【シトロエン C3 海外試乗】噛めば噛むほどシトロエン、BEVになった新C3が仕掛けた「勝負」とは…南陽一浩
レスポンス / 2024年6月22日 18時0分
「1年前のクリニックで得られた回答の中には、『新しいランドローバーか何かかい?』という声がありましたよ。つまり、ドイツのSUVには見えない時点で、悪くないと受け止めました」。そう述べながらプロダクト担当ディレクターのリシャール・ブランシャール氏はニヤリと笑った。「クリニック」とは、自動車メーカーがブランドを伏せて潜在的な顧客を対象に行うアンケート調査のことで、開発中や市販前にニューモデルの方向性を客観評価する。いわばそれほどに、新型『C3』は現行世代とテイストを異にすることを目指していたのだ。
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とはいえプレゼンをひと回り聞いて、新型C3のコアバリューとなる4本柱で現行のC3ハッチバックから新しく加わったのは、「サステイナブル」ぐらいであることに気づく。他の3本柱、「シンプル」「快適性」「大胆さ」を支えに、「ポピュラー」であることを最大目標に掲げるのは、全世界で560万台、日本でも1万台以上と、近年のシトロエンで最大ヒット作となった現行3世代目C3の成功を、新しい4世代目でもある程度再現したいという意図が見える。
「ある程度」と注釈つきなのは、パワートレインのラインナップはピュアBEVを筆頭に、ICEはピュアテック100+6速MTのみ、日本市場ではメインとなるであろう48VのMHEV+eDCT6速仕様は2024年末から生産が始まるが、いずれディーゼルを今世代には含めない分、現行世代と同じ販売台数はあえて見込まないという分析だ。
だが販売台数を減らす戦略をとるはずもなく、新型C3の派生モデルとしてすでに7人乗りバージョンとなる『C3エアクロス』の露出が始まっているが、2027年までにSUVクーペ版のニューモデル『バサルト』も予定している。これら同じプラットフォームの3台をシトロエンは「C-キューブド・プログラム」と呼び、最終的には現行C3以上のシェア拡大を狙っていくのだ。
話がやや逸れたが、第1弾となる新型C3の肝要どころを、ごくストレートに解釈すれば「キープコンセプトとは言わせない」ところにある。CEOもデザインチーフもプラットフォームも、先代とは一新されている以上、販売全体の30%を占めるヒットモデルにも変化を求めたのだ。
◆味わい理解するのに時間がかかる新デザイン
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新しいC3のデザインはパッと見に、キュートさで訴求するタイプではない。それどころか味わい理解するのに時間がかかる。でも噛めば噛むほど味が出てくるタイプといえる。削り込んだような凹みを多用し、画像でこそビジーでソリッドなデザインに見えるものの、実車は確かにボールド・スタイルだが、思っていたよりエンターテイナーな雰囲気。というのも凹部はマッチョに見せるよりも、「キャビンとボディを上下に分けて、小舟のように見せるライン」とエクステリアデザイナーのシルヴァン・アンリ氏が形容する通り、前後ガーニッシュから水平に目立たないように処理されたショルダーラインを、引き立てるためのものだ。
分かりやすくいえば、じつはアンリ氏はプジョーの初代『208』のエクステリアをも手がけたベテランで、筋肉質に見せるための削り込みと、シトロエンらしい踏ん張りを効かせるためのボディの削り込みは、そもそも性質が異なるという。加えて今次のC3はシトロエンの新ロゴ採用第1号でもあり、ダブルシェブロンとそれを囲むオーバルとで、面の角度がかなり違うことにも驚く。そういう新しい彫刻性が実際、新型C3のエクステリアに与えられているからこそ、眺めるほどにジワジワと好ましくなってくるのだ。
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またクォーターウィンドウとフロントグリル左右両端に配されたアクセントバーは交換可能で、基本的に蛍光色かフレンチのトリコロール。こういう面積控えめアクセントの効かせ方も、シトロエンの本領発揮だ。幅の異なるクラスター状のLEDを組み合わせた新たなライトシグネイチャーも、いかつさよりはスッキリ感を醸し出している。
ところで、ほぼSUVといえるスタイルに仕上がったことで、ボディサイズは旧型より拡大してみえるが、さにあらず。全長4015×全幅1755×全高1577mm(ルーフレール含む欧州発表値)という外寸は、縦方向だけ80mm以上も伸びたものの、左右は先代比で+5mm、前後は20mmの範囲に収まるため、サイズ感としては大きくなっていない。
◆車内に乗り込んで「一本とられた」
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新しいプラットフォーム「スマートカー・プラットフォーム」は部品点数を30%も削減するのに寄与し、先代との共通パーツはブレーキディスクとキャリパーぐらいで、前後車軸もサスペンションアームも一新されている。一方でADAS関連は緊急ブレーキ補助やレーンキープアシストは備わるが、価格のためとはいえACCやレーンセンタリング機能を敢えて省く点も潔い。
また床下に収められる44kWh容量のリン酸鉄リチウムイオンバッテリーだが、こちらはセルの厚みを抑え、シャシーの補強メンバーを跨いで、4輪からなるべく均等に配列されている。こうして質のいい低重心化を実現できたがゆえ、ルーフ高も着座位置も上げる方向性を正当化できるまでになった、つまりデザインランゲージもハードウェアもブランニュー、それが新型C3の成り立ちで、BEVネイティブであることは間違いない。「価格を抑えることが至上命題でしたが、我々は本物の車を作っていますから」と、先述のブランシャール氏は確信をもって語る。
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車内に乗り込んで、また「一本とられた」と感じるのは、インテリアのデザインと居心地レベルの高さだ。欧州市場のBセグ・ピュアBEVで競合するライバルには、使い勝手はともかく素材感は割り切ったモデルが少なくない。シトロエンは逆に、価格は抑えたまま乗り手に使い勝手とデザイン性、双方で価値をもたらす方向を打ち出した。平たくいえば、快適で使い勝手よく、スタイリッシュな空間であることだ。水平基調で2段構えの真ん中が物入れっぽくなったダッシュボードの意匠や、頭上を横切って走るルーフの補強には、往年の『2CV』に通じる雰囲気すらある。
そこに旧型より+10mmクッションの厚みを増したアドバンストコンフォートシートの包み込むような座り心地に、ダッシュボード最前方に備わりステアリング上から視認する最小限のメーター表示、一方で手元には10.25インチの小さくないタッチスクリーンと、ワイヤレス充電トレイが設けられている。古典的あるいは超モダンな要素が交錯しつつ、寛いで走りに集中させるという目的にすべてが調律されているのだ。ちなみにダッシュボード下段をファブリック張りとするなど、カラー&素材は『C5 X』同様、日本人マテリアル&カラーリストの柳沢知恵氏が担当している。
◆マジックカーペット・ライドをBEVで「ほぼ実現」した
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いざ走る前に知っておきたいこととしては、83kW(113ps)の駆動モーターは日本のNIDECとのジョイントでフランス現地で生産されていること。44kWのバッテリー容量のほぼ43kWが駆動に回され、航続レンジ320kmを謳っており、これはロングレンジ版であること。後に200km、つまり約63%相当のバッテリー容量27~28kWhとレンジが予想されるショートレンジ版が用意されることだ。
欧州でロングレンジが2万3300~2万7800ユーロという車両価格に対し、ショートレンジは2万ユーロをギリギリ切って来ることが予想される。ちなみに今回、同じく試乗に供されていたICE、ピュアテック100ps+6速MTは1万4990~1万9200ユーロだ。おそらく日本に導入予定のMHEV版は、上級トリム「マックス」がメインとして、中間となる2万3800ユーロ(約400万円強)に落ち着くのではないか。
まずBEVの方から試乗を行ったが、走りはおそろしく小気味いい。重たいBEVにありがちな低速域での不整路面で、ドタバタと足元が跳ね回るような感触が一切ない。だからサイクリストに囲まれて30km/hを強いられる狭い道でも、ストレスなくやり過ごせた。ドライバーの心の平穏がどういうところにあるか、知り尽くしたかのような乗り心地なのだ。
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だが本領は中高速域にある。路肩側だけ荒れたような道や、踏切など継ぎ目をけっこうな速度で超える際にも、新型C3の滑らかな足さばきは破綻を見せず、トトンと軽快に踏み超えてしまう。これはアドバンストコンフォートサスペンション、これまでC4シリーズ以上に限られてきたPHC(プログレッシブ・ハイドロ―リック・クッション)と呼ばれるダンパー・イン・ダンパーが、ついにC3にまで採用されたことが大きい。EVとしては軽い1.4トン強のボディの姿勢を、バンプの大小に関わらず滑らかにコントロールしてくれる。
トルクは120Nmと決して太くはないが、この車重を過不足なく走らせるには十分と感じた。アクセルを目いっぱい踏んでも爆発的な加速が始まりはしないが、そこはさすが電気、リニアで一定した特性でトルクを発揮し続けるので、遅くてイラつかされることはない。
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ある程度の速度域にのせて、カントリーロードの緩やかなコーナーを正確にトレースして抜けていく爽快さは、2CVに似ている。ロール量は無論、抑え気味で、オールド・シトロエンのように大きく傾きはしない。だが舵を喰ってから適切なロール・スピードで姿勢変化が始まるから乗員が怖い思いをせず、追い舵に対してはきっちり粘ってみせる挙動で、しかも突き上げをまるで感じさせない。そんな昔ながらのマジックカーペット・ライドをBEVなのに、ほぼ実現しているのだ。
「ほぼ実現」としておくのは、やはり快適性の高さがBセグとしては未体験ゾーンのため。コンフォートの質の上がりっぷりはもう、クラスを超えたアップグレードといえるほどだ。つねづね、BEVは少なくとも従来のICE車とは似て非なる乗り物だと考えていたが、シトロエンC3は巧みに双方を股にかけつつある。
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■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
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