カテゴリーは同じっぽいけど予想以上に違う!ヤマハ『MT-09』とスズキ『GSX-8S』、最新スポーツネイキッドを試乗比較
レスポンス / 2024年11月4日 8時0分
◆ミドルクラス&スポーツネイキッドな2台だけど
スズキ『GSX-8S』とヤマハ『MT-09』の2台を、街中の同じ条件下で走らせてみた。スペックや装備の少々のズレがあるモデルだからこそ、それぞれの魅力や得意とする場面がわかりやすい試乗だった。
GSX-8SとMT-09は、ミドルクラスであること、アップハンドルを備えていること、スポーツネイキッドにカテゴライズされること、という共通項を持つ。持っているがしかし、排気量は775ccと888cc、エンジン形式は並列2気筒と直列3気筒、価格は106万7000円と125万4000円といったように、それなりの開きがある。もっとはっきり言えば、格差と表現してもよく、製品としてのポジショニングは、明確にMT-09がワンランク上だ。
GSX-8Sが相手なら、ぶつけるべきは『MT-07』では? 当然、そういう声が挙がるに違いなく、こちらのエンジン形式は同じ並列2気筒なのだから、確かにその通り。とはいえ、MT-07の排気量は688ccで、価格は88万円である。こっちはこっちで、GSX-8Sに対するポジショニングがワンランク下になり、真っ向勝負とはちょっと違う。
ここにホンダ『CB650R』やカワサキ『Z650』を持ち出したとしても、やはり少しずつ条件が異なり、みんながみんな、お互いを見て見ぬ振りというか、遠巻きに牽制し合っているというか、なかなかユニークな様相であり、ある種の多様性かもしれない。
こうして長々と前置きしているのは、「ハチエスとゼロナインの比較とか意味不明」とか「こいつ、なんもわかってねぇなwww」というようなことを書き込んでくる輩……いや、大層熱心な読者諸兄がいらっしゃるからで、それらはまだしも「俺たちが若い頃は50万円台でナナハンマルチが買えたのに」みたいな昔語りも始まりがち。なので、そういうあれこれはひとまず横に置いて、ここはひとつ気楽に読んでくださいな、という予防線である。
◆スペックと実車で印象は真逆に
というわけで、あらためてGSX-8SとMT-09を目の前にし、まずはまたがってみる。この時に気になるシート高と装備重量は、次の通りだ。
・GSX-8S:シート高 810mm、装備重量 202kg
・MT-09:シート高 825mm、装備重量 193kg
シート高には15mmの差があり、数値上はGSX-8Sに分がありそうだ。ところが、実際は両車同等か、乗降性も評価に入れるとMT-09がやや勝る。なぜなら、MT-09の座面前方はかなりスリムに絞られているため、足の上げ下げが容易な他、ペダルやステップバーがまったく邪魔にならないからだ。その点、GSX-8Sはやや中途半端な位置にそれがあり、脛やふくらはぎに干渉することがあった。
ただし、車重になると、こちらも数値上の印象が逆転する。GSX-8Sの方が9kgプラスにもかかわらず、車体の引き起こしは軽い。燃料タンクが細身で低い位置にあるため、勢いや反動をつけずともスッと直立。その点、MT-09の燃料タンクは幅広で圧迫感があり、実際の手応えもさることながら、心理的にもビッグバイクであることを伝えてくる。ハンドル切れ角に関しては、GSX-8Sが35度と広く、32度のMT-09は不利ながら、Uターンや取り回しでは大差なく感じられた。
エンジンはどうか。扱いやすく、トルクフル。言葉にすると、いずれも同じような文言で評価できるのだが、低回転域のトラクションと鼓動感が心地いいのがGSX-8Sの2気筒、中高回転域の刺激と力強さに優れるのはMT-09の3気筒というように、持ち味が異なる。終始、プレッシャーがないのはGSX-8Sで、表情豊かなのはMT-09でもある。
静的な状態では、軽量なはずのMT-09の方が重く感じると書いたが、動的な状態、つまり走り始めると、その印象は瞬く間に消えていく。コーナーへめがけて車体をリーンさせた時の反応は素早く、それでいてタイヤからは豊富な接地感が伝わってくる。クイックなのに荷重バランスに優れ、スポーティな走りを堪能できる。
GSX-8Sは単体で評価すると十分軽やかながら、ハンドリングはクイックとしっとりの程よい狭間にある。街中でもワインディングでも、流すような走りを得意とし、コーナリングそのものよりも、開けやすいエンジン特性を活かした立ち上がり加速を楽しむのに向いている。
◆最終的な選択基準は「エンジンフィーリングの好み」か
電子デバイスの充実度、クイックシフターのスムーズさ、サスペンションのストローク感はMT-09が優位であり、このあたりは価格帯の違いがそのまま差として表れている。
質感やユーティリティに関しても同様で、MT-09が持つアルミフレームやエッジの効いた独自製法の燃料タンク、ラジアルマウントされたフロントブレーキのマスターシリンダー、アジャスター付きのクラッチレバー、クルーズコントロール、そしてスマホを介したコネクティビティなど、豊富な装備を誇る。
両モデルの間には、18万7000円の開きがあるわけだが、ここでいくつか挙げた項目からもわかる通り、どちらかが極端にコスパ優先なわけでも、豪華さを誇っているわけでもない。シンプル+αであろうとすれば、GSX-8Sの構成パーツと価格になり、所有欲も標準装備しようとすると、MT-09のそれになるのは当然である。
それよりも、この2台の選択基準は、どちらのエンジンフィーリングが好みかどうかに因る部分が大きい。2気筒らしいドコドコ感と、それがもたらすスリムさを求めるなら、気負わず走り出せるGSX-8Sが期待に応えてくれるに違いなく、3気筒独特のサウンドとビート感、そこから絞り出されるパワフルさを求めるなら、充実の機能を持つMT-09となる。
いずれも価格設定は正当かつ満足度の高いものであり、なによりスタイリッシュさにおいては甲乙つけがたいモデルである。
伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。
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