「妻には言わないでほしい」 口論の引き金は”支払われなかった740万円の手付金” 小学校教員の妻(当時35)を殺害した罪に問われた夫(42) 事件直前にマンション購入めぐるトラブル
RKB毎日放送 / 2024年10月10日 10時44分
夫(42)が小学校教員の妻(当時35)を殺害し、遺体を遺棄したとされる事件。
事件直前、夫婦はマンションの購入をめぐり、トラブルになっていたことが裁判で明らかになった。
毎月30万円の収入がある妻と、収入が不安定だった夫。
事件は、監視カメラのない自宅マンションの一室で起きた。
2人の間に何があったのか。
妻を殺害し遺体を放置したとして起訴
去年10月19日夜、福岡県久留米市のマンションの1室で、死後数週間が経ったと見られる女性の遺体が見つかった。
女性は、この部屋に住む小学校教員の渡辺彩さん(当時35)で、その後警察は、夫の渡辺司被告(42)を、殺人と死体遺棄の罪で逮捕・起訴した。
起訴状などによると、渡辺被告は去年9月21日、自宅マンションで、妻・彩さん(当時35)の首を何らかの方法で圧迫して殺害。10月19日に発見されるまでの約1か月間、自宅に遺体を放置したとされる。
「私は妻を殺害していません」
福岡地裁で行われた裁判員裁判の初公判で、渡辺被告は、死体遺棄の罪は認めたものの、殺人罪については否認した。
裁判長:「起訴状の内容で間違っているところはありますか?」
渡辺司被告:「私は妻を殺害していません」
裁判長:「死体遺棄についてはどうですか」
被告:「間違いありません」
家族4人での生活 夫婦の収入格差
渡辺被告と彩さんは約15年前、彩さんが20歳の大学生、渡辺被告が26歳の時に出会った。
2013年に結婚。
事件当時は9歳の長女と5歳の長男と4人で暮らしていた。
検察側の冒頭陳述によると、彩さんは福岡県久留米市内の小学校に勤務し、月に約30万円の収入があった。
当時は6年生の担任を受け持ち、「優秀で子供思い」などと校長や同僚からの信頼も厚かったという。
一方、渡辺被告は2006年、知人とウェブ広告関連の会社を起業した。
しかし2021年9月からは定収がなく、消費者金融から400万円以上の借金があったほか、実母からも1180万円を借りていた。妻の彩さんには「5000万円超の投資信託がある」と嘘を言っていたという。
新築マンション購入めぐりトラブル
事件がおきた去年9月、夫婦は新築マンションのギャラリーを訪れ、販売価格4790万円の部屋の購入を決めた。
2400万円を彩さん名義でローンを組み、残りの2390万円は渡辺被告が支払うことにした。2390万円のうち470万円を手付金として振り込むことになっていたが、渡辺被告が手付金を支払うことはなかった。
9月10日
夫婦は15日までに手付金を支払い、17日に売買契約を締結するとマンション販売会社の従業員に話す
9月15日
渡辺被告は手付金の支払いをせず
従業員からの連絡に「振り込み手続きはしたがミスで入金が19日になる」と嘘をつき「妻には黙っていてほしい」などと伝える
9月17日
夫婦はギャラリーで売買契約書に署名
9月19日
渡辺被告は手付金を振り込まず
「手続きはしたが送金限度額を超えたたため送金できない。20日午前10時までには振り込む。妻には言わないでほしい」などと従業員に伝える
9月20日
渡辺被告は手付金を振り込まず
マンション販売会社の従業員が彩さんに連絡
手付金が振り込まれていないことを伝える
彩さんが電話で渡辺被告を叱責
事件が起きた9月21日 渡辺被告の行動
そして9月21日、事件は起きた。
午前3時46分ごろ、実家にいた渡辺被告は、彩さんから電話で速やかに帰宅するように言われマンションに帰宅した。
午前7時55分、子ども2人を連れて外出。
午前8時12分に彩さんの勤務先の小学校に電話を入れ「病気のため2日間ほど休む」と伝えている。
その後も「(彩さんが)精神的に病んでおり休ませる」などと嘘の連絡をし、彩さんの家族にも同様の嘘を言っていたという。
9月22日以降は実家やビジネスホテルに宿泊していた。
渡辺被告の供述調書によると、「においがしたので、子供とホテルに滞在することにした」。
1か月後、心配した彩さんの両親と弟たちが遺体を発見
およそ1か月が経った10月19日午後10時前、彩さんと連絡がつかないことを心配した彩さんの両親と2人の弟が渡辺被告に連絡し、自宅を訪問。
渡辺被告は彩さんの家族がマンションのエントランスを通り部屋に入る前に、彩さんが死亡したことを打ち明けた。
(彩さんの父親の供述調書より)
遺体を発見した日は、車の中に司さん(渡辺被告)がいて、彩のことを尋ねると言葉を濁し、要領を得ないことを話していました。
部屋に向かっているとき、司さんから「彩は死にました」と聞きました。
弟2人が鍵を取り上げて急いで部屋に行くと、ベッド上でなくなっている彩を発見しました。
「何でここまでほったらかしていたのか」と尋ねると「子供たちになんて言ったらいいか分からなかった」「9月21日にビニールで首を吊って自殺しました」と言われました。
「どこでね」と尋ねると黙り込み「すみません」と小さな声でずっと言っていました。
空白の4時間 何があったのか 検察の主張
検察側は、21日未明に自宅に帰宅して翌日午前7時55分に出かけるまでの約4時間の間に、渡辺被告が何らかの方法で彩さんの首を圧迫し殺害したうえ、殺人の発覚を恐れ通報せず遺体を放置したと主張している。
空白の4時間 渡辺被告の主張
弁護側の冒頭陳述や渡辺被告の証言によると、妻の彩さんはマンションに帰宅した渡辺被告を正座させ罵倒した後、台所から持ち出した包丁の柄で床についていた渡辺被告の右手の甲を強打。
全治2か月以上の粉砕骨折を負わせた。
その後も彩さんから手付金を用意できないことなどを罵られ、渡辺被告は我慢できず彩さんの頬を平手で殴った。
手を出したことで彩さんが離婚を切り出してくると考え、彩さんを無職に追い込み、親権や慰謝料で有利な立場に立とうと、彩さんが8年前に教員をしながら副業をしていたことについて話したという。
「お前の仕事なんて簡単に辞めさせられる。副業のことを勤務先の小学校に言う」
この口論の最中、渡辺被告はたばこを吸うために約30分、口論をしていたリビングから離れた。
そして、午前5時頃、リビングに戻ってくると彩さんが土下座のような状態で倒れているところを発見した。
彩さんは失禁していたうえ、顔は白く、叩いても応答がなかったことから死亡していると思った、と話した。
弁護側は、「自殺の可能性が否定できない」と主張している。
(弁護側の冒頭陳述)
被告人は、被害者に対し、殺意をもったこと、及び、その頚部を圧迫して窒息により殺害したこともない。
被害者は、自分で自分の首を紐状にしたビニール製の買物袋で強ぐ絞めた際に輪状軟骨が骨折して気道閉塞により窒息した自殺である。
異なる法医学者の見解
彩さんの死因をめぐっては、法廷に出廷した法医学者の見解も割れている。
検察側の証人として出廷した解剖医は、「自殺の可能性は低い」と証言し、弁護側の証人として出廷した法医学の専門家は、「自殺した可能性が高い」と証言した。
結婚後、夫婦仲が悪化した
今年10月2日、白の長袖のTシャツにグレーのスウェットで入廷した渡辺被告。
夫婦関係について、「長男の誕生後、2人の子供の育児や家事を放棄したうえ、ことあるごとに被告人を罵倒するようになった。事件の約1年前からは週に2~3回以上、深夜に2~3時間くらい正座させられ、『結婚しなければよかった』『子供のお前の育て方が悪い』などと一方的に罵られていた」と話した。
弁護士:「結婚当時の夫婦仲は?」
渡辺被告:「喧嘩もしないくらいうまくやっていたと思います」
弁護士:「夫婦関係が悪化したのは仕事を辞めさせられた5年前くらい?」
渡辺被告:「著しく悪くなったのはその辺りだと思います。子供が生まれて妻が育児を続けるのが難しくなって、私が出社すると(自分が)育児をしなきゃいけなくなるので、私を出社させないようにしていました」
弁護士:「どうして仕事を辞めるように言われた?」
渡辺被告:「私が家にいないと(保育園への)送り迎えとかをやらなきゃいけないので、私が出社するのを拒んだと思います。
最初は私が(保育園に)送って、妻が仕事から帰ってきてから面倒をみるという形でしたが、私が帰ってくるまでの間も子どもの面倒を見たくない、ということで私が出社することを望みませんでした」
弁護士:「被害者は育児を手伝っていましたか?」
渡辺被告:「全くではなくて、子供と2人きりになるのを極端に嫌う感じです」
弁護士:「どうして2人きりを嫌う?」
渡辺被告:「子供の世話をしなければいけないから」
弁護士:「そのことを直接聞いたことがある?」
渡辺被告:「はい。『私は親に世話をされていないから子供への接し方が分からない』と言っていました。」
2018年に第2子である長男が生まれると、「妻はより子育てをしなくなり喧嘩が多くなった」と主張した。
弁護士:「仕事にも行けなくなる?」
渡辺被告:「はい。インターネットの仕事なので、家でできる範囲では自宅でするようになりました」
弁護士:「出社できない理由は会社に説明した?」
渡辺被告:「妻が育児をしないということは恥ずかしくて言えないので、私の体調が悪いというふうに言っていました」
弁護士:「出社できないことで給料に変化は?」
渡辺被告:「少しずつ減っていく形になりました」
涙ながらに謝罪も「マイナス面を証言することは必要」
2日の被告人質問。
終盤は弁護士から遺族への思いについて問われた。
弁護士:「被害者をミイラ化させたことについてはどのように考えていますか?」
渡辺被告:「その場で救命するべきでしたし、警察に通報するべきだったと思います。人として許されることでは無かったと思います」
弁護士:「この法廷でお詫び申し上げたいんじゃないんですか?」
渡辺被告:「はい」
そして、渡辺被告は証言台の椅子から立ち上がり、傍聴している遺族の方を向き、裁判長から「座ってください」という指示を受けながらも、涙ながらに謝罪をした
渡辺被告:「本当に申し訳ございませんでした」
謝罪について検察官が質問した。
検察官:「先ほどの涙は何の涙?」
渡辺被告:「妻の遺体を放置し申し訳ないという涙です」
検察官:「謝罪したにもかかわらず、あなたは法廷や取り調べで被害者を侮辱するようなことを言っていますが、それはなぜ?」
渡辺被告:「必要だと思ったからです。」
検察官:「どうして必要?」
渡辺被告:「妻のマイナス面を法廷や警察署での証言として伝えることを悩んでいましたが、必要だと思って話しました。謝罪になっていないと言われたらそうだと思います」
「口から内臓のようなものが出ていて・・・」「絶対に許せない」悲痛な遺族の声
10月9日の論告求刑公判。
福岡地裁の傍聴席は全席が埋まり、法廷の外には傍聴を待つ人の列ができていた。
彩さんの弟と父親が証言台に立った。
突如家族を失った悲痛な遺族の声に、涙を流す人もいた。
彩さんの弟
「司くん(渡辺被告)と弁護側は姉のことを散々貶めています。
姉は反論できず悔しいと思います。
司くんは嘘をつく癖がありました。
しょうもないすぐばれる嘘をついていました。
この裁判で出身校を嘘ついていたのも初めて知りました。
姉もその嘘を信じていました。
私が姉に転職を相談した時『一生懸命やってそれでもだめだったらしょうがない』などと背中を押してくれました。
『仕事をさぼってもやりよるように見せたもん勝ち』と私が姉に言った際には、
『それは違うよ。見よる人は見よるよ』と言われました。
それからどんな仕事でも手を抜かないように頑張っています。
姉は一番の相談相手であり、一番の味方です。
人生の大きな決断の時には必ず背中を押してくれました。
(去年10月19日)姉の家に入る直前、司くんに姉が死んでいることを伝えられました。
ドアで嗅いだことのない匂いが強烈にして、「これが死臭か」と思いました。
部屋のドアを開けると、姉が横たわっていました。
正確には布団から黒くなった手と足が出ていました。
顔を見ても誰の顔か分かりませんでした。
すぐに110番と119番をしましたが、冷静になると、姉が死んでいたのは明らかで、救急車を呼ぶ必要は無かったと思います。
事実と違ってまで姉のことを悪く言う人とこれまで仲良く遊んでいたと思うと、
情けなくなります。司くんの非人間的な行動に腹が立ちます。
司くんを許すことはできません。二度と刑務所から出てほしくありません。」
彩さんの父親
「死人に口なしということを痛感しました。
被告や弁護人が自殺に持って行くために彩や私たちを侮辱したことが悔しくて
たまりません。
去年の10月19日、長男から『彩が引きこもりになって学校を休んでいる』と
連絡がありました。
彩に電話をしても出ず、司くん(渡辺被告)に相談して彩と話をさせてほしいと
言っても拒否されました。
妻が『声を聞かせてください』と言っても拒否され、『大事にしないでほしい、
月曜日まで待ってほしい』などと言われ、家族全員で彩の家にいきました。
部屋に入る前、被告は妻に『彩は死にました』と言いました。
部屋に入ると異臭がするのに彩の姿は無かった。
毛布をめくると、骨と皮だけの彩がいました。
口から内臓の様なものが飛び出し、手足が黒く、体液のようなもののあとも
ありました。
次男は黒くなった彩の手足をさすっていました。
彩が育児をしなかったというのは嘘です。
彩は長女を職場近くの幼稚園に入れ、毎日迎えに行っていました。
彩の帰りが遅いときは、妻が迎えに行くこともありましたが、孫は機嫌が悪くなると『ママがいい』と泣き、彩を慕っている様子でした。
彩は子供を最優先にしていました。
彩が自分の子供たちや学校の教え子を残して自殺することは無いと思います。
被告には嘘をつくことをやめ、正直に事実を話し、刑に服することを望みます。
被告は彩の蘇生もせず、腐ってしまうまで放置しました。
埋葬する気にならなかったと言い、無くなった後に髪を引っ張ったり、
顔を叩いたりしました。
彩の身体や人格をどこまで傷つければいいのか。
彩は死ぬ瞬間、家族の名前を呼びながら息絶えたと思います。」
検察側は懲役18年を求刑「人命をなんとも思わない無慈悲な意思決定」
検察側は渡辺被告に懲役18年を求刑した。
マンション購入における金銭トラブルなどが殺害の動機だとして「動機・いきさつに酌量すべき余地がない」「身勝手かつ短絡的な動機で、人命をなんとも思わない無慈悲な意思決定は強い非難に値する」などと主張した。
死体遺棄事件については、「死後の尊厳を著しく毀損させる悪質な犯行」などとしている。
弁護側は「被害者は自殺」殺人罪については無罪主張執行猶予付き判決を求める
弁護側は殺人罪について「被害者は副業歴を勤務先にばらされ信頼を失墜するかもしれないと考え、自殺した可能性が高い」などとして無罪を主張。
死体遺棄罪については「被告は死体発見直後の適切な対応を誤り、どうしたらよいか分からないまま途方に暮れて死体の放置を続けたという不作為による事案で犯情の重い部類とは言えない」などとして執行猶予付きの判決を求めた。
夫は妻を殺害したのか 判決は10月21日
彩さんは夫である渡辺被告に殺害されたのか、自ら命を絶ったのか。
裁判は10月21日に判決が言い渡される予定だ。
RKB毎日放送 記者 奥田千里
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