”148時間を超える時間外労働”と”パワハラ” 24歳の男性は教師になって半年で自殺した 母「原因究明と謝罪を」
RKB毎日放送 / 2024年8月30日 19時32分
5年前、当時24歳の男性教員が自ら命を絶った。
あこがれていた教員になってわずか半年。
遺書には「このままでは大好きな子どもたちに迷惑をかけてしまう」などと
子供たちへの思いが綴られ、「謝罪」「罪滅ぼし」という言葉が並んでいた。
男性を追い込んだものは何だったのか。
男性の遺族は、長時間労働と学校現場でのパワハラが原因だとして、自治体などに損害賠償を求めている。
遺族が県や市に約9000万円の損害賠償を請求
福岡県春日市の公立小学校に勤めていた教諭の男性(当時24)が自殺したのは、2019年9月。
男性の遺族は、今年6月、男性が死亡したのは、長時間労働やパワハラが原因だとして、春日市と福岡県に約9000万円の損害賠償を求め、福岡地裁に提訴した。
教師になって半年後に自殺
訴状などによると、男性(当時24)は福岡県内の大学を卒業し、2019年4月から福岡県春日市の小学校で教員生活をスタートさせ3年生の担任を受け持つことになった。
定時は午前8時15分から午後16時45分だが、毎日の帰宅時間は早くても午後9時、遅いときは午後11時から翌日の午前0時だった。
帰宅後、自宅で持ち帰った仕事をすることもあった。
また、男性は担当指導教諭からのパワハラとも取れる厳しい指導に悩んでいた。
教員になって半年後、男性は学校内で自殺した。
男性の遺書「こんなことなら生きていても仕方がない」
男性のスマートフォンケースには遺書が残されていた。
男性の遺書
「人のためにと思ってついた職業。
あこがれた仕事。
自分が向いていなくても必死で勉強しても自分の性格が変わらなかった・・・
子どもにめいわくをかけてしまう・・・
大好きな子どもなのに・・・
こんなことなら生きていても仕方がない。
今までの謝罪や罪ほろぼしになればと思う。
さようなら」
労災にあたる”公務上災害”に認定 長時間労働と叱責
男性の死は、地方公務員災害補償基金(以下、地公災基金)が2021年に、労災にあたる”公務上災害”に認定している。
「長時間労働が続き先輩教諭から激しい叱責、指導を繰り返し受け、自死に至ったものと考えられる」と判断した。
長時間労働 148時間の月も
地公災基金によると男性の時間外労働は、「5月の連休明けから2か月連続で月120時間以上」に及び、自殺する前の1か月も、過労死ラインとされる80時間を超えていた。
地公災基金は、男性が「長時間に及ぶ時間外勤務により、相当強い精神的または肉体的負荷を受けていた」と認定した。
皆の前での叱責され「涙を流して謝罪」
長時間労働に加えて、地公災基金が認定したのは、男性が指導担当の教諭から「長時間にわたり、高圧的ともとれる厳しい叱責、指導を繰り返し受けていた」ことだ。
さらに、自殺した当日についても「自死当日の長時間に及ぶ閉鎖的な環境下での叱責を契機として急性的なストレス反応を起こし、自死に至ったものと考えられる」と認定した。
訴状などによると、午後6時25分から約2時間、男性と複数の教諭による話し合いが行われた。
この中で男性は、指導担当の教諭から宿題の出し方などをめぐり皆の前で叱責された。そしてほか2人の教諭もそれに同調した。男性は謝罪させられ、立ったまま泣いていた。
話し合いの後も、別室で泣いていたという。
そして午後10時頃、学校内で自殺しているのを発見された。
「まるで無関係であるかのようなそぶり 裁判するしかなかった」
労災にあたる公務上災害が認められたあと、遺族は2022年、春日市と福岡県に謝罪や調査、指導担当教諭らの懲戒処分などを求める内容証明郵便を送付したが、納得のいく回答を得られず、今年6月に提訴した。
男性の遺族の代理人 光永享央 弁護士
「春日市は、責任の有無すら回答していない。福岡県は一切、回答なし。まるで無関係であるかのようなそぶりだ。誠実な対応ではない。だから裁判をするしかなかった。」
男性の母が意見陳述 「息子が子供の頃から憧れていた職業だった」
8月27日に福岡地裁で行われた初弁論。男性の母親が証言台に立った。
母親の意見陳述:
「息子が子どもの頃から憧れていた職業が小学校の先生でした。
元々人見知りの性格で人前に出るのが苦手で、
勉強もそこまで得意ではありませ んでした。
そんな子が小学校の先生になると言い出したときは驚きましたが、
目標ができて良かったと思っていました」
高校生の時には自身のアルバイト代でピアノ教室に通っていた息子の姿を見て、母親は「何が何でも先生になる」という息子の強い気持ちを感じていた。
母親の意見陳述:
「教員試験に合格した時は、子どものように喜んで
満面の笑顔で嬉しそうにしていたその顔を生涯忘れることはありません。
やっと夢がかなってこれからどんな先生になっていくのか、
大人としてどのように成長いくのか見るのを楽しみにしていました。」
帰宅の時間が遅くなり食事量も減る
2019年4月1日。
初出勤から帰ってきて「担任になった」とやる気に満ちあふれた様子で話していた男性。
母親によると、先生になって最初のうちは楽しそうに過ごしていたが、運動会が近づくにつれて、状況が変化していったという。
母親の意見陳述:
「運動会の係を持つことになり、準備や担当しているクラスのダンスの練習、
日々の授業の練習・準備など業務が増え、
自宅に帰ってくる時間が次第に遅くなっていきました。
この時から食事量が減ったり、
自宅に仕事を持ち帰って睡眠時間が短くなったりしていました。」
自死の連絡「息子に限ってそんなことをするわけない」
そして9月。
母親は、男性が自死で運ばれたと連絡を受けた。
母親の意見陳述:
「最初は人違いだと思いました。
息子に限ってそんなことをするわけはないと思っていました。
息子の自死後、何が起きたのか私には分からなかったため、
事情説明の文章の提出を学校にお願いしたり、
説明を受けるために何度か学校に足を運んだりしました。」
しかし、学校側からの謝罪はなかった。
母親の意見陳述:
「息子を奪って家族を引き裂いたのに当事者の人たちが当たり前のように
生活をしていることには深い憤りを感じます。
私たちとしては、息子がどうして亡くならなければならなかったのかの
原因究明、そして学校からの謝罪を強く望みます。」
春日市と福岡県は”請求の棄却”求める
春日市と福岡県は、いずれも請求の棄却を求めている。
「教師のやりがい搾取」何人犠牲者が出れば・・・
教員の場合は「教員給与特別措置法」によって、働いた分だけの時間外勤務手当が支払われない。
遺族の代理人弁護士は、裁判を通じて、教員が置かれている実態も浮き彫りにしていく、と話した。
男性の遺族の代理人 前田牧 弁護士
「働いた分だけ時間外勤務手当を支払わなくていいということが、労働時間を管理しないことにつながっている。際限のない長時間労働を引き起こしているということも、この裁判で浮き彫りになるのではないか」
男性の遺族の代理人 光永享央 弁護士
「男性は遺書に『人のためにと思ってついた職業』と書いている。多くの教員が熱い思いを抱いてなっているわけです。だからこそ家でいくらでも仕事をする。国の制度はそれに甘えているのではないか。教員の熱い思いにおんぶに抱っこで長時間労働を引き起こしている。やりがいの搾取を続け、被害が起こる。全国各地で教師の過労死・過労自殺が起きている。いったい何人犠牲になれば改めるのか」
RKB毎日放送 記者 奥田千里
悩みを抱える人の相談窓口
厚生労働省は、悩みの相談先としてSNSを含めた複数の相談窓口を紹介しています。
#いのちSOS(特定非営利活動法人自殺対策支援センターライフリンク)
電話:0120-061-338
よりそいホットライン(一般社団法人社会的包摂サポートセンター)
電話:0120-279-338
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