なぜ電動SUVの『アリア』で走りの「NISMO」? 900万円のアリアは高いか安いか
レスポンス / 2024年3月10日 12時0分
8日から日産『アリア』の全モデルの販売が開始された。その中に日産のチューニングブランドが手掛けた『アリアNISMO』がラインナップされた。アリアなのにNISMO? という気がしないでもないが、試乗してみると、ちゃんとアリアであり、かつしっかりNISMOでもあった。
◆アリア販売再開と同時にNISMOバージョン発表
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アリアは2021年6月に国内販売が開始された。日本仕様は「Limited」というサフィックスがつくモデル名となり、バッテリー容量によって「B6(66kWh)」と「B9(91kWh)」の2つのグレード、さらに2WD、4WD(e-4ORCE)が選べる合計4グレードが存在した。だが、その後の半導体不足など影響から追加受注を止めていた時期もあった。
供給体制が整ったことで、「Limited」をなくし、3月8日に改めての発売開始(再開)となった。ラインアップは「B6」「B6 e-4ORCE」「B9」「B9 e-4ORCE」の構成は変わらないが、上位モデルに「B9 e-4ORCE プレミア」が追加された。メーカー設定の基準車はこの5グレードだが、さらにNISMOバージョンのアリアが2グレード発表された。「NISMO B6 e-4ORCE」と「NISMO B9 e-4ORCE」だ。
アリアNISMOのうち「NISMO B9 e-4ORCE」について、テストコースでの試乗と開発スタッフに話を聞く機会を得た。アリアNISMOは、0-100km/hは5秒台。筑波のラップタイムが1分08秒台だという高級SUVとは思えない動力性能だ。基準車のアリアとの違いを中心にレポートする。
◆基準車とどこが変わっているのか
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基準車から交換・変更された主な装備は以下のとおりだ。パワートレインやシャシー、足回りについてば後述する。
●エクステリア
フロントバンパー
リアバンパー下部
フロントホイールアーチフィニッシャー
ドアフィニッシャー
リアスポイラー
ニスモエンブレム(前後)
リアフォグランプ
アルミホイール・タイヤ
フードステッカー(オプション)
ドアミラー(レッドアクセントを追加)
●インテリア
ステアリングセンターマーク(レッド)
NISMOメタルエンブレム
EVサウンド(BOSEサウンド装着車)
メーターグラフィック・オープニングムービー
レッドアクセント(ボタン・ステッチ・フィニシャー各所)
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コンセプトはアリアの持つ風格を維持しながら、NISMOのパフォーマンスを注入すること。ニスモ チーフプロダクト スペシャリストの饗庭貴博氏は「電撃パフォーマンス」と呼んでいた。「電撃」に関する運動性能については、パワートレインや足回りのチューニング(後述)で対応し、アリアのロードカーとしての風格は安定性・安全性の向上を、おもに空力によって成し遂げるという戦略だったという。
フロントバンパーは、基準車と形状は大きく変わらない。ブラックアウトのカラーリングだけにも見える。だが、タイヤハウスへのインテーク、車体底面から後ろへの整流を見直している。ホイールも空力を考えた形状になっている。リアスポイラーは取り付け位置をリアウィンドウ下端にし、形状も工夫することで後方の渦を車体から遠ざけるようにしている。これにより、Cd値を6%下げることに成功した。フロントバンパーとリアバンパーのディフューザー、車体下部の流れを作ることで。Cl値(揚力値)を40%改善している。これらはダウンフォースをより大きくし、接地性や安定性・安全性に寄与する。
◆パワートレイン・足回り・EUCがNISMO専用設定に
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アリアは基準車(4WD)、つまりノーマルのラインオフの車両で4WDの場合、最大トルク560Nmの性能を持つ。トルクは『GT-R NISMO』や『スカイライン NISMO』に匹敵する数値でありロードカーとしての性能は十分である。これをさらにNISMOの名に恥じない車にしなければならない。モータートルクとフロアバッテリーの安定性をもってすれば、EVの動力性能、運動性能は同等クラスのエンジン車よりも高くできる。
バッテリーのような重量物を積んでいても、それを感じさせない加速性能や旋回性能を持つEVは少なくない。アリア(基準車)もそのひとつだが、欠点は2.2トンという車重だ。GT-R NISMOなどより500kgほど重い。しかもSUVという腰高のボディである。加減速・旋回によるピッチングやロールをうまく抑えれば、風格とパフォーマンスを両立させたアリアNISMOは成立する。
そのため、まずパワートレイン、足回り、電子制御に手を加えている。モーター出力は基準車より30kWアップし320kWとなった。最大トルクは600Nm。発進時のアクセルレスポンスと高速道路などでの中間加速(80km/hから120km/h)を改善させている。走行モードでは、基準車の「ECO」「SNOW」「STANDARD」に「NISMOモード」が追加された。NISMOモードとSTANDARDモードは回生ブレーキとe-4ORCEの制御も専用にチューニングされている。つまりアリアNISMOでは、STANDARDモードでもチューニングされたECUでの走りが体験できる。
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足回りでは、フロントサスペンションのストラットのシェルケースの板厚を厚くしてキャンバー剛性がアップしている。ショックアブソーバーの減衰率の調整、スプリングのばね定数を3%アップさせている。フロントスタビライザーもばね定数が15%あがっている。ショックアブソーバーはリアも減衰力チューニングが施され、B9はリアばねも10%定数をアップさせている。
フロントのブレーキパッドは、ロースチール素材のもに交換され耐フェード性が向上し、操作フィーリングもよくなっている。
ロールを感じやすいSUVなので、シート形状や素材も変更されている。シートバックに補強が入り、加速時の背中のホールド感をよくしている。サイドサポートも高さを上げ、ホールド性を向上させた。
◆NISMOの名に恥じない動力・運動性能
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これらの改良・チューニングはテストコースの試乗で十分に感じられた。ストレートでの中間加速は、かるく加速するイメージでアクセルを踏んでやれば一気に120km/hまで達した。ただし、STANDARDモードもe-4ORCE他がチューニングされているので、NISMOモードが極端にパワフルという感じはない。NISMOのSTANDARDで十分な動力性能を体感できるということだ。開発でテストドライブ他を担当した神山幸雄氏によれば、「全開付近なら違いを感じられるだろう」とのことだ。
コーナリングやレーンチェンジでのロールは最小限だ。高いスピードでのコーナリングやコーナリング中にアクセルをあえて開けるような走りをすると、たしかに横Gは大きくなる。だが、4輪の接地性は非常に高く、アップダウンのあるコーナー、下りからのターンでもタイヤは4つとも路面に吸い付いている感覚だ。この性能はスラロームで顕著だった。SUVのため、ステアリング操作に少し遅れて横Gを感じるが、その感覚がわかれば(2回目以降)、車はステアリングどおりに動いてくれるので、アクセル開度を保ったまま修正舵も必要なく抜けられた。
スラロームは奥にいくほどモーメントが蓄積されスピードを落とさないと抜けられないことが多い。ステアリングの操作も、奥にいくほど操作が多くなる。だが、アリアNISMOは最後まで同じ切り方、アクセル開度でいける。
ロースチールのブレーキパッドの効果も確認できた。コントロールブレーキが非常に使いやすい。回生ブレーキが強くなるeペダルモードでも、フットブレーキの力加減で停止位置を思ったところに持っていける感じだ。筆者は通常EVに乗っているので、Bモード(回生ブレーキ強)+eペダルモードONが運転しやすかった。
◆900万円のアリア(NISMO)は高いか安いか
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本来、アリアのような車はNISMOチューニングに馴染まない。オーテックでアーバンSUVとしてドレスアップするという方向もあったかもしれない。「NISMOはどちらかというと、マーチやノートなど(走りに特化したクルマではないもの)をいかにチューニングしていくか、いかにパフォーマンスを上げるかにこだわるブランド。アリアのように完成度の高いプレミアムカーをNISMOにするのは難しかった」(カスタマイズプロジェクト統括部 成富健一郎氏)という。
しかし同時に「アリアをNISMOにできたのは、e-4ORCEの賜物だ」(成富氏)とも語る。2つのモーターを1万分の1秒単位で制御することで、コーナリング中もリアルタイムで細かいトルク配分を変えることができる。2トンを超える車を、コーナリングでアンダーステアがでないように、フロントのトルクを少し抜いてリアを強める。左右の回転差、スリップの具合も検知して細かく制御を繰り返す。安定かつ異次元のコーナリングを実現している。
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この制御はおそらく危険回避でも有効だ。スラロームをテストしているときに、アリアNISMOで「ムーステスト」(北欧で巨大なヘラジカに遭遇しても回避できるかを想定したテスト)を見てみたいと思ったくらいだ。
基準車の最上位グレード「B9 e-4ORCE プレミア」は860万3100円。アリアNISMOは、B6 e-4ORCEで842万9300円、B9 e-4ORCEで944万1300円。B9だと、基準車の最上位グレードより約100万円ほど高くなる。アリアのオーナーはサーキットに持ち込んだりする人は稀だろう。また、競合しそうな輸入EVと比較すると、正直価格競争力があるわけではない。だが、空力による安定性、加減速性能、危険回避運動性能を考えると、アリアの上位モデルを検討している人ならNISMOバージョンも選択肢に十分入るのではないだろうか。
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