ケアから取り残される犯罪被害者遺族の子供たち…アドボカシーの重要性
RKB毎日放送 / 2024年12月18日 15時12分
福岡県北九州市で12月14日、中学生が殺傷される痛ましい事件が起きた。このような事件に遭遇してしまった遺族の中で、気持ちを声に出せないまま苦しむ子供がいる。この事件と同じ日、20年前に長崎県佐世保市で起きた事件で、妹を失った兄(当時中学3年生)が語るオンラインセミナーが開かれた。12月17日のRKBラジオ『田畑竜介GrooooowUp』で、このセミナーを主催した福岡県社会福祉士会の木戸勝也理事に、RKB毎日放送の神戸金史解説委員長が話を聞いた。
「佐世保小6同級生殺害事件」から20年
神戸:12月14日、福岡県社会福祉士会が主催したセミナーがありました。「佐世保小6同級生殺害事件」が2020年に起きて20年が経ち、亡くなった女の子のお兄さんにお話を聞く機会でした。非常に考えさせられる内容でした。
木戸:子供の声を聞く「子どもアドボカシー」を推進する事業が日本各地で行われていて、私はその推進役として「アドボケイト」という仕事をしています。今回、佐世保の事件の遺族の声を聞くファシリテーターとしてセミナーに参加しました。
神戸:「佐世保小6同級生殺害事件」は2004年6月、学校内の学習ルームで、当時6年生の女子児童が同級生にカッターナイフで切りつけられて殺害された事件です。実は、この被害女児のお父さんは、私が当時勤めていた毎日新聞社の同僚、先輩でした。いつもは事件を取材する側でありつつ、被害者家族と近い立場にいたので、非常に苦しい事件だったことをはっきり覚えています。今回のセミナーでお話ししたのは、亡くなった女児のお兄さん、当時中学3年生だった御手洗さんでした。
被害者は同僚の家族だった
木戸:御手洗さんが最も伝えたかったことは、犯罪被害に遭ったご遺族のうち、特にきょうだいはまだ子供で、自分の気持ちを親以外の大人に聞いてもらえなかったこと。自分の気持ちを認識する機会が持てず、心身にすごくダメージを受けたことを、知っていただきたいという御手洗さんの思いを汲んで、今回企画しました。
神戸:被害者のお父さんが毎日新聞社の記者だったので、すぐに会見をしました。その映像を見た御手洗さんは「何やってるんだ、この人?」と思った、という発言がありましたね。
木戸:事件のことも直接お父さんから聞いたわけではなく、学校の先生からYahoo!ニュースをプリントした紙を渡されたとか、「父は何をしているんだろう」と思ったら、テレビの中に立っていた。事件のドタバタの中でお父さんと話す機会がなく、外の世界から客観的に情報を仕入れていたとおっしゃっていました。
神戸:僕も、その会見を見ていました。いつも取材をお願いしている側だから、こういう場では答えなければいけないと思って無理してしゃべっているのだろうと思いました。「自分のところに取材をまとめることで、他の家族を守りたいという意識もあったんじゃないか」と息子さんは今回のセミナーで話していました。
木戸:最初にお父さんと直接会った時に御手洗さんが思ったのは「この人に何か負荷をかけると、死んでしまうかもしれない」。だから「自分が我慢しなければいけない」「大人全てに笑顔で接しよう」と決意した、とおっしゃっていました。
神戸:記者会見に臨んでいた父親ですが、息子から見ると「この人はこのままだと死んじゃうかもしれない」と思った。だから、自分は絶対に父親の前で泣かないのだ、とすぐに決めた。もう一つは、「自分は大丈夫だから」と常に笑顔でいよう、と。その精神的な過程は自己防御でもあったかもしれないし、家族を守ろうとしたのかもしれませんが、それによって実は心身にものすごく負荷がかかっていた。それに対するケアが実は行われていなかったようです。本人にはなかなか届いてないというか、効果がなかったというか。
注:御手洗さんは「事件後にお世話になった方には100%感謝している」という前提でお話しされました。
木戸:学校の先生とか、周りには大人がたくさんいました。毎日新聞社は、家庭を支えるために、家事のお手伝いまでサポートし、すごくケアをしていたはずなんですけど、本人は自分の気持ちを言えなかった。その人に自分の気持ちを伝えたら、お父さんに伝わる可能性があったから。実は「言いたい」という気持ちがあることも自分ではわからなかったけど、だんだん心が病んで、ダメージを受けていたのにずっと我慢をしていた、とおっしゃっていました。
1年後に起きた突然の「変調」
神戸:初めてそれが爆発して心の中から出たのは、高校に入ってからでしたね。
木戸:学校に行こうとした瞬間に足が動かなくなって、養護の先生がいる保健室に何とかたどり着いて、初めて自分の気持ちを言えたということでした。
神戸:ずっと我慢して、でも1年後には完全に心身の不調が表に出るほどになってしまった。被害者家族の、特に子供さんを対象にしたケアが実は後回しになってしまっているのではないでしょうか。
木戸:大人とか家庭とかを広く支える被害者支援はあるんですけど、被害者の遺族、特に遺された子どものケアについてはまだまだ不十分なところがあると思います。お父さんも当然ケアしないといけなかったと思うんですが、息子さんがどんな気持ちになっているか、家族含め、周りの大人が気づく環境がなかった形ですね。
神戸:その後、お父さんにちゃんと話せたことが大きかったんでしょうか。
木戸:そうおっしゃっていました。養護の先生に話した後、学校に行けなくなった。それをお父さんに話すことができて、少しずつ関係が修復されていったとお話しされていました。
神戸:自分の本当の心を、親子なのに話せない。環境としてちょっとおかしくなってしまっているんだろうと思いました。
「子どもアドボカシー」とは
神戸:「子どもアドボカシー」とは、どういうことだと理解したらいいですか。
木戸:「子どもアドボカシー」とは、まず子供自身に「自分の伝えたいことは伝えていい権利がある」と伝え、自分の気持ちを誰かに伝えられるようになってもらう、ということです。子供自身は自分の言葉だけではなかなか伝えられないので大人がサポートをしたり、1人で言うのがつらい時は代わりに伝えたりする事業です。
神戸:今悩んでいるお子さんがいたら、どうしたらいいんですか。
木戸:「社会的養護」、例えば虐待を受けたお子さんとか親御さんが育てるのが難しいお子さんたちの声を聞く活動をやっていて、少しずつ学校や地域にも広がってきています。今、福岡市にある警固公園に集まる若者の声を聞く活動をずっとやっています。地域に少しずつ声を聞く方が広がってきているので、「ぜひ話を聞いてほしい」と伝えてほしいです。社会福祉士という仕事は、声を聞いた後に「環境調整」、その子の生活を整えていくためのサポートをするための機関なので、お子さん自身や親御さんからご相談を受けて対応ができるような形になっています。
神戸:御手洗さんのお話をうかがって、本当にケアが必要だと改めて感じました。事件が起きてしまった後、遺された人たちがどうしたらいいのか、社会で考えていかなきゃいけないと、セミナーに参加して感じていました。
◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。ニュース報道やドキュメンタリー制作にあたってきた。やまゆり園障害者殺傷事件やヘイトスピーチを題材にしたドキュメンタリー最新作『リリアンの揺りかご』は各種プラットホームで有料配信中。
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