたことの素晴らしさを本当に理解した。そうした名のチームに加わり、そこで世界タイトルを獲得できたのはすごく特別なことだと実感している。チームには才能あるスタッフが揃っている。これからもエキサイティングで素晴らしい日々が待っていると思うし、努力して成功を続けていきたいと思っているよ」


デニスはアンドレッティと「長期的な契約を結んでいる」と言い、安定した環境のもと、フォーミュラEでの覇権を揺るぎないものにすべく邁進していく構えだ。


◆スタイルは、エンジョイしながら向上していくこと


デニスには少年時代の憧れのレーサー、といった存在はいるのだろうか。これを訊くと、ちょっと意外な答えが返ってきた。


「正直に言って、誰かがアイドル、ということはなかった。ずっと、自分のレースをエンジョイしながら上を目指すということだけを続けてきたんだよ。もちろん、レースをしてくる過程でルイス・ハミルトンやミハエル・シューマッハ、そしてアイルトン・セナといった存在を知ったし、彼らが素晴らしいことを成し遂げたレーサーたちだと理解して尊敬もしているけどね」


自身が世界のトップ戦線で戦うようになった今、もちろん大きな責任や重圧はあると思うが、そのなかでもそうした“レーススタイル”は継続できているのだろう、そういう自信がデニスの言葉からは感じられる。


「もちろん今もエンジョイできているよ。人生において、自分のやっていることを楽しみながら、常により高いレベルでそれをできるように努めていく、ということをずっと貫いてきた。(世界のトップで戦うようになった)ここ5~6年も同じだ。これは、どういう仕事をする人にとっても大切なことなのではないかな」


28歳はレーサーとしては中堅の域に入るが、一般社会ではまだまだ若者という年齢。それなのに、実に深い人生訓を教えてくれるデニスである。そこには、世界を獲った人の言葉ならではの説得力も宿る。ただ、こうした姿勢に関しては同業者の“先輩”あるいは“先達”と呼べる存在の影響もあったことをデニスは明かしてくれた。


「フェリックス・ローゼンクヴィストだ」。近年はインディカーを主戦場としているローゼンクヴィストは、ヘルメットひとつで世界を渡り歩いてきた、といった感じの多彩なキャリアをもつ名手で、フォーミュラEでの優勝経験もある。「素晴らしいパーソナリティをもった人だよ」とデニス。ローゼンクヴィストは日本のトップシリーズで活躍していたこともあるが、言われてみれば当時の筆者の取材のなかでも、彼にはそうしたレーススタイル(ワークスタイルあるいはライフスタイル)の片鱗を感じたものだ。


ちなみにデニスの親しい友人には、もうひとり、日本馴染みの世界的名手がいる。フォーミュラEで昨季(シーズン9)のチームメイトだったアンドレ・ロッテラーである。ルマン24時間レース総合優勝3度などの経歴を有し、日本でも長きに渡って活躍していたロッテラー。「鈴鹿に行ったことはあるけど、東京は初めてなんだ」というデニスにとって、ロッテラーは最高のガイド役になるだろう。


(ロッテラーは今季のフォーミュラEにレースドライバーとしては参戦しておらず、ポルシェのワークスチームであるTAG HEUER PORSCHE FORMULA E TEAMのテスト&リザーブドライバーを務めている。今季の彼の主戦場はWEC=世界耐久選手権。なお、Tokyo E-Prix開催時にロッテラーが来日するかは、現時点でデニスには「わからない」とのこと)


◆「成長段階」のフォーミュラEが東京初開催を迎えることの意義


日本とフォーミュラEの関わりは、これまでのところ、深いとは言い難い。フル参戦ドライバーは登場しておらず、参戦マニュファクチャラー(自動車メーカー)も現在、日産のみである。


ただ、アンドレッティには、前出の長瀬産業が2023年からスポンサーシップ契約を結んで支援をしており、フロントノーズ横に「NAGASE」のロゴが存在感を放っている。長瀬産業は化学系専門商社かつメーカーや研究開発の機能も有する企業(企業グループ)で、環境負荷の少ないモータースポーツであるフォーミュラEの姿勢に共感するなどしてアンドレッティへの協賛を開始。こうした動きが出て、さらには東京初開催実現という流れを経て、隆盛の機運が高まることが期待されている。


デニスはチャンピオンとして、フォーミュラEと日本の関係をどう考えているのだろうか。


「確かにフォーミュラEと日本の関わりは、まだそれほど大きくはないけれど、日産は世界的な存在感を有する自動車メーカーのひとつだし、ついに東京でレースができることの意義は大きいと考えている。我々は世界各地でレース開催を実現してきているし、いい方向に向かっていると思うんだ。特に東京のようなすごくエキサイティングでクールな街でのレースが増えていくのは、とてもいいことだよ」


デニスの言葉から、フォーミュラEが環境負荷の少なさを活かして都市部でのレースを多く実現してきた実績と、その狙い(環境問題対策とも相まった新たな都市型モータースポーツ文化の醸成)を、あらためて実感させられる。


「発足10年の若いシリーズであり、F1やサッカー、オリンピックのような長い歴史はまだない。成長段階なんだ」と、デニスはフォーミュラEの“現在地”を示す。「だからこそ、さっきも言ったように、東京にフォーミュラEが行くことの意義は大きいんだよ。たくさんの人に実際に見てもらって、マシンの性能やエキサイティングなレースを楽しんでもらいたい」


フォーミュラEに参戦するドライバーたちは、レースだけでなく世界各地の都市の文化に直接触れることに意義と楽しみを感じており、東京にも皆が大いに期待しているという。そしてフォーミュラEが成長していった暁には、「遠い将来かもしれないけど、F1より大きな存在になり得る可能性だってあると思う」ともデニスは話す。


◆「タフな競争にはなると思うが、もちろん東京で勝つ自信はある」


2024年3月30日(土)、ついに初めてのフォーミュラE東京戦が開催される。東京ビッグサイト周辺に設定される公道コースに、デニスは現段階でどんな印象をもっているのだろうか。


「公開されたコース映像を見るなどしている。今のところのイメージとしては、東京のコースはテクニカルでタイトでツイスティという感じで、オーバーテイクが難しいかもしれないね」


「もちろん目指すのは勝つことだ。他の選手たちも皆、常にそうだろうし、東京のような大きな、そして素晴らしい都市での勝利を皆が渇望していると思うよ。東京でレースをするということ自体が素晴らしい経験になる。みなさんに良いショーを見せたいね。勝つ自信? タフなコンペティションになることは理解しているけど、自分もチームも勝利する自信はもっている」


「東京で見たいものや、してみたいこと? いや、東京という街がオファーしてくれるものを全てそのまま楽しみたいと思っている」


転戦地の文化全てを楽しもうという姿勢は、フォーミュラEの王者に相応しいものだろう。前述したように、環境に優しいモビリティを中核に、新たな都市型モータースポーツ文化を創造することがフォーミュラEという若くアクティブなトップレースシリーズの大きな魅力なのだから。


自覚と自信に満ち、仲間と一緒に努力を続けるフォーミュラE王者、ジェイク・デニス。2024 Tokyo E-Prixでの活躍に期待したい。

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