白いミニバンの霊柩車が主流に? 葬儀のあり方とともに変化するトレンド、その理由とは
レスポンス / 2025年2月7日 12時30分
大切な人の最期を送り出す「霊柩車」。身近なようで意外と知らない霊柩車だが、そのトレンドは、葬儀のあり方とともに大きく移り変わってきているという。
霊柩車と聞いて思い浮かべるのは、昭和生まれまでならいわゆる「宮型」、平成生まれなら黒塗りのワゴンタイプの「洋型」だろうか。実は現在の主流はどちらでもない、新たなカタチに移り変わりつつある。
◆霊柩車の歴史と新しいかたち
そもそも日本における霊柩車の歴史は、1917年(大正6年)に大阪の葬儀社が米国から輸入した「ビム号」に始まると言われる。明治以降、富裕層を中心に寝棺を白木の輿に入れて大規模な葬列をおこなっていたのが、大正から昭和にかけて廃止され、現在の告別式スタイルに移り変わっていくと同時に霊柩車が利用され始めた。そして日本独自の「宮型」は、1922年(大正11年)大隈重信元総理大臣の国民葬で白木輿を小型トラックに載せたのが原型になり、1926年ごろに白木輿を据え付けた宮型霊柩車として広く利用されるようになった。
以来霊柩車といえば宮型が主流だったが、1970年代より米国車の輸入による洋型が増加。1989年、昭和天皇崩御の際には洋型霊柩車が使用されている。その翌年1990年にはそれまで免許制だった霊柩運送事業が自由化され、国土交通大臣による許可制へと変わった。この頃から公営斎場の建設などにあたり宮型霊柩車の乗り入れを禁止とする住民協定が増加。死を連想させる霊柩車を忌避する傾向から、見た目が主張しない洋型へとそのニーズが移り変わっていった。
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2009年以降は製造保安基準に適合しないことから、新規での製造はおこなわれておらず、現在、宮型霊柩車の使用は全体の約3割だと言われている。役目を終えた宮型は主に東南アジアなどに輸出され、見た目のきらびやかさから乗用車として一部で人気になっている。
そうして主流になった洋型霊柩車だが、昨今ではさらに新たな形式の霊柩車がトレンドになりつつあるという。
それが「バン型」と言われるもので、トヨタ『エスティマ』や『アルファード』などのミニバンを使用した霊柩車だ。その大きな特徴は「霊柩車然としていない」こと。洋型に移り変わってもその多くは黒塗りの車体で、目立ちこそしないものの霊柩車であることは一目でわかる。一方でバン型の多くは、見た目は普通のミニバンと変わらない。車体色も黒にこだわることなく、白やシルバーの車両も多い。
病院等から自宅への遺体搬送が主な用途だが、火葬場への搬送はもちろん、遠隔地への搬送にも対応できる多様性から重用されるようになっているという。また利便性でいえば「バス型」もあり、マイクロバスの車体後方に棺を収納しつつ、遺族の多人数乗車も可能にしている。バス型は走行安定性から、主に雪国で利用されている。
◆白やシルバーのバンが霊柩車に採用される理由
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埼玉県の入間市を中心に90年以上にわたり葬儀業を営む「株式会社いわさき」岩崎弘祐社長(崎は“たつさき”)に話を聞いた。取材した「シティホールいわさき」では、実際にエスティマをベースとしたバン型霊柩車を運用している。このほかにも『クラウン』ベースの洋型が2台、そして1995年式クラウンをベースとしたレトロなタイプの霊柩車も運用しているということだった。
岩崎社長はこうした霊柩車のトレンドについて、「この業界に入った20年前くらいまではまだ宮型もありましたが、今は殆ど見かけません。洋型が主流になってからは、キャデラックやマーキュリーといった輸入車が好まれましたが、徐々に国産車に変わってきています。今、バン型はエスティマを使っていますが、(病院などからの)搬送と、(火葬場までの)霊柩、どちらにも使えて利便性が高いので、今は一番稼働している状態です。『アルファード』の導入も考えていますが、職員が運転しやすい、というのも利点ですね」と話す。
また車体色についても、「このクラウンを導入した頃はまだ黒がメインでしたが、この5~6年で変わってきた印象です。火葬場には色んな業者さんがきていますが、白いクルマも多くて、もう当たり前になってきているなと感じます」とのことだった。
霊柩車を導入するのは葬儀会社だが、利用者の意識の変化の方が早いと言う。「我々は先入観があったのかもしれませんが、実際にお客様に聞いてみると『黒でも白でも変わらないよ』や『白でいいよ』と言って頂いたりします。ただ、黒は嫌だ、とか白が良いということではなくて、葬儀の形式そのものに『こだわらない』と言った方が良いのかもしれません。我々はやっていませんが、避けられていた『友引』の日に葬儀をおこなうことも今では珍しくありません。昔の慣習を必要としなくなってきている、というのもあると思います」(岩崎社長)。
かつて死を連想させるものは忌避されてきたが、「今は死は当たり前のものとして受け入れられるようになって、そうしたハードルが下がってきているのでは」と岩崎社長は話した。
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◆思い出の地を霊柩車でめぐる「ラストドライブ」でグリーフケアを
高齢化が進む中、葬儀件数は増え続けている。帝国データバンクによると2023年には50万件を超え過去最多件数となった。一方でコロナ禍以降は一件あたりの単価が伸び悩み、倒産・廃業する葬儀社の数は2024年1-11月で過去最多の47件となったという。そんな中、株式会社いわさきは地元に根差しながら独自のサービスをおこなうことで生き残りをはかる。
そのひとつが霊柩車を使った「ラストドライブ」だ。
このサービスでは、最後の搬送の際に故人との思い出の地を霊柩車でたどる。「我々が葬儀のお手伝いをする際には、必ず亡くなった方の人となりをお聞きするようにしています。どこで生まれて、どういう趣味があって、どういう人生を歩んでこられたのか。そうすると必ずゆかりの地を持っていらっしゃる。ご家族や、連れ添った方との思い出、それを限られた時間の中で、亡くなった方ともう一度同じ景色、同じ空気を感じることができる。そういうサービスを霊柩車をつかっておこなっています」(岩崎社長)。
家族で西部ライオンズファンだった、という遺族の葬儀では、いつも家族で観戦していた西武ドームへの道のりを霊柩車でたどった。夫婦が出会ったのも、デートの行き先も、子供たちとの思い出も西武ドームだった。いつものコンビニでお父さんが買っていた飲み物を買って、応援着も揃えて、何度も通った道を霊柩車で走った。その時、西武ドームは休業日だったが事情を話すと、なんと球場の中へ霊柩車を入れてくれた。遺族にとっては何ものにも変え難い、最後の思い出になっただろう。
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また、ある家族の例では、霊柩車を使ってお花見をした。「そのご親族の仲があまり良くないというお話をお聞きして、亡くなられた方のご家族が集まる機会ということで、ちょうど桜が満開の時期だったのでお花見を提案したんです。霊柩車で故人ゆかりのお花見の地までお連れして、そこで故人と一緒の空間でお食事やお酒を召し上がっていただいて。そうすると、犬猿の仲だったご親族の方々も『実はあの時はな…』と涙ながらにそれぞれの思いをお話しになるんですね。費やした命が、プラスになって後世につながっていくというか…葬儀にはそういう力があるんです」(岩崎社長)。
さぞ高額なオプションかと思いきや、このラストドライブについては無償で提供しているという。「祭壇がいくらですよ、という話ではなくてどういう体験をご提供できるか。CX(カスタマーエクスペリエンス)がやっぱり一番重要だと思っています。霊柩事業というのは、単にご遺体を右から左に移動させる、というのではなくて、そこにドラマを作っていく。そういう思いをこの霊柩車に乗せているんです」と岩崎社長は話す。
「我々は葬儀業ではなく、『グリーフケア業』だと考えていて、この『グリーフケア』というのが我々がこの先生き残っていくために重要なキーワードだと思っています。その中で大切なのは、亡くなった方のお話を聞くことなんです。大切な方が亡くなった悲しみを癒すのは、第三者とその方のお話をするというのが以前は当たり前でした。でも葬儀の形が変わり、家族葬が増えてくるとそういう集まりもなくなってしまいます。ご家族以外の第三者と、故人のことを語ったり共有しないとその悲しみってなかなか癒えないんです。ですから、我々がお話をお聞きして、亡くなった方の人となりを礼状(書面)にする。ラストドライブにお連れする。そうして残された方が思いを伝える場所を作って差し上げる。ここに我々の葬儀にかけるCX、体験価値というものがあると考えています」
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取材協力:株式会社いわさき
埼玉県入間市扇台3-1-9
https://www.cityhall-iwasaki.co.jp/
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