女装した新人アナウンサー 「ヒールを履くことで、悩みや不満から解放された感覚があった」 ”ドラァグクイーン”の本音と悩み
RKB毎日放送 / 2024年11月1日 16時22分
性の多様性を祝う「レインボープライド」が11月、福岡市で開催される。そこに参加する性的少数者の中に、ドラァグクイーンと呼ばれる人たちがいる。
派手な衣装に派手なメイク。彼らはなぜ女装するのか。学生時代、ドラァグクイーンを研究した新人アナウンサー(22)が、その胸の内に迫った。
香水とまつげ スイッチが入る瞬間
「普段つけない香水やまつ毛を付けるときにスイッチが入る」
大阪市内にある立ち飲み居酒屋。昭和レトロな雰囲気がただよう店内で、普段は美容師として勤める60代の男性は、女装する時の心境をこう話した。
黒のTシャツに帽子姿。手には小さな巾着バッグ。その姿からは想像もつかないが、男性は派手な女装でダンスなどのパフォーマンスを行う「ドラァグクイーン」だ。
昼間は美容師として働き、週末の夜は、ドラァグクイーン”マダムCOCO”として全国各地のステージに立つ。
マダムCOCOさん(60代)「30年以上前に大阪の心斎橋で『DIAMONDNIGHT』っていうカウントダウンパーティーがあって、そこに行った時に、『ちょっと求めているものがあったかも?』と感じた。それがきっかけです」
そこには、Tバック1枚で踊る人や性別を問わず奇抜な恰好をした人たちがいた。
マダムCOCOさんは、そこで活躍していた人たちの衣装をまねながらその世界にはまっていく。
当時を、懐かしそうに振り返った。
マダムCOCOさん(60代)「目の上にも下にも、3枚も4枚もつけまつげを付けたり。昆虫図鑑を見てメイクの参考にしたりしました。昆虫のお腹とかぎょろっと大きな目とか。『ちょっとこうしてみようかな~』と。当時は綺麗と言われるよりも、『それ、どないなってんの?』とか、『かっこいい』とか言われる方が、すごいテンション上がるというか。『綺麗』なんか言われても、綺麗な女性の方が綺麗だし、ニューハーフの方がよっぽど綺麗なわけやから」
当時は、「あんたブスね~」と言われることが、先輩からの最大の誉め言葉だった、と笑った。
「もう”オカマ”って言われたくない」
近畿地方で男性として生まれ育ったマダムCOCOさん。
自身を男性と自認し、恋愛感情や性的魅力を感じる相手は男性だ。
ゲイだと認識したのは小学生の頃。初恋は?と尋ねると、「中学生の時」だと恥ずかしそうに答えた。
幼少期は、女の子と遊ぶことが多かったという。
マダムCOCOさん(60代)「女の子の姉妹も多かったし、小学生の頃から女の子とよく遊んでいたから、『オカマ』って言われることも多かった。中学時代は、年代的にも差別されるというか。もう、オカマって言われたくないから、逆にやんちゃなグループに居たりした。田舎から早く出たいと思っていました」
過去には女性と交際したこともある。
マダムCOCOさん(60代)「素敵な女性で好きだったけど、今思えばカモフラージュだったのかもしれない」
マダムCOCOさんは、田舎を出て大阪の美容専門学校に入学し、美容師としての人生を歩んだ。
やんちゃなグループにいたのも、田舎を出たのも、思えば、これまでマダムCOCOさんの人生における意思決定には、常にゲイであることに対する差別が影響していた。
それは、ドラァグクイーン”マダムCOCO”として多数のメディアにも出演する今も、変わらない。
「変態と思われて捕まるんちゃうやろか」
マダムCOCOさんは、トランスジェンダーではない。ドラァグクイーンでいる時間は、ブラジャーをつけストッキングをはく自分に酔うが、普段男性として生活している間は、別の感情を抱く自分がいる。
マダムCOCOさん(60代)「普段は、ブラジャーやストッキングを履いたり、買いに行ったりするのも嫌だから、女性の友人に『ちょっと買ってきてくれへん?』って言います。自分で買うときは今でも、『ヘアメイクの仕事をしています。』みたいな感じで買いに行くし」
マダムCOCOさんには、学生時代に感じた差別の感覚が、今も心の深くに残っている。
「変態と思われて捕まるんちゃうやろか」と冗談を交えながら話したあと、まっすぐに筆者を見つめ、こう言った。
マダムCOCOさん(60代)「多分その感覚は一生変わらへんと思う」
大学時代に”女装”を研究 そしてアナウンサーになった
筆者は、学生時代、女性やLGBTQの権利運動の歴史などを研究してきた。マダムCOCOさんと出会ったのもこの頃だ。
2年間、ゲイバーやショーパブなどで現地調査を行い、「女装」をテーマに卒業論文を書いた。
調査する中で多くの人に出会ったが、中でも特に関心を持ったのは「ドラァグクイーン」という存在だ。初めてショーを見た時、あまりの美しさに息を飲んだ。
ドラァグクイーンとは一般に「ゲイ、ないしトランスジェンダーの男性が女装し、派手な衣装や厚化粧、大袈裟な仕草で『女であること』をパロディ化したパフォーマンスを行う人たち」を指す。
派手な衣装の存在感から圧倒されてしまうかもしれないが、彼らは日常的にそういう服装をしているわけではない。
2時間かけてメイク イメージは「中世ヨーロッパの貴婦人」
筆者も、子どものころから化粧や綺麗な服装に憧れがあった。日常を脱ぎ捨てドラァグクイーンになるとは、どういう気持ちなのか。体験してみることにした。
2時間半かけて行った派手なメイク。自分を何かの恐怖から守ってくれるような気がした。ヒールを履くことで、日常の悩みや不満が解放された感覚もあった。
夢が叶った瞬間だった。
そして、この体験のあとは、ヒールを履いている女性の隣を歩く時、速度や溝の有無に気をつかうようになった。
すべての人のためのレインボープライド
11月2日(土)、3日(日)、福岡市で「九州レインボープライド」が開催される。
レインボープライドとは、LGBTQなど性的少数者やその支援者(Ally)たちが「多様性」を祝福するイベントで、ほかにも年齢、肌の色、障がいの有無などに関係なく様々な人たちが参加する。2日(土)には、福岡で活動するドラァグクイーンも登場する。
性的指向などで悩む当事者はもちろん、それ以上に、当事者でないと考える人たちにこそ、関心をもってほしい。
RKBアナウンサー 高見心太朗
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