【ヤマハ XSR900GP】開発者が語る「ただの80年代オマージュやレプリカを作ったわけじゃない」
レスポンス / 2024年4月30日 12時0分
ヤマハ発動機から間もなく登場する、新たなスポーツヘリテイジモデルが『XSR900GP』(発売日2024年5月20日/価格143万円)だ。今回、その開発メンバーに話を聞くことができたため、ディティールやハンドリングに込められたこだわりを、前編と後編の2回に渡ってお届けしよう。
【インタビュー参加メンバー】(敬称略)
PF車両ユニット PF車両開発統括部 SV開発部
プロジェクトリーダー
橋本 直親
PF車両ユニット PF車両開発統括部
SV開発部
野原 貴裕
PF車両ユニット PF車両開発統括部
車両実験部 プロジェクトグループ
細 彰雄
PF車両ユニット PF車両開発統括部
車両実験部 プロジェクトグループ 主事
田中 大樹
PF車両ユニット 電子技術統括部
システム開発部 設計1グループ
中田 周太郎
◆欧州での『XSR900DB40』発表は、開発者にもサプライズだった
「XSR900GP」らしきモデルが公の場に姿を現したのは2023年7月、イギリスで開催された「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」でのことだ。会場では、元GPライダーのニール・マッケンジー氏がデモンストレーション走行を行い、その時は「XSR900DB40」という車名がカウルに記されていた。
DBとは、かつてのGPマシン「YZR500」に投入されたデルタボックスフレームに由来する。その40周年を記念し、ネイキッドの『XSR900』をベースに制作したモデルがXSR900DB40だった。XSR900のフレーム断面は中空のボックス状ではないが、デルタ状の外観には確かにあの頃の雰囲気がある。その意味で、時代の継承を表現するにふさわしい素材であり、イベントに彩りを添えるショーモデルとして、大きな役割を果たすことになった。
----:振り返ってみると、XSR900DB40は限りなく市販車に近い、言わば匂わせモデルでしたね。保安部品を外し、本来ヘッドライトが収まるスペースにはダクト風の擬装が施されていたものの、XSR900GPとの間に差異はほとんど無く、大部分がそのままの意匠で送り出されることになりました。
橋本:欧州におけるプロモーションの手法は、欧州の拠点に委ねている部分も多く、グッドウッドでの公開は、実は我々にとってもちょっとしたサプライズだったんです。結果的に大きな反響があり、ポジティブな声を多数聞くことができました。
----:その後、XSR900GPは「ジャパンモビリティショー2023」(日本)、そして「EICMA」(イタリア)での正式披露へ至ったわけですが、企画自体はいつ立ち上がったのでしょうか。
橋本:XSR900はデルタボックス風のアルミCFダイキャストフレームを持ち、リアまわりにはシングルシートを思わせる造形が与えられています。また、80年代のGPマシンを思わせるカラーも用意していましたから、その発展形の模索は、ごく自然な流れでした。とはいえ、XSR900の開発と並行していたわけでも、その構想が当初からあったわけではなく、カウルの有無を含めた様々なスタイルを探る中、徐々に具体化していきました。
◆「80年代」への思いを形にした
----:XSR900にも80年代の要素が散りばめれていますが、XSR900GPは、それ以上ですね。
野原:「あの頃」を思わせる意匠を挙げていくとキリがありませんが、だからと言って、なんでもかんでも盛り込むと、チグハグな印象になりかねません。どこか一部分が際立つのではなく、全体のバランスが整うように気をつかいました。
----:それでもあえて、デザイン上のポイントになる部分があるとすれば、どのあたりでしょうか。
野原:個人的には、フレームをシルバーにしたところが、当時感にひと役買っていると考えています。スケッチ段階ではブラックで進んでいたのですが、途中でこの色を提案させてもらいました。
----:確かに80年代のYZR500のフレームはシルバーで、90年代に入ってからはブラックに塗装されました。XSR900GPのシルバーは、当時と同じ色なのでしょうか?
野原:YZR500のシルバーフレームはアルミそのものの色なので、塗装によるXSR900GPのそれとは異なります。塗料の調合によって、雰囲気を近づけているわけですが、現行の他のモデルにはない色味で、印象を大きく変えているポイントだと思います。
----:野原さんには2年ほど前、XSR900が登場した時にも話をうかがいました。その時もやはり、80年代への強い思い入れを感じました。
野原:リアルタイムではないのですが、昔からモータースポーツが大好きだったため、歴史を振り返っていくと、必然的に80年代に行き着くことになります。それが高じて学生の頃は当時のレーサーレプリカを乗り継ぎ、たとえばフレームとアッパーカウルをつなぐステーなどは、XSR900GPの開発にも活かすことができました。
----:ステーの存在もさることながら、大きくラウンドしたスクリーンの形状、別パーツで構成されたナックルガード、イエローのゼッケンベースなど、一定の世代には懐かしいアイテムばかり。開発陣が楽しんで作っている様が伝わってきます。
橋本:バイク全体の見た目もそうですが、乗車した時のコクピットビューの雰囲気や質感に気を配っています。ステー先端のアルミナットとカラー(TZR用と同寸のものを復刻)、それを留めるベータピン、肉抜き加工を施したメーターステーなど、その頃のレーサーを下敷きに、可能な限りアイデアを盛り込みました。
◆レーサーレプリカやSSを作りたかったわけじゃない
----:開発メンバーは、若い人が多いですよね?
細:かつてのレーサーは弊社で多数保有していますし、ビデオや動画もかなり観ました。やはりあの頃のことになると、世代に関係なく、みんな熱くなるんですよね。お客様にとっても憧れが強い時代でしょうから、その期待に応えられる仕上がりでなくてはいけません。ディスカッションを幾度となく繰り返しながらの、楽しい時間でもありました。
----:レースとレーサーレプリカ全盛期が背景にあることを踏まえると、あえてハーフカウルにしたことは、大きな決断だったのではないでしょうか。
野原:ここは当然フルカウルでしょう、という議論はかなりありましたし、実際試作もしています。ただし、このモデルはあくまでもGPマシンを「モチーフにした」ものであり、レーサーレプリカやスーパースポーツとして作っているわけではありません。幅広いユーザーに、カジュアルに楽しんで頂きたい、という思いから今回の仕様になりました。
田中:とはいえ、単にそれっぽい形状のカウルを装着したわけでもありません。ウインドプロテクションと放熱効果のバランスを図り、あのナックルガードやウインドスクリーンも当時のGPマシンをオマージュしつつ、普通に流して走っていても空気を効果的に整流する機能パーツになっています。
----:昔の意匠と最新の機能の融合という意味では、メーターにもそれが表れていますね。
中田:フルカラーTFTメーターでありながら、アナログ風タコメーターを中央に大きく配した専用画面を用意しています。グラフィックデザイナーを交え、様々な案を経て形になったビジュアルもそうですが、スロットル開度や吸排気音に対する針の動きにもこだわり、テストライダーに逐一試してもらいながら作り込みました。
田中:見え方と体感と音。これらがすべて揃ってこそのタコメーターですから、少しでもずれがあると違和感が残ります。ハンドリングやエンジン特性はもちろん、こうした部分もまた、コントロール性や一体感に影響するため、かなり時間を割きました。
----:ありがとうございます。後編では実際の乗車感も含め、さらに詳しくお聞かせください。
後編はこちらから。『【ヤマハ XSR900GP】結果的に「XSR900」とは別モノに、追求したハンドリングも「プレッシャーだった」』
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