松尾潔「人権軽く見ている」水俣病被害者団体のマイク遮断を痛烈批判
RKB毎日放送 / 2024年5月15日 16時34分
熊本県水俣市で行われた水俣病患者・被害者団体と伊藤環境相との懇談で、団体側の発言中に環境省の職員がマイクの音を切った問題で、伊藤大臣が水俣市を訪れ団体の代表らに謝罪した。この問題について音楽プロデューサー・松尾潔さんは5月13日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で「人権を軽く見ている」と批判した。
時間がかかりすぎる国の対応に怒りを覚える
5月1日に伊藤信太郎環境大臣と水俣病の患者団体との懇談会が開かれた際、環境省の職員が「一つの団体の発言時間は3分」と上限を決めて、団体側の発言を遮りました。あれを見て怒りの感情を抱かなかった人はいないと僕は思うんですが、きょうはこのことを改めて考えてみます。
僕は1968年、昭和43年生まれですが、水俣病は僕が子供の頃にはもう認識されていた公害です。学校の社会の授業で習ったと記憶していますが、水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそくを四大公害病といいます。
これらの公害病は「今でも被害に遭った方が苦しんでいる」ということが大前提としてあります。解決にいったいどれだけ時間かかっているんだろうかと思います。もちろん「どれだけ時間かかっているのか」というのは、癒えることのない痛みや病ということもありますが、国と患者たちとの意思疎通が未だにうまくいかないという意味で、怒りの感情を覚えずにはいられません。
3分の制限時間は人権軽視
そもそも発言時間が3分間って、本気で患者の話を聞こうという気持ちがあるのでしょうか。普通に考えて、われわれがスピーチをするときに3分だと、挨拶程度で終わってしまいますよね。これはまったく儀式的なもので、ガス抜きと言われても仕方ないという屈辱的な時間設定だと思います。
初めから本気で聞く気がないと思われても仕方ないのに、そのうえ音声を強制的に切ってしまう。しかも予め団体側に「3分です」と伝えておくはずだったものを「メモを読み忘れた」と釈明していますが、なんにせよ杜撰極まりないし、本当に人権を軽く見ているんだなと思ってしまいます。
「認定者と未認定者を区別する必要はなかったんじゃないか」
発言を遮られた形になった水俣病患者連合の副会長・松崎さんは、「大臣を恨むとかそんな気持ちはない」「とにかくみんなが救済されることが目的だから、別にそれ以外言うことはないんですよ」というようなこと怒りを押し殺しながら話しています。
松崎さん自身は水俣病患者に認定されておらず、亡くなった妻の悦子さんも未認定者です。でも、「国も県も認定者と未認定者を区別する必要はなかったんじゃないか」と、本質的なことを端的に訴えています。
不手際によるアナウンス効果という皮肉
水俣病と認定されているのは約3000人、一時金などの救済を受けた人は約5万人と言われています。それらに加えて、現在訴訟を続けている人は約1500人います。僕も不勉強で、今回のことで「そんなに(まだ)闘っているんだ」と認識を新たにしました。
医師の診断書をもらうことも難しいそうで、そういう現実があるということを今回の一件で知った方も僕だけではないと思います。そういう意味では、伊藤大臣および環境省職員の不手際のおかげで「アナウンス効果があったな」と、そうとでも思うしかないなという気がします。
解決に近づけるきっかけに
伊藤大臣は1日の懇談会で、団体側が発言を遮られるタイミングのときにも表情をあまり変えていませんでした。マイクがオフになってもその場にいた人たちは当然声が聞こえています。それなのになぜ「そのまま続けてください」という一言が出ないんだろう、そういうことを言えない人物が大臣をやっていることに、僕は恐ろしさを感じました。一般のコミュニケーションとしてあまりに不自然です。
問題が表沙汰になった後、伊藤大臣が再度水俣を訪れたわけですが、懇談会のときに「新幹線の時間がない」と言った人が1週間後謝罪に行くという、とんだ茶番です。
鹿児島空港に降り立って記者に囲まれたときに涙目になっていましたよね。その1週間前のあの無表情の大臣のことを思い出してみると、非常に趣深い。ちょっと嫌味で言っていますけれども。
そのときに彼が言ったこと。「水俣病というのは環境省が生まれた原点です」「いかにこのことを大切に思っているかをお伝えしたいんです」「ちゃんと環境省の責任者も厳重注意しましたから」と涙ながらに語ったんですが、まあ皆さん思っているでしょうが「どの口が言う」って思いますよね。
先に述べた通り、今回の問題は一定以上のアナウンス効果がありました。風化しかねなかった水俣病が未だ解決していないということがクローズアップされる機会になりました。改めて被害に遭った方、患者たちの満足に少しでも近づけるような解決のきっかけになるといいなと考えています。
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