松尾潔・SMILE-UP. によるBBCへの抗議文書は「論点ずらし」と批判
RKB毎日放送 / 2024年5月2日 15時53分
SMILE-UP.(旧ジャニーズ事務所)は4月25日、イギリスBBCに対し、今年3月に放送した創業者・ジャニー喜多川氏の性加害問題に関する番組の中で、東山社長の発言内容が「意図的にゆがめて放送された」などとして、抗議文書を送ったと発表した。ジャニーズ性加害問題について早くからメディアでコメントしている音楽プロデューサー・松尾潔さんは、4月29日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、この抗議について「論点ずらし」だと批判した。
編集権への介入を疑わせる
先週、旧ジャニーズ事務所の補償会社SMILE-UP.が「BBCが放送した東山紀之社長のインタビューの取材映像は、恣意的に趣旨を歪めて編集された」としてBBCに抗議するとともに、訂正と謝罪を要請する文書を送付しました。
これ、僕は結構重大な問題だと思っています。ラジオでもテレビでも収録番組は、生放送と違って編集を行いますよね。この編集権は、基本的には放送局、メディアの方にあります。
媒体によっては、初めから取材を受ける人に対して「編集しますが、その後に確認してください」と言っておく場合や「取材を受けていただく以上は、こちらを信頼して記事内容はお任せください」とする場合と、ケースバイケースです。僕も取材を受ける時には、そういう条件を確認することにしています。SMILE-UP.とBBCとの間で、事前にそういう話はしていなかったのでしょうか。
SMILE-UP.が(旧ジャニーズ事務所の時代から)日本の放送局に対して何か抗議をするといったことは聞いたことがありません。ということは、裏を返せば、普段から番組で取材を受けるたびに、編集権に相当介入しているんじゃないかという疑念が浮かび上がってきます。
性加害問題に関しても「放送前に事務所側がチェックする」ということが前提になっていたんじゃないかと、そういう疑いまで招いてしまいます。鈴木エイトさんなど著名なジャーナリストの方々も、このことを指摘しています。
BBCがカットしたことで事なきを得た?
BBCに抗議するのと同じタイミングで今発売されている「週刊新潮」のゴールデンウィーク特大号に「『ジャニーズ』補償贖罪の現在地」という見出しで4ページにおよぶ記事があります。おそらく紙媒体としては独占だと思いますが、東山社長がインタビューに応じていて、そこで「BBCのインタビューに映らなかった真意がある」というくだりがあります。
そこでも「BBCのインタビューで『誹謗中傷はなくしていきたいと僕自身も思っています』と語っていますが、残念ながら、その部分は放送で削除されてしまいました」と、抗議内容と同じことを語っています。
BBCのインタビューを受けた際にSMILE-UP.の方でも録音していた音声があり、それと照らし合わせて「BBCでオンエアされた部分とは別にこんなことも話していました」と言っているんですが、僕は「テレビの番組を収録する時に、自分の会社でも録音するんだ」ということに不信感を抱きました。
しかも、この「誹謗中傷はなくしていきたいと僕自身も思っています」の前に、もう一言「なるべくなら」とつけている。つまり、確固とした意志で「断固として誹謗中傷には反対します」と言ったのではなく、弱い印象を与えています。この部分をBBCにカットされたことで、かえって事なきを得たんじゃないかとさえ考えてしまいます。
SMILE-UP.の抗議は“論点ずらし”
「言論の自由もあると思うんですね」と東山さんが発言した部分はBBCの番組で放送されましたが、その「言論の自由」を履き違えているんじゃないかと批判も受けました。それについても東山社長は週刊新潮のインタビューに「それも僕はこういう意図で話したんです」と事細かに語っています。
おそらく週刊新潮の記事はSMILE-UP.のチェックが細かく入ったんでしょうね。実際、失言の乏しい内容になっていました。
そもそも東山社長が「『なるべくなら誹謗中傷をなくしていきたいと僕自身も思っています』という部分をカットされた」と抗議していますが、今の世論はそのことだけでSMILE-UP.に対して批判的になっているわけではありません。
同時に「言論の自由もあると思うんですね」という言葉の使い方だけに批判が向いているわけでもありません。もっと総合的に判断した上で形成された世論です。例えばBBCのモビーン・アザー記者から「ソーシャルワーカー(社会福祉士)としての正式な訓練を受けたり、性的虐待のサバイバーのため正義を確保したり、カウンセリングの訓練を受けたりしていますか」と聞かれると「いや、それはないです」と答えています。そのうえで「僕が被害者の声を聞くことで少しでも心が癒されれば」と発言する。そういった東山社長の姿勢にカウンセリングをなんだと思っているんだという声だって上がるわけです。
ほかにも東山社長は「ジャニー喜多川氏以外にも性加害を行ったスタッフがSMILE-UP.に2人いた」「その人たちは既に会社を辞めています」さらに「情報を警察に提供していない」と述べています。アザー記者が「常識としてその情報は警察に提供する必要がありませんか」と質問すると「法的なことを考えると、僕らには権限がないと思いますので」と後ろ向きの回答。性犯罪が非親告罪化されたことを知らないのでは、とも言われています。
そういった煮え切らないとも取れる態度を繰り返してきているから、総合的な判断が、「いったいSMILE-UP.は真剣に補償に向き合っているのか」というところに繋がっているのです。
それを東山社長、並びにSMILE-UP.が「あそこの部分をカットしたBBCはひどいと思いませんか、皆さん」と日本のメディアにアピールするような動きは、僕には論点ずらしとしか映りません。あるいは抗議によって、少しでも時間を稼ごうとしてるのだろうかとすら感じますね。やっぱり記者会見を開くしかないと思います。
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