法学者 谷口真由美 袴田事件再審無罪を受けて「期日指定の法改正」求める
RKB毎日放送 / 2024年10月2日 18時35分
静岡県で一家4人が殺害された事件の再審で袴田巌さんに無罪の判決が言い渡された。逮捕から58年、無罪を勝ち取るまであまりにも長い闘いとなったこの裁判。法学者の谷口真由美さんは9月30日、RKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』に出演し、事件当時の取り調べの正当性や、再審に期日を指定する法改正を訴えた。
自白偏重主義だった事件当時
袴田事件、袴田巌さんの件についてです。改めて説明するまでもない事件だとは思うんですけれども、58年前にみそ工場で殺人事件があって、その犯人だとされた袴田巌さんが、58年間捕らえられました。
もちろん釈放されていたことはありますが、確定死刑囚として過ごしているという状況が58年続いている人生というものを考えたときにあまりに重い。
まず私たちは一般的に、警察や検察が嘘をついて、事件をでっち上げるんじゃないかということを想像していないと思うんですね。「正義の味方」だと思っていて、「悪いことをした人をちゃんと罰してくれる人たちだ」みたいに思っています。だけど、自白偏重主義というものがあって、事件当時=58年前などは特にそうで、本人の自白をすごく重視したという歴史があります。
事件の取り調べを体験するVR
実は今、地元の静岡新聞が袴田事件の特設サイトを作っているんです。これがものすごく重厚でよくできているんです。リスナーの皆さんも興味があったら静岡新聞の袴田さん事件の特設サイトを見ていただきたいんです。
その中にVRを使って、袴田事件の取り調べを体験できるものがあります。自分が袴田巌さんになって取り調べを受けるというもので、静岡新聞がアプリ会社と一緒に開発したんです。
私はVR機器を持っていませんが、紹介ページを見てみると、例えば自分が袴田さんだとして、「このときどういう答えを選びますか」みたいなものがあって、どんな答えを選んでも検察などからウワァーっと取り調べを受けるというものなんです。もはや拷問です。
取り調べとか捜査というものが正当になされているのならいいですが、例えば黙秘権ひとつとっても、ちゃんと黙秘させてくれたかというと、袴田さんが30分以上黙っていたにもかかわらず雑談とかを持ちかけて、そこから口を割らせようとしているみたいなこともあったとか。
「疑わしきは被告人の利益に」を肝に据える
そもそも「疑わしきは被告人の利益に」が司法裁判の鉄則なんですけれども、法学を勉強したことがあると、法律というものは道具なので、すごく抑制的に使うというトレーニングを受けるんです。脳の思考方法として。
私もメディアに出るのでこれは自戒も込めてなんですけれども、何か事件が起こると、ワイドショー的に「この人が怪しいんじゃないか」みたいなことから、何となく世間が「怪しい人! やったんじゃないか」みたいな風潮を作り出してしまうというところがあると思うんですよね。
だからやはりメディアで発信する側が、いかにそれを抑制的に「疑わしきは被告人の利益に」ということが徹底できるかどうかというのは、これはもうマスコミの人とかもそうですし、メディアを使う人、もちろん今で言うとSNSなど自分のメディア使う人たちも、本当にそこをもう一度肝に据えないといけないなというのは感じるところなんですね。
検察は控訴断念を
証拠の捏造がなされていたということとか、証拠で出てきたあのズボンが小さすぎて、袴田さんが履くと太ももの辺りで止まって着用できなかったという写真があるんですけど、それが証拠として出てきました。
でもそのズボンを「証拠だ」と言い張った状況があるということを考えると、「捏造もされてしまうんだな」と思いますね。袴田さんにまず権利救済をすることが一番大事で、姉の秀子さんがずっと「無実だ」と訴えてきたことを重く受け止めて、本人と家族に対して補償していくという問題が私はあると思います。
何より「検察が控訴しないでほしい」っていうことは強く訴えたい。これ、まだ決まってないわけで控訴するかもしれないという状況です。
今の科学の力で「血痕などをDNA鑑定したらおかしい、捏造されたものである」みたいな話になってきているにも関わらず、それを頑なに認めようとしない検察の態度に対して、国民世論も含めて皆さんの「やっぱりおかしいんじゃないか」という市民の声も考えて、もう控訴しないでほしいと願っています。
再審の期日を決められるよう法改正を
それと併せて、再審請求に時間がかかり過ぎているんです。もう本当にこれがひどいんです。再審って実は期日を決めなくていいんです。法律上、裁判というのは公判日を決めなきゃいけないんですが、再審の日は決めなくていいんですよ。そういう法律の規定になっていて、法律の不備が指摘されています。少なくとも改正してもらって、再審の期日もちゃんと決められるようにしてもらいたいです。
じゃあ法律ってどこで改正するんだ? って言ったら国会がやるわけですよ。だから、ちゃんとした国会論戦がなされる社会の中では、こういった再審の話もきっちりと議論されるんだろうと思いますが、なんか世間がややこしいから法律改正するだけ、みたいな話はやめてもらいたいし、さっさと改正して再審の期日が決められるようにしてほしいというのが大きいですね。
袴田さんの再審、長すぎるんですよ。それって人生がどんどん壊れていくということになりますので、ちゃんと再審を早くするということが必要です。今、実は法学者の声明を出そうとしていて、九州大学の田渕浩二教授とか豊崎七絵教授とかも呼びかけ人になって、もうすぐ声明が出ると思います。
私も賛同人になっていますが、法学者たちもやっぱりおかしいと思っていますので注目していただけたらと思います。
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