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盗撮「最初は中学生のころ。これまでに数百回繰り返した」30代男性が逮捕されるまで そして今

RKB毎日放送 / 2024年5月10日 17時51分

同意のない性行為やわいせつ行為、痴漢や盗撮など、性犯罪の被害に遭う人が後を絶ちません。

警察庁によりますと、昨年度の不同意わいせつの認知件数は6096件(前年比:+1388件)、不同意性交等の認知件数は2711件(前年比:+1056件)で、どちらも過去5年間で最多となっています。

「魂の殺人」とも言われる性犯罪。被害をなくすため、防犯アプリの配信や相談窓口の設置などさまざまな取り組みが行われていますが、その中に、加害者の更生に着目した治療プログラムがあります。治療を続ける30代の男性に話を聞きました。

「中学生の頃から。回数にしたら何百回」

Aさん(30代)「最初は中学生のとき。たまたま好きな子の家が分かってしまって、興味本位で風呂を覗けちゃうんじゃないかなと。このときはまだケータイとか持っていなかったので、民家を覗くとか、そういったところから始まって、大学生になってくるとケータイを持っていますから盗撮を始めて・・・。回数にすると何百回とやっていると思います。」

九州地方に住む30代の男性、Aさん。

Aさんは、中学生の頃からのぞきや盗撮などを繰り返してきました。

そして去年2月。民家の風呂場を盗撮していたところ警察から事情聴取され、10月に福岡県迷惑防止条例違反の疑いで逮捕されました。

Aさん(30代)「2月から逮捕されるまでの10月まで半年以上『逮捕されるんじゃないか』という恐怖感の中で生活して、それが一番の悩みの種だったんですね。逮捕されるかされないのか、本当に不安だったんですけど、逮捕されたときは、ひとつけじめがついたなという気持ちでした。」

その後、福岡地検に略式起訴され、福岡簡易裁判所から罰金80万円の支払い命令が出されました。

盗撮は「ストレスが原因だった」

Aさんは、なぜ盗撮行為を繰り返したのでしょうか。Aさんは「ストレスが原因だった」と話します。

Aさん(30代)「社会人になって、盗撮をしない時期もあったんですけど、仕事で失敗したりとかストレスが溜まったりすると、何かの拍子に1回パンってなってしまう。そうなると癖みたいな感じで、それが続いてしまって・・・」

「良くないことをしている認識はあった」

良くないことをしているという意識はなかったのでしょうか。

Aさん(30代)「めちゃくちゃありました。これが多分、普通の人は分かってくれないと思うんですけど、自分の中では『覗きに行きたい』でも、家族のことを思うと『やめなきゃいけない』と思ったりする。だけど覗きに行ってしまう。自分の中の葛藤に負けてしまった悔しさで、盗撮したあと、家に帰る帰り道とか家族や被害者に対して申し訳ないなという気持ちがすごくありました」

成功体験から繰り返すように「捕まらない、と思っていた」

Aさん(30代)「仕事で嫌なことがあったりした時に衝動的に民家の周辺を徘徊してしまうとか、盗撮でいうとお風呂場を覗いて、盗撮ができてしまう、そのような成功体験を味わってしまうとそこから抜け出せなくなるというような感じでした。捕まらないという勝手な妄想と、捕まるかもと思ってもそれより衝動が勝ってしまうという感じです。」

性加害者などに向けた治療プログラムを受けることを決意

盗撮をやめる転機になったのは、逮捕のきっかけになった警察からの職務質問でした。

民家の風呂場を盗撮をしていたところ、警察から職務質問を受けたAさん。そのことを知った妻から、性加害行為やその行為への依存を治療する専門機関への受診を勧められたのです。

Aさんは、妻がインターネットで探した施設のうち、対面で相談できるところを選びました。

Aさんが現在通っているのは、「ふくおか心理教育オフィスヒュッゲ」。認知行動療法による治療を行う機関でした。認知行動療法とは、どういうときに問題行動を起こしやすくなるのかなどといった自分の思考や行動のパターンを把握し、それに対する対処法や自己管理方法を学ぶものです。

Aさんが学んだ「認知行動療法」

「ふくおか心理教育オフィスヒュッゲ」では月に1度、2人~3人の少人数グループで治療プログラムが行われます。

それぞれが近況を報告しあったあと、後半は認知行動療法に基づくアプローチで、ストレスや怒りを感じた時の管理方法や対処方法などについて学びます。

さらに、学んだことを日常生活でも常に実践できるよう、毎回必ず学んだことに関連する「宿題」が出されるそうです。

Aさん(30代)「”コーピング”というものがあって、例えば、ストレスを感じたときに宝くじが当たったことを妄想するとか、自分の気持ちの切り替えの方法。これが宿題として出されます。『あなたが実際にできるコーピングを考えて、やってみましょう。』『行動でできるコーピングを考えてみましょう。』というもの。僕だったら『普段あまり行かない道を選ぶ』とか。『ジュースをおごる」とか。後は頭の中で想像できるコーピング、これが『次の休みの計画を頭の中で立てる』とか、『自分の子供が大きくなったときのことを想像する』というもの。行動のコーピングと想像のコーピングというのがあって、宿題としてやった時に、図らずも今まで無意識でやっていたことも”コーピング”なんだっていう発見もありました」

治療を通して、問題行動を「選ばなくなった」

記者プログラムを受けてみて、効果は感じていますか?

Aさん(30代)「もちろん、問題行動をしてしまうことはなくなりました。今回の治療というのは、盗撮などの問題行動という悪いものを直接潰すのではなくて、新しい選択肢を与えることによって、問題行動という選択肢を徐々に減らしていったり、自然消滅させていったりというやり方だと僕は思っています。

被害者からの示談の条件

Aさん(30代)「今回示談が成立したんですけども、被害者の方から言われた示談の条件のひとつに『今後も引き続き治療を続ける』というものがありました。それを見た時に、被害者の方の『被害に遭われる人たちを自分で最後にしてほしい』という思いをを感じたので、申し訳ないという気持ちと、自分が社会の中でそういう問題行動を起こさずにしっかり生きていくことが被害者の方への謝罪のひとつだと思っています。」

家族も含めた相談が重要

Aさんが通う施設の代表、金谷大哲さんは、再犯を防ぐためには「本人だけでなく、家族を含めた相談が重要だ」と話します。

ふくおか心理教育オフィスヒュッゲ金谷大哲代表「ご家族だけにしか分からない悩みがあるんですよね。例えば加害者が息子さんであれば、『教育の仕方が悪かったかな。家族が悪かったかな』と。配偶者の立場であれば、『もうちょっと妻としてできたことがあったんじゃないか』などさまざまです。他の機関で打ち明けるということが内容的にとてもハードルが高かったりするので、吐き出していただく場というのを提供したいということと、『どうしてこの行動が続くのか』『約束したのに、あれほど反省したって言っていたのに』『嘘をついているんじゃないか、変われないんじゃないか』そういう風な捉え方になっているご家族は案外多いので、行動パターンというのは学習だからというお話を改めてしています。これやめた方がいいと自分も家族も分かっている、だけれどもやめられないというのはひとつの学習だと僕たちは理解していて、依存症だと理解をすると病気、一方で、誤った学習パターンが身についていると考えると、学習パターンを変えるということが治療支援になってきます。病気か、誤った学習パターンが身についているか、どちらの捉え方がしっくりくるかということはその人によって決めていただいていいと思いますが、僕自身は認知行動療法を提供する上で誤った学習を違う学習に変えていきましょうと、そういった説明をすることが多いですね。」

「病気」という言葉に救われた

盗撮を「やめたくてもやめられない」と思い悩んでいたAさん。家族からの「病気」という言葉に救われたと話します。

Aさん(30代)「今回の問題行動のことを僕は自分の問題だと思うし、自分がしっかりしていなかったから、こういったことになったと思うけど、妻と母親から、『これは病気だからしっかり治療しなきゃいといけない』ということを言われて、その”病気”という言葉には救われたなと思っています。病気って結構不可抗力的な感じがして、なろうと思ってなるものじゃないし、”病気”と言ってもらえることで、しっかり「治療」という言葉とも結びつきますし、自分が悪いんですけど『絶対的にあなただけが悪いんじゃないよ』という意味を含めて”病気”という言葉は、僕が使ってはいけない言葉だと思いますが、他の人が使う言葉としてはすごく救われたなと思いましたね。」

家族との関係にも変化「悪いことも話せるように」

治療を始めてから家族との関係も変わったと話します。

Aさん(30代)「妻といろいろ話すようになりました。話す量は変わらないんですけど、治療を受ける前はいいことしか話さなかったんです。でも治療を受けてからは、問題行動をはじめとして、いろんなこと、いいことも悪いことも話すようになったかなと思います。性犯罪っていうのは誰にでも話せることではないですが、妻に関しては、治療をうけられる場所をみつけてくれたということもありますし、妻も話しやすい雰囲気を作ってくれているのかなという風にも思いますね。」

Aさんが失ったもの

一方で、失ったものも少なくありません。Aさんは逮捕後、それまで勤めていた会社を退職せざるを得ませんでした。

Aさん(30代)「職を失ってすごくきつい思いをしています。被害者の立場からみれば『自業自得だ』というのは当たり前だと思うし、僕が職を失って別の職につかなければならないような生活をしているのは、自分が悪い、自業自得だから頑張ろう、と思います。ただ、被害者ではない全くの第三者からの「自業自得」という言葉は、やはりこたえます」

治療にたどりつく加害者まだわずか

Aさんの場合は、たまたま妻に理解と行動力があり、再犯防止のための治療プログラムにたどりつきました。しかし治療プログラムにむすびつくケースは、まだ少数です。福岡県では、2020年5月、加害者の再犯を防ぐ取り組みとして、「福岡県性暴力加害者相談窓口」を立ち上げました。性加害者からの相談を受け、再犯防止プログラムの実施や、社会復帰のための生活自立支援、問題行動を是正するための専門医療機関等の紹介などを行うものです。福岡県によりますと、取り組みを始めた2020年5月から、2023年9月までの対面での相談者数は165人にとどまっているということです。

再犯防止「社会の問題として捉えて」

加害者への治療プログラムを提供している民間の支援施設「ふくおか心理教育オフィスヒュッゲ」代表の金谷大哲さんは、これまで医療機関や海外の医療NGOなどで、臨床心理士として活動してきました。欧米に比べ日本では、性犯罪加害者の再犯防止を支援する機関が少ないと感じています。

ふくおか心理教育オフィスヒュッゲ金谷大哲代表「海外は性的な問題行動を個人の問題と捉える日本と違って、社会の問題と捉えられています。社会の問題として再犯防止に取り組んでいるので、社会に戻ってくる性犯罪をして受刑している人への社会復帰支援などがとても具体的で、社会と施設が密着しているんですね。日本は反省、謝罪、そういったことを求める文化なのか、その人の問題という風に捉えて結論づけてしまって、”自分たちとは無関係のような問題”にしてしまう風潮が強いのではないかと思います。それは殺人であっても性犯罪であっても、覚醒剤であっても。地道にその人だけの問題じゃなくて、我々みんなの問題という風に捉えるような働きかけができるようになればいいなと思います。」

記者犯罪加害者にとってどのような社会になってほしいと思いますか?

ふくおか心理教育オフィスヒュッゲ金谷大哲代表「人間はみんなそんなに変わらないというか、同じような作用が積み重なって、同じような状況に陥ったときには、人間誰しもその行動に着手する可能性が0じゃないかも知れないと僕は思っています。自分のことのように、人の問題行動を捉える社会になっていてほしいなと思います。」

盗撮5年で1.5倍に

なくならない性犯罪。警察庁のホームページによりますと、2022年の盗撮の検挙件数は5737件にのぼっていてこの5年で約1・5倍に増えています。盗撮は再犯率も高く、平成27年版の犯罪白書では盗撮の再犯率は36.4%とされています。

加害者の再犯を防ぎ、傷つく被害者を増やさないために、社会として向き合っていく必要があると感じています。

RKB毎日放送 記者 奥田千里

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