ヤマハが電動車いすの完成車販売をやめて「ユニット専業メーカー」になることを宣言した理由
レスポンス / 2024年11月1日 8時0分
ヤマハ発動機は31日、約10年ぶりとなる「車いす電動化ユニット」の新製品『JWG-1』を発表。同時に、これまで完成車メーカーとして販売していた電動車いすから撤退、ユニット専業メーカーとして開発、製造に専念することを明らかにした。そこにはどのようなねらいがあるのか。
◆競争ではなく共創、電動化ユニットの輪を広げる
ヤマハの電動車いすの歴史は約30年にものぼる。1994年に電動アシスト自転車のパイオニアとして『PAS』を発売した1年後の1995年に、初の簡易型ジョイスティック型電動車いす(※)をデビューさせた。以来、改良を重ねながら台数を伸ばし、2023年は約4600台を出荷。これは同タイプのシェアのほとんどをヤマハが占めていることを意味するという。同時に、海外では今回の新型と同じようにユニットのみを販売してきた。そこにヒントがあった。
※「簡易型」とは、手動車いすに電動化ユニットを取り付けたタイプの電動車いすのことを指す。
電動車いすや電動アシスト自転車を開発するSPV事業部が使命として掲げるのは「世のため、人のために、全力アシスト!」だという。これはヤマハの企業目的である「感動創造企業~世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供する~」というメッセージに連なるもので、ユニット専業メーカーとなることでより多くの電動車いすを求める人たちに提供する、というねらいがあるという。
より具体的には、これまでのように完成車を販売することで他メーカーと競合するのではなく、既存の他メーカーに電動ユニットを提供する=共創することでより多くの人たちにヤマハ製ユニットを届けたい、という強い思いだという。今後はメーカーに向けて体験や説明の機会を設け、共創の和を広げていくことをめざす。
具体的な台数目標等については語られなかったが、欧米での市場は特に大きく、さらに販売を拡大していく構えだ。今回の新型ユニットJWG-1で、タイヤ軸トルク性能の向上や、耐荷重量を大幅に引き上げたのは、日本人よりも体格の大きい欧米の人たちにも積極的に利用してもらえるようにとの対策だとも語っていた。
また今後の展開として、福祉以外への展開も視野に入れているという。電動化ユニットをプラットフォームとして活用し、施設での搬送用モビリティへの転用などを見込む。
◆移動の楽しさや自由を実感できるモビリティ
今回発表されたJWG-1は、前述のように完成車ではなく、後付けで手動車いすに装着することで電動車いす化することができるシステムユニットだ。主に車いすメーカーに供給し、手動車いす製品に装着することで電動化をおこない、新車として販売することを想定している。ユニットは、電動モーターを内蔵した左右輪、操作レバーと液晶ディスプレイを持つ操作部、そしてバッテリーと充電器からなる。
JWG-1はこれまでの製品と比べ、タイヤ軸トルク性能を向上し従来の片側25.3Nmから同50.1Nmへと倍近くにパワーアップ。さらにユニット耐荷重量を125kgから160kgまで引き上げた。またかねてより要望が多かったというノーパンクタイヤをオプションで選べるようにしたほか、ユニットに内蔵したブルートゥースを通じてスマートフォンアプリ連携をすることで、乗員の症状・状態に合った加減速度や操作性のチューニングもおこなうことができるように。
操作部では、液晶画面をより見やすいように位置変更やUIを変更、介助人が操作する場合のアクセル操作をボタン式からレバー式にするなど、より利用実態に沿ったアップデートが施された。脱着式バッテリーは、連続走行距離をあえて20kmと従来より抑えることで、要望の多かった小型軽量化(1kg減の2.4kgに)を実現。現場からも20km程度走れば十分だという声があったためだという。
31日におこなわれたメディア向け発表会では、実際に従来型と新型の比較試乗をおこなうことができたが、従来型でもレバー操作のみでストレスなく走行できたものの、新型ではより力強くスムーズに走行できることが確認できた。
特に、芝生のようなタイヤを取られる場所での走行は身体や操作への負担が発生するが、新型はトルクがある分、細かいレバーの調整も必要なく凹凸をいなして真っ直ぐ走ってくれるため、よりストレスを感じずに走りきることができ、その場での旋回もゆうにこなすことができた。
電動車いすは日本では福祉機器として、欧米では医療機器として販売されるもので、他のヤマハ製品のように趣味性を求めるものではないが、操作感、パワフルな走りは純粋に「楽しい」と感じられるものだった。実際に電動車いすユニットの利用者からは、「誰の手も借りることなく、自分の意思で行動する自由が手に入った」「今まで移動することが大変で、移動をすることが目的になっていた」「私らしくいられるというのが大きなポイント」「世界が変わりました」などの声があるという。
電動車いすは移動の楽しさや自由を実感できる、本当の意味でのバリアフリーなモビリティといえるのかもしれない。
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