松尾潔・ジャニーズ性加害問題当事者の会解散に「この機会活かして」
RKB毎日放送 / 2024年9月10日 16時30分
旧ジャニーズ事務所(現:SMILE-UP.)の創業者・故ジャニー喜多川氏による性加害問題をめぐり、被害を訴える「ジャニーズ性加害問題当事者の会」が9月7日に解散した。被害者への救済と補償について「大部分は達成できた」ことが理由としている。ジャニーズ性加害問題について早くからメディアで提言を行ってきた音楽プロデューサー・松尾潔さんが9月9日、RKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』に出演し「同様の問題を繰り返さないためこの機会を活かさなければ」とコメントした。
会結成が誹謗中傷を増大させるやるせなさ
故ジャニー喜多川氏による性加害を訴えてきた当事者の会が解散を発表しました。旧ジャニーズ事務所による記者会見が行われてちょうど1年というタイミングです。SMILE-UP.が会見で性加害を認め謝罪したのは、2023年9月7日でした。
「ジャニーズ性加害問題当事者の会」という名前の意味合いを今改めて考えているんですが、「被害者の会」ではなく「当事者の会」という名称は、意味深いことだったなと思います。というのも、性加害の認定がまだ成されていない人たち=Beforeの人たちも含むという意味だったんですね。
会の趣旨としては、性加害の認定が大前提としてあって、加えて謝罪や被害者の救済について幅広く活動していくものでした。主に補償ですよね。ただ、補償という言葉を使いましたが、それによって「いくら金が欲しいんだ! あいつらは」みたいな意地悪な見方をする、心無い方々がたくさん生まれてしまったのも事実です。
この会を結成する前から悩まされていた誹謗中傷が、この会を作ることになって、しかも表に出ることで、彼らに対する誹謗中傷の度合いが増してしまったという、皮肉で何ともやるせない話もこの1年の間に何回も伝えられました。
実績を残したものの誤解を招く危険も
この会の運営もなかなかスムーズにはいかず、発足から1か月ぐらいで離脱した人たちもいましたし、橋田康さんのように、はじめからこの会と距離を置いてメディアで訴えていた人もいます。そして今年の1月には、会の代表を務めていた平本淳也さんが健康状態の悪化を理由に代表を辞任しました。
その後は副代表の石丸志門さんが実質的に代表代行として活動を続けてきました。石丸さんは、道のりが真っすぐではなかったということを認めながらも、結果として認定、謝罪、補償、救済の実績を残すことができたと振り返っています。
一方で、この会に所属してない人たちも含めて、「いや、まだ道半ばであり、(解散は)これで終わったという誤解を招く」とデメリットを危惧する声も目立ちますし、僕もそう思います。こういうことはやっぱり終わりがないと思いますね。
旧ジャニーズという1社だけの話ではなく、こうした問題が起きたときに、日本のメディアが事務所に対して忖度してきたことや、事実を秘匿してきたとか、もっと言うとこの力学を悪用して視聴率獲得の具としてきたとか、いろんな醜悪なところが出てきました。僕からすると直視するのが辛いぐらいの問題です。
性加害者の立場に共感する心情は、僕にはもちろんありません。でも、加害者の近くにいてそれに加担した人たちを完全なる悪人として責められるかというと、「もし自分もそこにいたら、同調圧力の中で何かしら加担してしまっていたんじゃないか」という気持ちを、完全には否定できないという方も多いんじゃないかと思うんですね。
健全な発展のために自覚的になるべき問題
このことに関して、一橋大学大学院法学研究科の市原麻衣子教授が朝日新聞デジタルで興味深いコメントをしているので引用します。
市原さんはアメリカで大学院生活を送っていましたが、そのときにある著名な研究者から「ある研究成果に問題があると思ってもそれを指摘しないのは、学術的な腐敗である」と言われたことがあるそうです。
有名な研究者でも、親しい研究者でも、自分の面倒を見ている研究者であっても、その人たちの研究をきちんと批判的に分析しなければ、学術分野全体が正しく発展できないという指摘です。
市原さんも同調圧力という言葉を使ってコメントしています。「同調圧力」という言葉は、同調せよという周囲からの圧力に屈する、自分は犠牲者だと位置付けるような、弱い者の立場で使いがちですが、同調することを当然視する一人一人が、同調圧力を形成している加害者側でもあるということに自覚的になる必要があると述べています。
特に日本人の国民性を考えると、あらゆる分野での健全な発展を考えたときに、このことに対して自覚的になるべきではないか、という提案をしていて、僕も本当その通りだなと思います。もちろん、自戒も込めて。
社会を健全な方向に持って行かないと被害者が報われない
ジャニーズ性加害問題については「まだそんなことを言っている人がいるんだ」と軽く考えている人から「もうあの一件からテレビは見なくなった」という人まで、反応のグラデーションがあると思います。
我々が学ぶべきことのひとつは、この問題で露呈してしまった、日本社会における「長いものに巻かれる」という悪習の根強さでしょう。「これを奇貨として」という言葉がありますが、その悪習を改めるためには、みんなで社会を健全な方向に持っていくという強い意思を持つしかありません。
そうすることでしか被害者は報われないと思います。これから数年後に「結局また似たような事件が起きた」なんて言いたくないじゃありませんか。
僕自身、自分の(音楽プロデューサーという)生業について、これほど考えさせられる1年間はありませんでした。僕を取り巻く状況もいろいろ変わりました。今この時点でも、メディアで発言すると「リスクがある」と心配されることが多いというのが実情です。でも、言うことがタブーになるなんておかしいと僕は思うんです。
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