【ヤマハ MT-09 試乗】“アウトロー”がスポーツバイクの王道に則った進化を遂げた…伊丹孝裕
レスポンス / 2024年10月31日 12時0分
MTシリーズの中核とも言える『MT-09』が、2024年3月にモデルチェンジを受けた。その後、『MT-09 SP』(2024年7月)、『MT-09 Y-AMT』(2024年9月)とラインアップを拡大してきたわけだが、今回あらためてスタンダードモデルに試乗。そのフィーリングを体感してみた。
MT-09を大きく分けると、2014年に第1世代となるモデルが送り出された。そして、2017年に第2世代、2021年に第3世代へと進化を続け、今作が第4世代に当たる最新型となる。
888ccの水冷4ストローク直列3気筒エンジン、軽量高剛性なCFアルミダイキャストフレーム、ボックス構造のアルミスイングアーム、鋳造ながら鍛造に近い性質も併せ持つスピンフォージドホイールといった主要なコンポーネントは、基本的に第3世代のものから踏襲されている。その意味ではマイナーチェンジに相当するが、デザインの大幅変更によってイメージを一新。それにともなって、ライディングポジション、車体の剛性バランス、電装や操作系のアップデートも図られ、よりスポーティな乗り味を実現している。
◆スポーツネイキッドとして一体感が高められた
シートにまたがると、まず足つきがよくなっている。825mmの高さ自体は従来モデルと同じながら、座面前端が絞り込まれ、乗降性がいい。スリムな分、足がまっすぐスッと降ろせるため、物理的にも心理的にも安心感がある。
ハンドル位置がやや低くなり、その垂れ角と絞り角も見直されたことに加え、ステップ位置は高く、後方へ引かれた。こうして文字で表現すると、前傾が強まり、バックステップになった印象だが、目的はフロントに荷重を掛けやすくすることであり、それに成功している。
これに関しては、以前サーキットで試乗した時に顕著だった。車体を素早くリーンさせた時のフロントまわりの挙動が、明らかに落ち着いていることを確認。見た目からも分かる通り、だからといって、上体や下半身に窮屈さを強いるようなものではない。また、それぞれ自分好みに調整する余地もあり、ハンドルホルダーの向きを変える、あるいはステップ位置を上下させることによって、各2段階のいずれかを選択することが可能だ。
この他にも、エンジン懸架やヘッドパイプ付近の剛性チューニング、前後サスペンションのバネレートや減衰特性の見直し、リンクの変更等の効果も手伝って、車体に入力した時のレスポンスが向上。意図的にハンドルを抑え込むようなストリートファイター的な要素が間引かれ、スポーツネイキッドとして一体感が高められている。
◆走っているだけで高揚感の中に身を浸すことができる
CP3と呼ばれる直列3気筒エンジンは、今やヤマハの大きな柱になった。低回転域での扱いやすさと力強さ、中高回転域におけるリニアなレスポンスとビートの効いたサウンドは、このモデルにもしっかりと引き継がれている。中でも音質に関しては一歩進み、エアクリーナーボックスカバーに設けられた開口部(アコースティックアンプリファイヤグリルと呼ばれる)によって、吸気音を増幅。トルク感や加速感を聴覚からも得られるように作り込まれている。
今回の試乗は街中だったこともあり、とりわけ、このサウンドデザインの効果は分かりやすく、いかにもビッグバイクを操っているという満足感を満たしてくれるものだった。スローペースで走っている時は、車体後方からザラついた排気音が耳をくすぐり、スロットル開度を大きく、あるいは開け閉めを繰り返した時は、胸元から高周波の吸気音が広がるのだから、ただ走っているだけで高揚感の中に身を浸すことができる。
MT-09には少なからずアウトローな雰囲気が漂うが、高い一体感をもたらすライディングポジション、俊敏性と安定性を兼ね備えた軽量高剛性な車体、右手ひとつで自在に操れるトルクフルなエンジン……といった要素は、スポーツバイクの王道に則ったものであり、今回の最新型でさらなる進化を遂げている。
■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
ハンドリング:★★★★
扱いやすさ:★★★★
快適性:★★★
オススメ度:★★★★
伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。
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