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“吉祥の鳥”トキの繁殖で日本と中国が協力し合えるものとは?

RKB毎日放送 / 2024年6月20日 16時11分

日本の特別天然記念物トキの繁殖をめぐっては、日本と中国が技術や資金面で協力し合い、保護してきた歴史がある。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長は6月20日、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し「環境問題は日本と中国が協力し合えるテーマの一つ」とコメントし、トキの保護がモデルケースになると語った。

一次絶滅した中国で1000羽超のヒナ誕生

「ニッポニアニッポン」という、いかにも日本を象徴するような学名を持つトキ。羽を広げると見える少し黄色味がかった桃色は「鴇色(ときいろ)」呼ばれ、日本人が好む色とされる。トキは国鳥ではないが、やはり日本を代表する鳥の一つに思える。日本の特別天然記念物。そのトキに関して、先日、中国でこんなニュースが報道された。

“「中国西部、陝西(せんせい)省にあるトキ自然保護区で、今年生まれ、育っているトキのヒナは、合わせて1000羽を超えたとみられます。2005年にトキの自然保護区ができて以来、最多の繁殖数になりました」”

ニッポニアニッポンの学名を持つトキだが、中国のほうが圧倒的に多い。毎年3月から6月にかけての時期がトキの繁殖シーズンだ。保護区全体、つまり人家や山林を含めた場所では、今年の繁殖シーズン、野生のトキの巣600個以上で、産卵が確認されたという。

メスのトキは1羽で2個から3個の卵を産む。そこから計算すると、ふ化したヒナ、その後、順調に産まれたヒナは1000羽という大台を超えた、と推定される。中国で一時は絶滅したとみられたトキは、陝西省だけでも現在、野生のトキも含めて7700羽まで増えた。

日本国内では700羽まで回復

翻って、日本のトキの保護活動はどうだろうか。先ほど、トキの羽は鴇色と称されると紹介した。その美しい羽毛を狙って、江戸時代からトキは乱獲によって激減した。

現在、新潟県・佐渡のトキ保護センターを含め、日本には全国7か所でトキを飼育している。今年は5月末まで統計によると、合わせて31羽がふ化した。残念ながら、うち3羽が死亡したので、ヒナは28羽。成鳥、つまり大人のトキは161羽。ヒナと成鳥合わせて全部で189のトキが現在、各地で飼育されている。

このほか野生のトキは昨年末現在の統計で532羽いる。絶滅の危機にあったトキが、合わせて700羽を超えるまで数を回復した。

日本と中国が協力できるテーマの「実例」がトキの繁殖

ここで話題を少し広げて、日本と中国の関係について考えたい。昨日(6月19日)に平壌で、北朝鮮の金正恩総書記とロシアのプーチン大統領が首脳会談を行ったが、北朝鮮とロシアが蜜月関係を演出するのは、日本を含めた主要国と中国の対立という要素があるからだ。

先日、岸田首相も出席してイタリアで開かれたG7首脳会議も、中国非難の場となった。ただ、日本と中国に限っても、今の関係のままでよいなんて、多くの人は思っていないはずだ。

日本と中国が協力し合えるテーマは何か――。その一つは環境問題。とりわけ、きょう話してきたトキの保護、繁殖プロジェクトは、そのモデルケースになると思う。

「過去の実績」もある。今から43年前の1981年、中国でもトキは絶滅したと考えられていた。ところがこの年、陝西省で、野生のトキ7羽が見つかった。中国は国を挙げて、トキの保護にあたった。これを後押ししたのが日本からのトキ保護の技術支援、そして資金面での支援だった。これらが実を結び、中国ではトキの数が増え続けていった。

同じく1981年。日本でも野生のトキ5羽を捕獲。これで野生のトキはいなくなったが、とにかく絶滅させてはいけないという判断だった。しかし2003年には、捕獲した5羽のうち、最後の国産トキが死んでしまい、日本のトキは絶滅した。この間、中国からトキを借りたり、また国産のトキを中国に貸し出したりして、ペアリング=種の継承に努めたが、実を結ぶことはなかった。

国産トキは絶滅した。しかし、国産トキが絶滅する前の1999年、中国からオスとメスのペアが日本に贈呈された。中国からのペアの間に子が誕生し、日本でもようやくトキの人工増殖が成功した。また、交配の範囲を広げるために2000年代には中国産のトキが日本に供与され、確実にその数を増やしていった。その結果、現在、日本には700羽がいるようになった。

つまり、現在日本にいるトキはすべて、中国から提供された中国産トキの子孫ということになる。ただし、日本産のトキと中国産のトキの遺伝子の違いは0.1%以下という研究報告がある。これは個体差のレベルであり、たとえば同じ日本人であっても、個人個人の遺伝子がほんの少し違うのと同じ程度だという。日本産のトキと中国産のトキに遺伝的な違いはなく、人間でいうと、「民族という括り」や「国籍の違い」はないということだ。

中国の成功体験が日本にも生かされた

中国陝西省でのトキの繁殖成功例を紹介したが、私はかつて、このトキ自然保護区を訪問したことがある。先ほど「国家を挙げての保護政策を展開した」と述べたが、社会主義国らしく、国からの命令で保護が徹底していた。トキが絶滅したと思われるぐらい激減した主な原因は、農薬の使用によってトキが好んで食べる小魚、カエルなど両生類、それに昆虫の数が減ったためだ。陝西省では農民に補助金を出しながら、農薬の使用量を減らし、トキのエサを回復させていた。

中国での成功体験は、日本にも生かされた。新潟県佐渡では今、多くの農家が農薬を大幅に削減したコメづくりを実践している。小魚や虫が増え、そしてトキのエサが増え、トキも増えた。農家もトキが舞う里山で栽培した減農薬米をブランド米にしている。手間がかかるが、だれもが歓迎できることだ。

トキを増やそうという取り組みの中で、魚、両生類、虫たちが里山に帰ってきた。人間が自然界で、様々な生物とどのように共に生きていくか、という当たり前のことを、教えてくれた気がする。日本と中国の関係で言えば、トキという鳥が、二つの国の、付き合い方の一つについても、教えてくれていると私は思う。おかしな行為は、互いに指摘し合うべきだが、一方で、互いに知恵を絞って共通の難題に立ち向かえるはずだ。

トキは日本でも、中国でも、「吉祥の鳥」と呼ばれてきた。吉祥とは、よい兆し、めでたいことの前触れ…という意味だ。今後、第二、第三のトキ繁殖のようなケースを日中で見いだせないだろうか。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

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