【フィアット 600e 新型試乗】おい、ちょっとこれ、なんかプジョーじゃん?…中村孝仁
レスポンス / 2024年11月8日 12時30分
フィアットの電気自動車といえば、『500e』とそれのアバルト版がある。いずれのモデルにも試乗しているので、フィアットの電気自動車は解っているつもりだった。ところがである。新たに投入された『600e』は別ものだった。
500eのプラットフォームはSTLAスモールと呼ばれるもの。対して600e用はe-CMPである。そもそもCMPは2018年頃に誕生したモジュラー系のプラットフォームで、端から電動化を見据えたプラットフォームであった。果たして単に呼び方が違うのか、はたまた異なるプラットフォームなのかは調べた限りではわからなかった。しかし、クルマの挙動は全くの別物である。まあサイズが違うから同列では語れない。
◆今までのフィアットとはまるで別物
姿形を見る限り、600eは日本ではまだカタログに残る『500X』にとてもよく似ている。てっきり同じボディを使ったのかと思いきや、サイズは微妙に異なるし、もちろん細部については色々と600eの方が手が込んでいる。何より決定的に違っていたのは、これまでフィアット系のモデルは全て、その走りにどことなく弾むような感触が多く、ウキウキ感はあっても落ち着き感はなく、それがこれまではキャラとして認められてきたように感じていた。つまり、フィアットに乗ると明るくて何となくウキウキとする感覚で運転できるから楽しいと…。
試乗車を借り出して、この600eで街の流れに入ってみると、「おい、ちょっとこれ…なんかプジョーじゃん?」という感覚になる。乗り心地が実にスムーズでフラット感に溢れる。大きな段差などを乗り越えるとそれなりの突き上げ感はあるものの、総じて素晴らしく乗り心地が良いところに持ってきて、ウキウキ感ではなく落ち着き感を感じ、今までのフィアットとはまるで別物の印象なのである。走行はまだ3000kmに満たなかったから、まだあちこちに硬さが残っているはずである。だからこなれて来ると、もっと快適になる予感すらする。
BEVとしての性能は、カタログ上WLTCで493kmも走ることになっているが、借り出した時の充電は100%で、可能走行距離は400kmであったから、この辺りがリアルワールドなのだろう。モーターの性能は156psだそうである。その快適さについ心を奪われ、パフォーマンス能力を試さないでいたので、ちょっとその気の走りをしてみると、これがまた面白い。かなりキビキビ感のある走りを見せるし、これまたフィアットとは思えないシュアなハンドリングを持っている。
◆イタリアンセンスは内外装に
搭載バッテリーは54kwhだということだが、重量は1580kgだそうで、1.6トンを切っているからBEVとしては軽めな方。そのせいもあって、比較的広々とした空間を持ちながら、キビキビ感のある走りができるのかもしれない。もっとも騙されている節があるのは、同じようなサイズで同じような格好をした500Xに試乗した時に、決して良い印象を持たなかったので、その印象で構えて乗った結果、全然違う挙動を示されたから、少しバイアスのかかった見方をしたのかもしれないが、それを差し引いても、個人的にはとてもよくできたクルマだと感じた。
走行モードはデフォルトがノーマルで、スポーツとエコがチョイスできる。エコにするとパフォーマンスのみならず、エアコンの効きも制限される。クルマがグンと重くなったような走りになるので、いきおいアクセルを踏み込んでしまい、もしかするとむしろエコじゃなくなる…と思ったものだ。
これに対して、スポーツは一気にクルマが快活になって走りは楽しいし、加速感もかなりのものである。まあ、正直言えばフィアットらしいのは内外装のイタリアンセンスだけ。走りは、これプジョーだろ…という感じである。そのセンスは例えばシート。フェイクレザーに600の数字を背もたれに。そしてFIATの文字を座面と背もたれに縫い込んだデザイン。シートはホワイトと色使いも素敵である。外見でもヘッドライトやコンビランプのデザインが面白い。
一つ気に食わなかったのは、リアビューミラーが今風でカメラの映像がデフォルトなのだが、まず、視線がそれなりに高い人で、且つ遠近両用メガネのお世話になっていない人なら機能するのだろうが、目線が低く、遠近両用メガネのお世話になっている私には、後方が全く見えない。理由はカメラの映像とミラーの像がダブってしまうから。背伸びをして視線を上げると見えるのだが、まあ役には立たなかった。なので、試乗の間は全て通常ミラーを使わざるを得なかったのである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来47年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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