【ボルボ EX30 新型試乗】デザインのために操作系が犠牲になるのは正しいのか…諸星陽一
レスポンス / 2024年4月21日 12時0分
電動化に大きく舵を切って進むボルボ。初のEV専用プラットフォームを用いたモデルとして登場したのが、輸入EVとしては比較的コンパクトな『EX30』だ。
◆小さいながらも“どっしり”とした走り
ボディサイズは全長×全幅×全高が4235×1835×1550(mm)。ヒョンデの『コナ』よりも若干小さい。最近はクルマのサイズが大きくなっているので、1800mmを超える全幅をもつEX30でもコンパクトに見える。都内で試乗車を受け取り、都内を巡るという一般的な使い方を中心に試乗した。
露天の駐車場でクルマを引き渡されるとサイズがコンパクトなことを実感する。全高も1850mm以下に抑えられているので、新しめの機械式駐車場なら入庫できる場所が多いだろう。クルマに乗り込み、操作方法を簡単に教わる。AT(といっていいのか疑問ではあるが)セレクトレバーは、センターまわりではなく右コラムに移動された。メルセデスと同じようなタイプで、レバーを上下に動かしてポジションを選ぶ。
アクセルペダルを踏むとグッとクルマが発進する。リヤ駆動なのでフロントがグッと持ち上がるような動きをしつつ力強く発進する。エンジン車だともう少し発進が穏やかなのだが、EV(とくに後輪駆動)はこのゼロ発進でのトルクの掛かり方がちょっと強い。ここがEVらしさでもあり楽しい部分でもあるのだが、同乗者はちょっとギクシャク感を感じてしまう。たとえば走行モードを設定し、ノーマルモードではエンジン車における2速発進のようなトルクを抑えた発進になるといいと感じる。
その後の走りについては快適そのものだ。重心が低いこともあり、小さいながらもどっしりと落ちついた状態で走るのも気持いい。アクセルを踏み込んだ際の加速感も申し分ない。搭載されるモーターは272馬力/343Nmなので、スペックとしては十分だ。バッテリーは69kWhで、WLTCモードで560kmの航続距離がある。
ACCの性能もよくしっかりとそして安心感を持って追従走行を行う。自動駐車機能も試したが、消えかかった駐車場の枠もきちんと認識。駐車速度もある程度の速さが確保されていて、駐車が苦手な人が自分で操作するよりは確実にスムーズだろうなと感じさせるものであった。このレベルならば実用性は高い。
◆センターモニターに機能を集約する功罪
ボルボはセンターのモニターでさまざまな設定が行えるクルマが多い。このEX30も同様で回生量の調整やステアリングのアシスト量、ACC走行時の車間距離の調整などについてもセンターのモニターで行う。基本的には2階層か3階層程度に設定画面があるのだが、ホームポジションにショートカットキーが設定されており、よく使う機能をそこに割り当てることができる。
試乗車は回生量の調整が割り当てられていた。とはいえ回生量の切り替えはパドルなどで瞬時に増減できたほうがいい。電費を稼ぐにはそうした操作が必要である。また、ACC使用時の車間距離設定がセンターパネルの第2階層より先にあるのもおかしい。
また、あらゆる表示をセンターモニターに集約しているのは安心感がない。速度表示やウインカーの表示もセンターモニターに表示される。EX30のダッシュまわりはたしかにスッキリしていてスタイリッシュ。今まであまり見たようなことのないもので新鮮さにあふれ、商品性が高い。しかしそれが使いづらかったら、あまり意味がない。
速度を確認するたびに視線を動かすのは非合理的だ。今まで多くのクルマがメーターの視認性を競い、ヘッドアップディスプレイを採用してきたのに、速度はセンターを見て下さい、ウインカーはセンターを見て下さい…はちょっとおかしい気がする。セレクトレバーをコラムレバーにしたのも同様で、デザインのために操作系が犠牲になるのは正しい方向性とは思えない。
プロドライバーが運転するトラックなどではこうしたインパネは採用されない。それは確実性を求めているからである。せめて速度とウインカーはヘッドアップディスプレイに表示されるようにするべきだし、スマホの充電スペースよりもセレクトレバーの確実性のほうが重要だと私は思う。また、フットレストが柔らかく、踏ん張った際にフワッとした感触があるのにもちょっと違和感があった。フットレストはガッチリしたものがいい。
◆商品性のために機能をスポイルしてしまっては…
クルマの基本性能は高い水準にあり、ドライブフィールやラゲッジスペースの使い勝手などもいいのだが、商品性のために機能性をスポイルしてしまっているのがおしい部分であるというのが私の見解。もちろん、オシャレであれば機能はその次でいいという考えもあるだろう。筆者は革靴よりもスニーカーが好き、寒い思いや暑い思いをしてまで格好いい服を着るつもりはない、という性格なのである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★
諸星陽一|モータージャーナリスト
自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。趣味は料理。
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