【VW ティグアン 新型試乗】3代目はVWの再起を担う一台かもしれない…南陽一浩
レスポンス / 2025年1月14日 21時0分
先頃、3世代目となる『ティグアン』が日本市場で発売され、試乗の機会が得られた。
2007年の初代ティグアン登場からグローバル累計で760万台を販売し、2019年以降は2世代目がVWグループ内でナンバーワンの売れ筋モデルとなっている。アウディやセアト、シュコダらを含めてもナンバーワン、『ゴルフ』や『ポロ』に対してもナンバーワンという、不動のベストセラーSUVだ。実際、日本での販売台数ピークも2019年で、TDIことディーゼルかつ4モーションのAWDモデルが、とくに受け容れられたという。
そんな重要モデルのフルモデルチェンジはコンサバに堕しやすいはずなのだが、いい意味で3世代目ティグアンは大胆に変化してきた。
◆Cピラーから感じさせるカジュアルさと軽快さ
試乗車は「eTSI R-ライン」で、まず外観デザインからして先代のような水平基調、いわば『パサート』やともすれば『フェートン』から受け継いだようなサルーン・ライクなステイタス性の高い雰囲気とは、かなり異なる全体的に柔らかなシルエットとなった。ボディサイドのキャラクターラインも、あいかわらず山折り谷折りに凝ったプレスラインは使っているとはいえ控えめで、張り出した前後フェンダーによってアスリート感のあるスタイルになった。
逆にフロントマスクは上下に薄く、左右が緩やかな吊り目顔は、むしろ『ID.4』の系譜を継ぎつつ、ヘッドライト位置はライトひとつ分ほど高くなっている。いわばアメコミのキャラクターのように全体のプロポーションが逞しくなって小顔化し、SUVらしさ、カジュアルさは増しているが、ツイードのスポーツジャケット的というより、若い人が着たらサマになるオーバーサイズ気味のパーカーのよう。そんなトーンに寄せたデザインと感じる。
先代からの変化をもっとも感じさせる細部はCピラーで、クォーターウインドウ下端のラインが“跳ねている”ため、ずいぶん軽快に見える。この辺りは、新型ティグアン登場から1年の間隔をおいて発表された7人乗りバージョン『タイロン』との兼ね合い、棲み分けもあるだろう。
だが前面投影面積は大きくなったにもかかわらず、Cd値は先代の0.33から0.28へと進化し、アンダーグリル内の電動シャッター開閉による冷熱マネージメントと併せ技で空力も静粛性も向上させているとか。サイドウィンドウのゴムストリップも目立たないようボディパネル内に隠され、新たなデザイン・ランゲージのスッキリ感を強調しつつ、風切り音低減にも貢献しているという。
ちなみにエントリーグレードの「アクティブ」以外のマトリックスヘッドライトは「IQ. ライトHD」へと進化し、従来型ライトが片側22個程度のピクセルLED数だったのに対して、なんと1万9200個ものマルチピクセルLEDを速度や状況、走行シーンに応じてインテリジェント制御する。試乗は生憎、夜間走行ではなかったが、対向車のドライバーの顔だけ照らさずに照射し続けるとか、トレースすべきラインを浮かび上がらせて自車をガイドするといった、従来にはなかった制御機能が含まれているという。
◆長足の進歩を感じさせる最新コックピット
つづいて車内に目を移してみよう。今次のティグアンのプラットフォームは「MQBエヴォ」に進化した分、新しいモジュールを数々搭載しているのはインテリアも同じ。アンビエントライトと一体になったダッシュボードパネルや、10.25インチのデジタルクラスターによるメーターパネルに加え、肩まわりやヘッドスペース辺りの高さでルーミーさを感じる点も、アメリカンな印象だ。
そして15インチの大画面タッチスクリーンには最新のインフォテイメント「デジタル・コクピット・プロ」がエントリーグレード以外では標準装備となり、表示情報の読み取り易さやインターフェイスがかなり改善され、先代から長足の進歩を感じさせる。これは「MIB4」という新世代システムに基いて演算能力が増し、操作レスポンスも大幅に向上している。
また静粛性を高めるアコースティックガラスをフロントスクリーンのみならずサイドウインドウにも拡大採用したため、前後列の各シートの前にマイクが内蔵され、話し声を他の席に投射することで車内で会話の声を通りやすくしている。
他にも上位グレードでは前列2座に空気圧式リラクゼーションを備え、走行中の背中に8種類の刺激を与えてくれる。またレザーパッケージを選べばシートヒーターとベンチレーションを併用して、アウトドアで濡れた着衣などを速乾させる機能も付けられるなど、車載機能や装備での新機軸も忘れていない。しかも試乗車はR-ライン専用の肉厚なスポーツシートを備え、ホールドも居心地もすこぶるよかった。
4/2/4可倒分割のリアシートの座面と背面はややフラット気味だが、足元の広さは十二分といったところだ。
多機能な室内でありながら、ティグアンが煩雑にガチャガチャして見えないのは、芯になる部分、つまり動的質感をキチンと磨き上げているからだ。センターコンソール上に「ドライビング・エクスペリエンス・コントロール」と呼ばれるダイヤルが備わり、直観的操作で音量やドライブモードを切り替えられる。PRNDのシフトはパサート同様、ステアリングコラム右側に移されたので、手元の一等地で機能の優先順位を演出またはインターフェイスとして活用するのはさすがうまい。
◆シャシーの素直さを、走るペースに応じて引き出してくる
パワートレインは各グレードとも共通の2種類で、今回試したeTSI R-ラインに積まれるのは直4の1.5リットルターボを48Vの水冷式BSG(ベルトスタータージェネレーター)でアシストするMHEV、もう一方は2リットルTDIに4モーションというディーゼル4駆で、いずれも7速DSGとの組み合わせだ。
MHEVの基幹となるこのBSGは、オルタネーターとスターターと駆動アシストモーター、そして回生エネルギーを貯め込むリチウムイオンバッテリーまでもが一体化されている。きわめてコンパクトなシステムで車両全体の軽量化(1600~1610kg)と、56Nm、18psのトップアップを可能にしている。ICEだけならガソリンは250Nm、150psに過ぎず、ディーゼルは400Nm、193psという数値となる。
いざ走り出すとストップ&ゴーの多い局面でも、BSGの駆動による反応の小気味よさと静かさ、いつエンジンがかかったか気づきづらいほど洗練された駆動源の切り替え、さらには定速走行時に2気筒を休ませるアクティブシリンダーマネージメントによるエココースティングもあって、素晴らしく滑らかさが際立つ。さらに郊外路へ出ると、この滑らかさに拍車をかけるのが、これまた長足の進歩を遂げた「DCCプロ」ことアダプティブシャシー・システムだ。
これはパサートと同じく、2ソレノイド式で伸び側・縮み側を個別にコントロールできるKYBの可変減衰力ダンパーが、「電子制御ディファレンシャルロック(XDS)」と組み合わされ、さらに「ヴィークル・ダイナミクス・マネージャー」と呼ばれる統合システムで高度な4輪独立制御を行う。そのため、短い直線で柔らかな乗り心地を楽しんだ次の瞬間、一転してタイトコーナーでは素早く粘るアシといった、ほとんど矛盾しそうな挙動が可能になっている。コンフォート・モードに入れたまま峠道を下っても、車体の動きがブカブカに過ぎることはないし、スポーツを選べばよりステアリングの反応度が上がって、ロールや車体の姿勢コントロールが締まってくる。
いずれ快適志向とスポーツ志向を、アシの柔い・硬いだけで使い分けるセッティングではない点はパサートと共通で、元のシャシーの素直さを走るペースに応じて引き出してくれる。MHEVで1600kg強に抑えられた車重、つまりコンパクトSUVとしてはなかなかの軽さと低重心も効いているのだろう、R-ライン専用の20インチホイールを履いているとは思えないほど、こなれたライド感だ。だからこそダンパーからステアリング、パワートレインまで各パラメーター特性を変えられる個別モードについても、オーナーなら時間をかけて自分好みに設定のしがいがありそうだ。
◆ICE巧者・VWの「らしさ」が詰まっている
じつは同じ日に新型パサートにも乗ったため、動きのムダのなさ、仕事人のようなキレ味では、やはりステーションワゴンのパサートに軍配が上がる。だがフランス車顔負けのしなやかなストローク感ある乗り心地にシャープ過ぎないスポーティなハンドリング、視界の高さの割に余裕ある運動性能というバランス感では、ICE巧者・VWの「らしさ」が新型ティグアンには詰まっている。
ひとつ難をいうなら、オプションのハーマン・カードンのオーディオシステムがBluetooth接続のみ前提とするようで、アナログ音や有線接続がエモい昨今では、ややデジタルが勝ち過ぎている嫌いがあること。ただ冒頭でも述べたように、ティグアンはパーカーのような都会的カジュアル・アウターに近いSUVとなったことで、着こなし・乗りこなしが年配層には難しそうに感じるかもしれないが、次の『T-ROC』はさらに攻めているはずなので、ちょうどいい塩梅だろう。
「アクティブ」なら481万1000円、「エレガンス」が547万円で、「R-ライン」が588万9000円という価格設定も、ユーロ高の昨今ではかなり頑張ったといえる。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
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