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ホンダ青山ビルはモビリティ的な建物、の意味…建て替え前の建築ツアー

レスポンス / 2025年2月8日 11時30分

「ホンダがビルを作ったらこうなる。設計思想においてモビリティ的な建物」と、東京の青山にある本田技研工業本社の「Honda青山ビルホンダ青山ビル)」について評価するのは、建築史家で大阪公立大学教授の倉方俊輔(くらかた・しゅんすけ)氏。


ホンダはホンダ青山ビルの建て替えを発表した。建て替え前に「青山ビル建築ツアー」がメディアを対象に開催された。倉方氏が「建物に込められた思想」を解説しながら案内したのだが、実に「ホンダらしい」建築だった。


◆ホンダ青山ビルに込められた思想とは?


ホンダ青山ビルは2代目の自社ビル本社だ。当時の国際化や情報化といった時流に対応し、本社機能の充実、効率化を図り、1985年に竣工した。ホンダ青山ビルにはホンダの車づくりの考え方である安全性、省エネルギー、居住性、操作性、機能優先のデザインが導入されている。


その一例として、ビル外観の大きな特徴となっているバルコニーがある。このバルコニーは災害時に割れた窓ガラスの落下を防ぐ配慮だ。発端は、ホンダ創業者である本田宗一郎による「割れないガラスはできないか」というリクエストだった。窓ガラスをビルのいちばん外側に配置するガラスカーテンウォールは多いが、宗一郎はその際に歩行者の安全確保を望んだのだ。ところが当時の技術で「割れないガラス」は不可能だったので、割れても下に落ちないようにバルコニーを設けることになった。


倉方氏は「このビルの設計思想には安全がいちばんにある。何かあった時のことを考えている」と言う。設計したのは椎名政夫だ。倉方氏は「このような大きな建物の設計は大手の建築設計事務所に頼むのがふつうで、邸宅を多く手がけている椎名のような個人事務所に頼むのはまれだ」と説明する。その邸宅ふうの意匠もビルの各所に反映されている。「もっとも宗一郎はずいぶん口出ししたみたいで、現場は嫌だったんじゃないですか」と倉方氏は笑う。設計には石本建築事務所が協力、施工は間組だ。


◆逃げろ! 人間の行動特性に配慮


部屋からバルコニーに通じる脱出口は5か所あり、バルコニーの両端と合わせてビルの3隅に避難階段がある。これも人間の行動特性に配慮された設計で、人は緊急時には見通しのある方、明るい方や開かれた感じのする方向へ逃げようとするからだ。


ビル内のサイン(位置サイン)のレタリングも特徴的で、いつも目にしていれば印象に残るようなデザインになっている。これも緊急時に人は、自分が来た道、ここではふだんから知っている道をたどって逃げようとする特性を考慮したものだ。デザイナーは、現在は彫刻家として活動する五十嵐威暢(いがらし・たけのぶ)。ビジュアルアイデンティティ計画の代表作に、サントリーホール、明治乳業、多摩美術大学などがある。


倉方氏は「このようにホンダ青山ビルは、事故があった時のことを考慮して設計されている。モビリティメーカーは非常時を考える。モビリティの開発では自然な考え方だ」と解説する。


◆地下3階に35トンの大樽


ホンダ社員でもめったに目にすることがなさそうなのが、地下3階に置かれた容量35トンの大樽2つだ。大樽は上水道からの受水槽だが、樹齢200年以上のカナダ産ヒバ材でできており、カルキ臭が消えた水を建物内に給水している。


この水は災害時の飲料水としての役割も担ってきた。ビルの備蓄倉庫の食料・資材と合わせて、ビル勤務の1600人が3日間過ごせる量プラスアルファが用意されている。倉方氏は「当時は企業の防災備蓄義務はなかった。わざわざ“いいこと”をしている」と指摘する。


◆シビックと同じMM思想


本社オフィスとしてのホンダ青山ビルは、快適で効率的なオフィス環境の実現と、業務拡大、技術革新に対応して、部屋の使用目的やレイアウト変更にもフレキシブルに対応できるよう、柱を最小限にしたワンフロアプランだ。部屋の区画は可動間仕切りで、床下の自由な配線が可能な二重床(OAフロア、フリーアクセスフロア)を採用した。


倉方氏は「シビックみたいな建築」と例える。ホンダ青山ビルが建設中の1983年に登場した4代目『シビック』は、MM思想:マン・マキシマム、メカ・ミニマムを謳った。人のスペースを最大に、機械のスペースは最小に、という設計思想だ。ホンダ青山ビルでもエレベーターホールを集約、執務スペースを広くとっている。


◆出前のお兄ちゃんが…


ホンダ青山ビルの開館と同時に、社会との調和、コミュニケーションを図る場として、1階にホンダウエルカムプラザ青山が開設された。ここでは新製品や技術の展示、各種イベントなどを開催してきた。本社ビルを誰でも気軽に立ち寄れる場所にしたいという宗一郎の想いがあったからだ。


宗一郎は本社ビルを「出前のお兄ちゃんが立ち寄れるような場所」にしたいと考えていた。そこから、水を飲むだけでも立ち寄れる場所として、美味しい水を提供するために地下にヒバの大樽が設置されたわけだ。貯水された水は「宗一郎の水」としてウエルカムプラザでも無料で提供されている。倉方氏は「会社が全国のユーザーに支えられているという感謝の気持ちが宗一郎にあったのではないか」と推測する。


Honda青山ビル概要
所在地:東京都港区南青山2-1-1
構造:鉄筋コンクリート造、地上17階地下3階
設計監理:ホンダビル設計室
椎名政夫建槃設計事務所
石本建築事務所
施工:株式会社間組
工期:1983年8月~1985年8月
建設費:150億円
受賞歴:日本建設業連合会BCS賞(1987年)


◆新ビルは2030年度の完成目標


ホンダ青山ビルは2025年度に解体し、同地に建設する新たなビルは2030年度の完成を目標としている。1階のホンダウエルカムプラザ青山は2025年3月31日で閉鎖し、従業員の業務も5月で終了する。建て替え期間中、同ビルに勤務していた従業員は、東京都港区の虎ノ門アルセアタワーと埼玉県和光市のホンダ和光ビルにおいて業務を行なう予定だ。ウエルカムプラザの代替施設については未定。



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