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マツダ『CX-80』に試乗してわかった「日本的な走り」とラージプラットフォームが向き合うべき課題

レスポンス / 2024年10月10日 20時15分

そもそもFRベースかつ内燃機関を前提とする新プラットフォームを、今のご時世とタイミングでプロダクト化&ラインナップ化できている事実に、先見の明を認めるべきだ。数年前にEV宣言をしたように見えた欧州の主要メーカーが、次々と再び内燃機関に「転ぶ」現象を見てきた今、マツダの中期的な戦略には一理以上の何かがあった。


10月10日から国内販売が開始されたマツダ『CX-80』の背景・前提に、およそ車好きなら快哉を叫ばずにいられない理由は、そこだ。


「自身のこだわりと愛する人たちとの時間を大切にする」というコンセプトも、記念日に花束を先回りして用意してもらったような口幅ったさを感じないでもないが、ハイエンドなドライバーズカーとして新しさはあると思う。裏を返せば、高級車はエゴイストもしくはエゴ・セントリックな乗り物であるかのように映りがちだからこそ、この提案の新しさがある。しかもマツダ自身が「フラッグシップSUV」と位置づけているのだ。


結論からいえば、徳島に降り立つ前の期待が大きかった分、1泊2日の小トリップ体裁の試乗をこなして、ややギャップを感じるところもあった。些末なようだが感覚的にどうしても拭い切れない違和感については、後述する。


◆控えめにして堂々、日本車離れしたサイズと価値


まず、全長4990×全幅1890×1710mmの外寸と外観について。5mに届こうかという全長に、3120mmものロングホイールベースは、なかなか日本車離れしているというか、控えめにして堂々としている。リアハッチゲート辺りを斜め後方にいせ込んだようなプロポーションは、荷室や3列目シートのスペースをきっちり価値づけている。


フラッグシップSUVとはいえ、サルーンに通じるステイタス性と、アクセスしやすく広めの3列目が備わるピープルムーバーぶり、そして長いクォーターウインドウに至るサイドビューからの窓枠のグラフィックはエステート風でさえある。フェンダーやサイドモールもボディ同色である辺りも、『CX-60』と一線を画し、そのロングボディ版には見えない。


強いていうなら、窓枠を囲うクロームモールがCピラー付近でやや太すぎる点と、CX-60と識別するためにフロントグリル内に設けられた3ツ爪クロームのモチーフ、そしてリアハッチ右側でわざわざパワートレイン名を示す台座プレート式のバッジが、煩く感じる。塗装の質がよく、ボディサイドのコンケーブ面もキマっているので、これらの要素が抑えられた方が高級に見えるはずなのだ。


淡路島を渡って神戸まで、初日往路で試乗したのは「e-SKYACTIV PHEV」。直4の2.5リットルガソリンにモーターが組み合わされ、フロア下に17.8kWhのバッテリーを収める。直4>モーター>トランスミッションはすべて縦配列で、電子制御多板クラッチを介して後輪駆動ベースのフルタイムAWDを実現しただけでなく、減速時の回生協調ブレーキでも前後の回生配分を最適化してくれる。ちなみに制動も回生も電気信号によるバイワイヤだが、後から気づいたほどフィールは自然だった。


◆意外にも!? 「ロングツアラー的」よりも日本の走行レンジに合ったPHEV


エンジン側が250Nm・188ps、モーター側が270Nm・175psと、パワーマッピングの上でICEと電気はほぼ拮抗している。EVモードのみで約60kmの航続距離はまずまずだが、決して電動優先の走りに終わらないところが、このPHEVのクセ者たるゆえんだ。


フル加速のような強負荷時は、500Nmを全輪駆動で解き放つような、ほとんど総和に近い制御も入る。高速巡航時もバッテリー残量はゼロにはならず、追越加速で臍を噛む思いをすることはない。モーター駆動からエンジンONに切り替わる瞬間も揺動ショックはゼロではないが、神経に障るというより、むしろ踏み込んだ分だけエンジンがひと肌もふた肌も脱いでくれる。それは待っていましたとばかりの主張っぷりで、バッテリー残量少な目でにアクセルを踏み込むと、直4ユニットがウォーンと吼え始め、2240kgという国産車離れした体躯を小気味よく加速させる。


惜しむらくは高速道路での乗り心地。突き上げこそ少ないがぽよぽよと跳ねる感触があり、もう少し縦方向の抑えが欲しくなる。聞けば欧州と日本で、足まわりの仕様は分けているそうで、より高速域寄りのあちらは固めの足まわりなのだとか。逆に郊外路ぐらいの中速域で緩いカーブが連続するような局面では、KPC(キネティックポスチャーコントロール)の内輪ブレーキをつまむ作動も効いているのだろう、アクセルのオンオフだけで作れる適度なロールと、しっとりした接地感が心地よかった。


とはいえ神戸に着いて街中でストップ&ゴーを繰り返していると、マツダらしい丁寧なペダル配置やシートのホールド性といったコクピット環境にも助けられ、身体がすっかり馴染んできた。確かにPHEVの乗り心地は「ロングツアラー的」でこそなかったが、AC充電できる環境から出発して街乗りやバイパス路をこなすという、日本の走行レンジに合った動的質感に仕上がっていることは実感できたのだ。


◆走りのスケール感の大きさは魅力的


翌日は3.3リットルディーゼル、「e-SKYACTIV D 3.3」を神戸から徳島までの復路で試した。こちらはマツダ独自の48Vマイルドハイブリッドが組み合わされている。


まず直6とはいえPHEVより―120kg、ざっと5%以上も軽い2120kgという車重も効いているだろう。フロントがダブルウィッシュボーン、リアがマルチリンク式というハンドリング&足まわりの感触がより自然で、乗り心地やストロークはしなやかだ。垂水インターチェンジでミスルートしてしまい、アップダウンの激しい市街路で信号に何度も捕まったが、MHEVのモーター側から153Nm・16.3ps、直6側から550Nm・254psというトルク&パワーフィールはリッチで、何ら痛痒を感じなかった。


Mi-ドライブのモード選択はノーマルのまま、にもかかわらず、しかも昨日のPHEV版の車両価格719万9500円(試乗車の仕様での価格)に対し、ベース価格とはいえ105万6000円もお得な614万3500円なのだ。


もうひとつディーゼル版が印象に残った点は、途中の休憩ポイントで、ボートを載せたトレーラー牽引するディーゼル仕様の試乗車で、車庫入れ体験をしたことだった。それこそトレーラー側の配線カプラーを挿すと、プラグイン追加機能としてMi-ドライブ上の「トーイング」モードと、それに連動したリアビューカメラの「トレーラーヒッチビュー」機能が現れる。トーイングでは悪路を4WDで走行する際と同様の制御、つまり初期トルクの出方が穏やかになる。加えて、慣れない牽引の車庫入れで微低速で進むような局面でも、トレーラーヒッチを支点に、牽引トレーラー側が車体に対してどのぐらいの角度を向いているか。そもそもステアリング&ペダルのキャリブレーションがビシッとしている、マツダ式コクピットだからこその扱いやすさを痛感した。


確かにスポーツモードにすると、直6ディーゼルは一段と鋭さを増し、快活なキャラクターを前面に出してくる。それとは対極の、微低速域の高負荷条件でも扱いやすい動的質感に、CX-80の日本車離れした走りのスケールを感じられたのだ。ちなみに5m近い巨躯の車が、多少踏み込んでもリッター16km近い実燃費を記録したことにも舌を巻いた。


◆ラージプラットフォームが向き合うべき課題


ただ、フラッグシップ車種としてCX-80には、まだ道半ばという点もいくつかある。とくにディーゼルの方で、前後のタイヤハウス周りからのエンジン&走行ノイズ侵入は少なからず。1列目と2列目それぞれのシート間で会話するのに、高速巡航中は声を張り上げる必要があった。またPHEVで高速巡航時に気になったのは、ボディコントロールがやや甘いことに加え、路面の不整によってはタイヤのたわみが残ったままのような感触が下から伝わってくること。いずれもタイヤの選択やアコースティックガラスの採用で、相当に変わる部分のはずだ。


ふたつ目は、内装の静的質感だ。フラッグシップを名のるからこそだが、クロームメッキの多用が逆効果になっている。光沢の面積で質感を出している時代ではないはずだ。また素材感は高品位なのに、カラーチャートの上だけで合わせたような色使いでトーンが合っていないものがある。完全ニュートラルな白や黒が再現できないように、どんな素材にも青や赤、黄や緑といった色かぶりがあるが、そのトーンがバラけているのだ。


例えばホワイトのナッパレザーはクールな質感なのに、イエローのメイプルウッドはコントラストがキツ過ぎて見えたし、ドリフトウッド風のグレーベージュにも赤味があって、この白ナッパレザーと合っているとは言い難かった。こういう現物素材ベースのトーン合わせでほぼ絶対に、調和を忘れないのは実はドイツ以外の欧州車だったりする。走りや動的質感以外のところでも、ドイツ車をベンチマークし過ぎていないか。


もう一点は、ダッシュボードを覆うレザーが、細かく分割され過ぎていること。ここにどうしても違和感を覚えるほど、マツダのフラッグシップに期待してしまうのは、やはり「ユーノス・コスモ」の仔牛10数頭分のレザー内装。時代が違うとはいえ、あの空前絶後ぶりが強烈だったからこそ、だ。紳士靴でいえば、ホールカットと流れモカぐらい違う。ちなみにコスモのコンセプトというかキャッチコピーは、「最良の“私”であるために、クーペの頂点を極めたい」…だった。対してCX-80のそれは冒頭でも述べた通り、「自身のこだわりと愛する人たちとの時間を大切にする」、それは百も承知だ。


大人になることの難しさはさておき、今どきの大人のフラッグシップとして、394万3500円~という価格帯の幅は、もっといえば『CX-5』の上級グレードより控えめな400万円アンダーのエントリーグレード設定は、本当に必要だったのか?ということだ。ポテンシャルが高いからこそ、CX-80ひいてはラージプラットフォームが向き合うべき課題は、この辺りに潜んでいるのではないか。


■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★


南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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