【BMW 320d ツーリング 新型試乗】10年経っても一線級、乗用ディーゼルが生き残る術はないのか?…中村孝仁
レスポンス / 2024年6月16日 8時0分
現行『3シリーズ』(コードネームG20)がデビューしたのは2019年だから、もうすでに5年目のモデルイヤーに突入している。しかし、ここに至るまで『320d』に試乗したことは無かった。ツーリングはセダンのG20に対しG21のコードネームを持つもので、こちらはデビューしたての時に「318iツーリング」に乗っただけで、やはり長いこと試乗したことがなかったのだ。
◆ICEが生き残る術はないのか?
BMWに限らず、ヨーロッパの自動車メーカーはICEの開発を凍結したと言われて久しい。これからは電気の時代だと。確かにCO2削減を大命題に掲げる今となっては、ICEが生き残る術はないのか???と考えてしまうが、今のBEV即ち電気自動車では解決すべき問題点がまだまだある。徐々にその数を増やしているとはいえ、少なくとも中国を始めアメリカ、ヨーロッパのすべてで、BEVの販売は鈍化し始めているのだ。
何故か?理由はいくつもあると思う。一つはアーリーアダプターにクルマが行き渡ってひと段落しているという点。次に補助金がカットされ始めて元々高価なBEVの値段がICE車に対して優位性を失い始めている点。そして解決すべきインフラ整備や充電にかかる時間的問題などが解決されていない点などがある。
ディーゼル車は本来ガソリン車に比べると重量が重い。場合によって軸重で100kg重いケースだってある。それでもBEVと比べたら圧倒的に軽い。同じ仕様の電気自動車がないのでBMWで一番近いと思われる『i4』との比較でi4が2080kgであるのに対し、ディーゼルの『320dツーリング』は1740kgと実に340kgも軽いのである。
電池を床一杯に敷き詰めるから重心高は低く、安定性には大きく寄与しているが、340kgものぜい肉を抱えていては足腰に負担がかかることは言うまでもなく、ここでいう足腰はタイヤへの負荷である。もちろんタイヤメーカーもただ手をこまねいているわけではなくて、最近はBEVの負荷に耐えるタイヤの開発に余念がない。
ただ、必然的に減りは早くなる。それはランニングコストを圧迫し、ユーザーの負担が増えることになるのは間違いなくて、一概に電気自動車を積極的に勧められない理由はそのあたりにもある。ただ、電気自動車はずばり静かで速い。それは圧倒的だ。
◆ディーゼルの息の根を止めてしまうのは誠に惜しい
ただ、電気自動車に抵抗なく育つであろうこれからの世代の人は、何で今更ICE?ってなるのかもしれない。電動化が叫ばれてはいるものの、その中にはPHEVやHEVが含まれていることを見逃してはならないのだが、それらは確かにICEを使ってはいるものの、ディーゼルではない。残念ながら乗用のディーゼルはそう遠くない将来に無くなってしまう可能性が高いのである。
ただ、今回ディーゼルに乗って改めて思ったことは、これほど静かでこれほどスムーズで、しかもトルクフルな走りを披露し、且つ日本ではランニングコストに大きく寄与するICEは他にはない。3シリーズの比較的大柄(と言っても手ごろなサイズ感)なボディと1740kgの車両重量にもかかわらず、実用燃費では楽々とリッター15kmを記録する実力を持つのである。
まあ場所にもよるだろうが、現行のハイオクガソリンとの価格差は実に40円である。これほど大きな差があるのは日本だけだし、そもそもガソリンの値段がアメリカを除けばヨーロッパと比較しても日本は安く、特に軽油の値段は飛び抜けて安いはず。そんなディーゼルエンジンの息の根を止めてしまうのは誠に惜しいと思う。だから、乗れるうちに乗っておきたいと感じてしまうわけである。
◆10年を経てもトップクラスのディーゼルユニット
現行のターボディーゼルユニットはB47というコードネームの高性能版のモノで、デビューは2014年と既に10年の歳月が流れているのだが、依然としてその性能ではクラストップというか、抜群の静粛性やスムーズネス、パフォーマンスを示す。
最高出力190ps、最大トルク400Nmはいずれもガソリンターボを凌駕する。しかし、トルクバンドに関しては1750rpm~2500rpmとかなり狭く、それだけを見るとガソリンの方が幅広いトルクバンドを持っているのだが、実際に乗ってみるとそのトルクバンドの狭さはまるで感じられず、常用域では常に最大トルクを出している印象すら受ける。
マイチェンを機にインテリアが大きく変わり、最新BMWに共通の大型カーブドディスプレイが採用されているが、エコプロを含むドライブモードやダイヤル式iDriveなどは従来のまま。
Mスポーツだから足が少し締め上げられた印象が強く、小さめの入力でも収束を一発で納める代わりに都度都度の入力自体は決して小さくはない。原因は太いタイヤにもある気がする。前後で異なるサイズを持っていて、フロントは225/45R18、リアは255/40R18である。まあ個人の嗜好によって印象が異なると思うが、個人的にはMスポーツではない仕様が乗り心地の好みとしては合っている。
全長4720×全幅1825×全高1455mmというサイズ感はどこを走るにしても日本では都合の良いサイズ感で、次の3シリーズが大型化しないことを願うばかりである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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