「自分との結婚なんて考えてもらえない」 ”最大の悩みは結婚” 障がい者の”きょうだい”に生まれて
RKB毎日放送 / 2024年7月18日 19時5分
兄の存在を理由に、縁談を断られ続けた女性がいる。4歳上の兄には知的障害があった。
障がい者のきょうだいにとって最も大きい悩みのひとつは、”結婚”だという。
女性は、一度は別れた大学時代の恋人と、紆余曲折を経て、夫婦になった。
幸せな結婚を期待された、妹のわたし
北海道名寄市に住む八尾香織さん(42)。
4歳年上に重度の知的障がいを抱える兄・和敏さん(46)がいる。香織さんは、両親から「良い学校に進んで、良い会社に就職して、幸せな結婚をしてくれ」と期待され、ことのほか厳しく育てられた、と感じている。
あまり褒められた記憶がない。
八尾香織さん
「兄には知的障がいがあり、親としては、いわゆる世間的な幸せを求めるという意味では健常者の私しかいなかったので、期待がかかってきたのかなと思います。でも、学年トップの成績を修めても褒められたことがなかったので、『いつになったら親に褒められるのかな』と。その思いを糧にして頑張ったからか、、常にプレッシャーがかかっている状態で、今思うと肩の力が抜けない子供時代でしたね。」
香織さんは親の期待に応え、東京の有名私立大学に進学する。
八尾香織さん
「障がい者のきょうだいがいる家で育ったので、表面上は凄くしっかりしていました。人に弱音をはくのが苦手でしたし、常にカッコつけてたんですよね。『アタシ大丈夫でしょ、出来るでしょ!しっかりしてるでしょ!しっかりしてるわよ』って感じで、可愛げはゼロでしたね。」
私との将来なんて考えていないだろう…恋人との別れを決意
大学時代には、恋人が出来た。
しかし、卒業を機に’彼’との別れを決めた。
八尾香織さん
「就職する時は『家族のそばに戻った方がいいよね』と思い、北海道の会社に就職を決めました。と同時に交際していたとはいえ、彼は自分との将来なんて考えていないだろう、と思い『私、北海道へ帰るから』と別れを告げました。その時は彼も『あっそう』という感じで、お互いにアッサリしていました」
20代の頃は全く結婚願望がなかったという香織さん。
厳しかった親との関係性もあり「家庭」というものに良いイメージが持てなかったという。
香織さんの父はいわゆる「亭主関白」で、母親は従順…典型的な昭和の家族だった。
そんな家族観も影響したのかもしれない。
生涯独身、という思いを胸に仕事にまい進した。
そんな香織さんが入社4年目を迎えた時、別れた大学時代の彼が、香織さんの当時の勤務先があった北海道北見市まで訪ねてきた。
「僕が札幌に移住してもいいから一緒になってほしい」とプロポーズを受ける。
しかし同じ北海道でも、北見市と札幌市とでは距離がある。
車で移動すれば4時間40分、JRを使っても4時間30分。
飛行機を利用しても、空港までの所要時間をプラスすると4時間30分。
「ここからじゃ札幌も東京も変わらないほど遠いわよ。それを分かってから言って頂戴!」と断ってしまう。
心境に変化 婚活するも”兄が理由”で縁談を断られ続けた
30歳になる年に「このまま生涯1人で本当にいいのだろうか?」と自問した時、「それは淋しい!私は本当はそんなに強くない!」と初めて自分の弱さを認めた。
そして結婚願望のようなものを持ち、結婚相談所に登録する。
しかし、兄の障がいが大きなネックとなった。
「障がいのある家族がいる人はちょっと…」とプロフィールを見ただけで断られたり、実際に会っても兄の話をすると気まずい雰囲気になり、その後声がかからないということが続いた。
八尾香織さん
「この時初めて『お兄ちゃんが原因で私結婚できないかも…』と厳しい現実を突きつけられた気がしました。」
34歳、二度目のプロポーズ
一方、プロポーズを断った彼とはその後も、時々連絡を取り合う関係が続いていた。34歳の夏、なんとなく電話で話をしていた時に、ふと「この人と話していると自然体でいられて楽だな」と感じたという。
すると…
「あのさ、君と結婚したいと言う男は僕しかいないと思うよ。もういい加減諦めたら?」という二度目のプロポーズを受け、結婚を決意する。
ようやく結婚を決意した香織さんだが、両親は反対した。
八尾香織さん
「彼の出身地が関西なので『娘が本州側に取られてしまう』という寂しさもあったようです。ずっと独身のまま自分たちの面倒や兄の介護をしてもらおう、という気持ちにもなっていたようで。20代までは『普通の幸せを見せてくれ』と結婚を急かす発言も多かったのですが、いざ結婚を決めると自分たちの都合で反対…勝手なことを言うわね、と思います」
一方、彼の両親をはじめ親族からの反対は全くなかった。結婚前から義父母とは面識があり、良好な関係を築いていたため反対するどころか「やっと一緒になってくれた」と喜んでくれた。
八尾香織さん
「恵まれ過ぎている話ではありますが、彼のお母さんは障がい者施設に長く勤務していた人で、理解がとても深い人。『私、障がいがある人と仲良くなるのが得意よ』と言ってくれた時、本当に嬉しかったです。」
そんな優しい義父母にあやかりたいと、ふたりが挙式した神戸市の生田神社で結婚式を行った。
八尾香織さん
「それまでは色々な困難がありましたが、道が開ける時は簡単に開くものなのかも…なんて思っています。」
”結婚”で思い悩むきょうだいは少なくない
香織さんのように、”結婚”で思い悩むきょうだいは少なくない。
全国きょうだいの会事務局長の太田信介さん(48)は、多くの相談を受けてきた。
全国きょうだいの会 事務局長 太田信介さん
「『障がいがあるきょうだいを差し置いて自分だけ幸せになることはできない』と思いつめる人もいる。また交際相手がいる場合でも障がいあるきょうだいの存在を告げた際に『相手から拒絶された』と早合点したケースもありました。」
幼いころから障がい者のきょうだいであることを理由にいじめられた記憶がある人も多く、好きな人から「障がい者のきょうだいがいるとは知らなかった」と言われただけで「嫌がっているんだろう」と思いこんでしまうことも少なくないという。
幼い頃のトラウマが、結婚を阻んでいるというケースだ。
「僕は結婚できるのかな?」と悩んでいた
太田さんにも障害のある弟がいる。
全国きょうだいの会 事務局長 太田信介さん
「きょうだいの悩みで最も大きいのは’結婚’だと思います。僕も小学校の時から『僕は結婚できるのかな?』と悩んでいましたね。結局、親が死んだときどうなるのかなっていうのを心配していたんです。’結婚’には必ず’親亡きあと’が絡んで来るからですね。」
そう話す太田さんは、33歳の時に生涯の伴侶を見つけた。出会いは”合コン”だった。
【後編に続く】障がい者のきょうだいにうまれて 最大の悩み”結婚” 太田さんのケース
RKB毎日放送 石川恵子
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