男子トイレを素手で掃除「おしっこが飛び散っていて。気持ち悪かった」 女子児童に指示した小学校の職員「できるだけきれいな校舎にして卒業生を送り出したかった」
RKB毎日放送 / 2024年7月28日 12時0分
今年3月、福岡県久留米市の公立小学校で、女子児童2人に男子トイレの便器を素手で掃除させていたことが分かった。女子児童のひとりは、しばらく「眠れない」「食欲がない」症状が続いたという。
この学校では普段、モップやブラシを使って掃除をさせているが、この日は翌日が卒業式で、素手による掃除を指示した職員は「できるだけきれいな校舎にして卒業生を送り出したかった」などと話しているという。
学校は「不適切な指導だった」と認め謝罪したが、問題発覚後の学校側の対応には疑問が残る。
「雑巾でトイレの床を拭いて」職員が児童に指示
トイレ掃除をめぐり不適切な指導が行われたのは、福岡県久留米市の公立小学校。今年3月13日、翌日の卒業式に備え、児童がそれぞれ担当する場所で準備を行っていた。
当時小学5年生だった女子児童のAさんとBさんは、掃除の担当ではなかったが、割り当てられた係の仕事が「早く終わった」ことから、60代の女性職員からトイレの掃除もするよう指示された。
当時小学5年の女子児童Aさん
「『自分の雑巾を持ってきて、下を拭いて』って言われました。素手でトイレの床を雑巾で拭きました」
この学校では普段トイレを掃除する際には、モップやブラシを使っているが、女性職員は、モップやブラシではなく、教室で使用している自分の雑巾を使ってトイレの床を掃除するよう指示したという。
2人は女性職員の指示に従った。
女子児童「男子トイレというのと自分の雑巾というのが嫌でした」
2人が指示された場所は、男子トイレだった。
当時小学5年の女子児童Bさん
「モップを使おうとしたけど先生に言ったら、なんか『モップより雑巾の方が早い』と言われたから雑巾でさせられました。男子トイレというのと自分の雑巾というのが嫌でした。」
当時小学5年の女子児童Aさん
「おしっこが飛び散っていて。だから掃除するのが気持ち悪かった」
2人は、およそ1時間にわたり男子トイレを掃除した。
RKB 植高貴寛 記者
「女子児童が掃除をしている間先生は指示しかせず、一緒に掃除をしなかったということです」
女子児童2人によると、女性職員は、「早くして。きれいじゃない、もう1回して」などと指示するだけで、手伝うことはなかったという。
当時小学5年の女子児童Bさん
「指導ばっかりしないで、『ここ一緒にやろう』って一緒にやってくれたらうれしかった」
「トイレットペーパーで小便器もふくように」指示
2人が掃除したのは、トイレの床だけではない。
AさんとBさんは、女性職員から、アルコールを湿らしたトイレットペーパーで小便器を拭き上げるよう、指示されたと話す。
Bさんは小便器の外側や水を流すボタンの辺りを拭き、Aさんは小便器の中まで拭いたという。
当時小学5年の女子児童Aさん
「トイレットぺーパーで男子トイレの小便器の中を拭きました」
Q記者 手が小便器の中に直接付いたりしなかった?
当時小学5年の女子児童Aさん
「した」
女子児童は「食欲がなくなり眠れなくなった」
女子児童Aさんの母親
「娘は、食欲がなくなり、夜眠れない、ということが続きました。素手で尿が飛び散っているところを拭かせて、先生は掃除していなかったということについて、もうすごい憤りを感じました。」
学校の対応に抱いた疑問
学校の指導に疑問を抱いたAさんの保護者は、翌日14日に久留米市教育委員会に相談。これを受け市教委はその日のうちに事実を確認するよう学校に要請。翌15日に学校を訪問して、「衛生面を含め適切に指導するよう」伝えた。
久留米市教育委員会によると、この時点で学校側は、女性職員に対してのみ聞き取りを実施。ただ、AさんとBさんには「もう一度つらい思いを思い出させて傷つけたくない」などという理由から「聞き取りをしなかった」。
保護者に聞き取りがあったのは2週間後 本人には確認せず
トイレ掃除の指示があってからおよそ2週間後、記者が教育委員会に対し取材を申し込んだ。
Bさんの保護者によると、記者の取材申し込みの後、初めて校長から連絡があり電話で事情を聞かれたという。掃除をしたBさん本人にではなく、母親への聞き取りだった。
一方、Aさんの保護者にも連絡があった。しかしそれは学校からではなく、学校から依頼を受けたという同じ学校の保護者からだった。
学校は「当該児童の保護者と仲がいい保護者だから聞いてもらった」と説明しているという。
Aさんの母親は、こうした学校の対応にも不信感を抱いている。
女子児童Aさんの母親
「都合の悪い事を隠してばかりで、子供に聞き取りをしない。納得する要素がありません。しかも、電話をかけてきた保護者の方とは、親しい関係ではありません。これが子ども達の前に立つ教育者のあり方なのか、甚だ疑問です。」
女性職員は、なぜ素手で男子トイレを掃除させたのか
素手による掃除を指示した女性職員は、学校側の聞き取りに対し「普段モップやブラシで掃除していることは知っていたが、できるだけきれいな校舎にして卒業生を送り出したかった。男子児童がいなかったので女子児童にやらせた」などと話しているという。
小便器の掃除については、中まで拭く指示は出していない、とした。
「小便器の外側の側面と水を流すボタン付近を掃除してと指示した」「女子児童が掃除をしている間、自分は、男子トイレの個室を掃除していた」と説明しているという。
久留米市教育委員会「不適切な指導だった」と認定
久留米市教育委員会は、「素手でトイレ掃除をさせたこと、さらに使用した雑巾を教室に持って帰らせたことは衛生上問題があった。また、男子トイレを掃除させたことにも問題があった」として、女性職員の指示は「不適切な指導」だったと認定した。
学校側は、女子児童と保護者に「不適切な指導」と「個人情報である電話番号を第三者に教えてしまったこと」などを謝罪。しかし、女性職員は体調不良を理由に謝罪の場に姿を見せなかった。
女性職員に対しては、処分は行わず、「校長からの指導」とした。
「衛生面への意識が低すぎる」指摘の声
教育問題に詳しい後藤富和弁護士は、学校側の衛生面に対する意識の低さを指摘した上で、異性のトイレを掃除させることについても、「様々な問題が生じる」と話す。
後藤富和 弁護士
「極めて非科学的というか、コロナ下でこれだけ手を洗いましょうとか衛生面に気をつけるようになったのに、学校側の意識が低すぎると思う。ひょっとして、女子だから男子トイレに入ってもいいという考えがあるとしたらこれは大きな問題で、男子が女子トイレを掃除するのはいいのかどうかとかあるいは男子がトイレに行きたい時に女子が掃除をしている横で用をたすのかどうかとか、様々な問題があります」
”素手でトイレを掃除”問題 熊本市のケースは
トイレ掃除をめぐる問題は、ほかの学校でも起きている。
熊本市では去年5月、小学校の宿泊教室で、57歳の女性教諭が、当時小学5年の男子児童2人に、便器のまわりに漏れていた尿を素手で雑巾を使って掃除させた。
しかし、その後の学校や教育委員会の対応は、久留米市のケースとはだいぶ違う。
熊本市教育委員会は、2020年、「体罰等審議会」を設置した。弁護士や精神科医など有識者からなる第三者委員会で、学校生活の中で被害の訴えがあった場合、速やかに開催し、再発防止のための助言を行う機関だ。
被害を訴えたい場合、保護者や児童は「子供を守る相談票」に細かく事案を書いて、教育委員会か学校に提出する。
その上で、教育委員会が、当事者や関係者などから聞き取りを行い、それをもとに作成した資料を「体罰等審議会」に提出する。
聞き取りの主体が、学校ではないのがポイントだという。
熊本市教育委員会 橋爪富二雄 教育審議員
「学校側が入りますと、子供たちも保護者の方も忖度というか、そこに何らかの縛りがついてしまいます。『直接には言えない』とかですね。ですから私たちができるだけ直接的に入って学校に行って聞き取りを行います。」
審議会は、受け取った資料をもとに審議し、「体罰」「暴言等」「不適切な行為」「適切な行為」「該当外」の5段階に分類する。
熊本市教育委員会 橋爪富二雄 教育審議員
「我々はとにかく事実に迫る。それから教育の質を上げるというのが大きなテーマです。事実に迫れないまま、『ある程度忖度が入ったのではないか』とか『学校よりのジャッジ、もしくは事実を曲げられているのではないか』と思われないように、特に第一当事者である被害にあった子供の意見を必ず資料には出すように、体罰等審議会から言われています。」
熊本市教育委員会は、児童本人からの聞き取りもふまえ、素手によるトイレ掃除を指示した57歳の女性教諭を「精神的苦痛を与えた」として戒告処分とした。
「子供に聞かない、のは人権侵害」
教育現場での子どもの人権問題に詳しい後藤富和弁護士は、久留米市の小学校が行った聞き取りは、「適正な調査とは言えない。児童が拒否した場合をのぞき、本人から話を聞くことが最優先だ」と指摘する。
後藤富和 弁護士
「子供の人権を無視していると思うんですね。今回は被害者が子供ですから、まず被害者である子供の声を聞く。先生に対して学校が事情を聞くのは、『不利なことは言わなくていい』とか『隠そう隠そう』という意識がどうしても働いてしまう。適正に調査がされているとは到底言えないと思います」
福岡県久留米市の小学生Aさん。結局、学校側から直接事情を聞かれることはなかった。
小学6年になり今は眠れない、食べられない、という症状もなく落ち着いているというが、果たして、学校の対応はこれで良かったのだろうか。
RKB毎日放送 記者 植高貴寛
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