松尾潔・Mrs.GREEN APPLEのMV公開停止に「我が事として考えて」
RKB毎日放送 / 2024年6月18日 16時5分
日本レコード大賞も受賞した人気バンド・Mrs. GREEN APPLEの新曲「コロンブス」のミュージックビデオ(MV)に批判が相次ぎ、公開停止となったことが話題になっている。音楽プロデューサーの松尾潔さんは6月17日に出演したRKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』で、「我が事として考えて」などと訴えた。
評価の分かれる歴史上の人物を扱う難しさ
Mrs. GREEN APPLEの新曲「コロンブス」のMVが公開停止になりましたね。彼らは昨年末のレコード大賞を受賞している、特に突出したスター性と音楽性を備えたグループです。
歴史上の人物・コロンブスは、今では評価が分かれることが多く、特に欧米社会では冒険者という従来のイメージよりも、むしろ侵略者というネガティブなイメージが強いとされています。僕も子供の頃は「偉人」として教わりましたが、今ではその認識が修正されてきています。
この問題は、ミュージックビデオの映像に問題があるということで広がりました。ただ、よくよく考えてみると、そもそも「コロンブス」という、これだけ評価が変わっている人物の名前をタイトルに冠したという点ですよね。中心メンバーの大森元貴さんは「『コロンブスの卵』という言葉にインスピレーションを受けた」と話しています。
今MVは公開停止されていますが、オーディオの方はYouTubeでも公開されていて、その画面にも「コロンブスの卵」と思しき卵が大写しになった静止画像が使われています。
確かに「コロンブスの卵」という言葉は定着していますから、日常会話で使うときにわざわざコロンブスのネガティブなイメージまで考え、思いを馳せたりすることはないだろうと思うんですが、そういった日常生活の足元をも照らしてくれるような話です。エンタメの世界、特にポップミュージックの世界で、評価の分かれるような歴史上の人物を扱うことの難しさと、そのことに注意を払わなければいけないということを教えてくれましたね。
タイトルや歌詞も改めるべきでは
MV以前に、「コロンブス」を発想の端緒とし、曲のタイトルにまでしたこと、それ自体どうだったんだろう、という疑問が僕にはあります。コロンブスの侵略の対象とされているネイティブアメリカンのみならず、我々アジア系もそうですし、あとアフリカ系もそう。歴史教科書には「欧米の列強による植民地支配」という言葉がありますが、征服される側、支配される側の気持ちという、当事者意識が欠けていたんじゃないか、想像力も欠けていたんじゃないかなと思います。
それは、Mrs. GREEN APPLEや大森さんだけを責めるのではなくて、音楽業界、広告業界、メディア業界全体に言えることです。もっと言うと、我々が暮らしているこの日本全体に言えることかもしれませんが、MVがなくても、この楽曲自体を、コロンブス側の視点に立って聴いていたんじゃないかということです。
MVは公開停止になりましたが、歌詞の中には「コロンブスの高揚」という部分などが、今でも聴ける状態になっています。僕はこのMV騒動でこの曲を初めてじっくり聴きましたが、もう「楽しいだけのポップソング」として聴けない気持ちになっています。
僕は曲のタイトルも改める、歌詞も一部見直すところは見直して、出しなおすことが、彼らのアーティストとしてのバリューを高めることになるんじゃないかなとさえ考えています。
グローバル企業がなぜ問題意識を持たなかったのか
もう一つの問題として、彼らが「ユニバーサルミュージック」という、世界有数の国際企業のレーベルの主力アーティストであるということ、また今回の曲が、コカ・コーラという誰もが知るグローバル企業のタイアップソングだったということが挙げられます。
そんな背景を持つ企業に従事する人たちが、ずっとノーチェックのまま、MVを作り上げるところまで、問題意識も持たずに黙認していたというのは、にわかに信じがたい話です。類人猿に人力車を引かせるというような、分かりやすく白人至上主義にも繋がるおそれのあるシーンは、国際的な視点があれば、炎上するという予測はできたはずです。これを奇貨として、考えを改めるしかないと思います。
とはいえ、こういう問題のせいで、アーティストが委縮して、自由な発想にリミッター(制限)をかけてしまうというのは、我々作る側として一番懸念しているところです。決して内向きになったりしないでほしいと思います。
Mrs. GREEN APPLE並びに大森さんの対応も早かったので、こういうときにダンマリを決め込むようなタイプのアーティストではないということもよく分かりました。ただ、大森さんの謝罪も突っ込みどころが多くて、そこもどれぐらい事前にチェックされたのかどうか気になります。
アーティストはファン以外のことも視野に
同じ音楽業界の人たちがどういう反応をしているのか、僕なりにSNSで調べてみました。MY FIRST STORYのHiroさんは「なんでも燃える時代なんだね。気をつけよう」という投稿をしています。この投稿も突っ込みどころ満載ですね。彼は我が事として考えたのかもしれませんが、この言葉自体が“燃える”ことになってしまっています。
世代はぐっと上になりますが、DREAMS COME TRUEの中村正人さんもXで6月14日「この経験でおおいに学び、おおいに辛い思いをして前に進むがいい。それは何よりも自ら産み落とした楽曲と、その楽曲を愛するひとりひとりのためだ」「音楽を生業とするということは、そういうことだ」という厳しさも含んだ、先輩としての思慮のあるアドバイスを与えています。
アドバイスであり忌憚のない感想でもあるんでしょうが、その通りだなと思う一方で、もう一言付け加えてほしかったことがあります。この文章だけだと、やや視野狭窄に陥るおそれがあるというか、「アーティストについているファンを大切にね」というふうにも聞こえます。
しかし今回は、ファンの人たちが騒ぎ出したというよりも「このご時世に鑑みてどうなんだ」とか「海外の人がこれを観たらどう思うだろう」とかそういうところで起きた話なので「ファンのことを思えばこそ」と中村さんが言っていること自体は間違っていませんが、やはりアーティストは、自分たちの目の前のファン以外のことも視野に収めてほしいなと思うのです。
この先も歌い続けていけるアーティストとは
社会的な発言をよくすることで知られているアーティスト・SIRUPさんがThreadsで発言していたことが、僕は傾聴に値すると思いました。
“「日本が差別蔓延国家で人権教育スーパー遅れてると世界中にお知らせするような事件が連日起こっているのでみんなでただただ学び直そう 俺ももっと学ぶぞ 間違いを指摘されたからってディスられたとか貶されたに変換せずにその後アップデートするのがいっちゃんかっけーよ。 あとアフリカンアメリカンの音楽が好きなら禁止されてもやればいいけど、その歴史を学ぶ必要はあるよ一生ゆうてるけどそれがリスペクトよな てかなんでも好きなら背景とか知った方が表現に説得力出るしもっと楽しくなるよな」”
これは、Mrs. GREEN APPLEの件についてではなく、東京都千代田区にある中学校の校長が「HIPHOPダンスを禁止する」という通達をしたことに関して言及しているものです。
まさに自分に起こったことじゃないことでも、自分の音楽に反映できるような、普段から目配りをしているアーティストたちだけが、ずっとこの先も歌い続けていけるんじゃないかなと思いますし、そういう意味では「うちは炎上しなくてよかった」というのではなく、どのアーティストも、そしてそのファンも、我が事として今回のことを考えてもらえれば、音楽プロデューサーの僕としては嬉しいです。
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