「運転やめたいけど…」過疎地域で高齢者が“免許の自主返納”に踏み切れない現状と対策
南海放送NEWS / 2024年11月19日 17時0分
愛媛県内では去年1年間に、高齢ドライバーが絡む交通事故が758件発生し、このうち、高齢ドライバーが過失が大きい第一当事者となった事故は8割近くを占めています。
そんな中、高齢者自身が、そして家族が考えるのが…免許の有効期間が満了する前に、自らの意思で取り消しを申請する「運転免許の自主返納」。
しかし…
80代女性:
「返納もしたいが、やっぱり田舎なのでちょっとは乗りたい」
80代男性:
「仕事の都合で…もうあと一回だけ(免許更新する)」
交通事故の被害者、そして加害者にならないために、私たちができる選択を考えます。
免許の自主返納数は減少傾向
松岡キャスター:
交通事故を考える、清家記者です。
清家記者:
こちらは過去5年の県内の運転免許保有者数とこの先の推移予測です。
松岡キャスター:
人口も減っていますから、運転免許保有者も減少していますね。
清家記者:
そうなんです。しかし、65歳以上の高齢者の運転免許の保有数を見てみると、過去5年増え続けていて、県内では今年が最も高齢ドライバーが多くなる見込みです。
一方で県内での運転免許の自主返納の推移は、2019年の池袋暴走事故の年に一気に増えたものの、それ以降は減少している状況です。
‟自主返納して運転をやめたい”と考えている方もいる一方で、取材し、高齢者の声を聞くとそうはいかない現状と課題が見えてきました。
スーパーもバス運行もない集落で「免許の自主返納」決めた男性は
西予市城川町の遊子川地区。地区の人口は245人、そのうち65歳以上がおよそ60%を占める限界集落です。スーパーや病院はなく、バスの定期運行もありません。
酒井喜義さん、95歳。妻の時江さんとの2人暮らしです。この日は2週間ぶりに、息子の孝志さんが実家を訪れていました。喜義さんは腰などを痛めている時江さんのために、料理など家事全般をこなしています。
妻・時江さん:
「何でもしてもらうから食べられる。朝も味噌汁もちゃんと炊いてくれて」
買い物は1週間に1回。喜義さんの運転で自宅からおよそ15キロ先のスーパーに向かいます。
喜義さん:
「街なかは(法定速度が)40キロじゃなかったろうか」
息子・孝志さん:
「40キロよ。下手したら30キロかもしれん」
20分ほどでスーパーに到着。
喜義さん:
「これで一週間分はあるからね」
95歳、身の回りのことをほとんど一人でこなす喜義さんですが、この秋、大きな決断をしました。
「返納…」
(しようかと?)
「もう(運転は)無理だろうと思って決めた」
運転免許の自主返納です。
喜義さん:
「医者に行ってももう何年も前からもうやめないけんぞと言われていて。もう乗らん方がええぞと」
息子の孝志さんはこれまでにも父親の免許返納のタイミングを伺ってはいたものの、なかなか踏み切れなかったといいます。
息子・孝志さん:
「本来であれば年齢的に早く返上してもらいたいのがやまやまだが、結論こういう(地域交通の)状況もあるので、私も車の擦り傷の具合や認知の返答の関係とかを判断しながらもう少し行けるかもう少し行けるかと」
来年春をめどに免許を返納することを決めた喜義さん、返納後は孝志さんが両親の生活をサポートします。
息子・孝志さん:
「拠点は私松山に住んでいるが(遊子川)も半分、平日帰ってきて土日松山の自宅に帰るとか」
60年近く車に乗り続けてきた喜義さん。免許の返納を決断したものの気持ちは複雑です。
喜義さん:
「やっぱ車がなくなったら生活が難しくなるので一番それが心配。集落の会合にも行けなくなるので」
この日、遊子川地区では敬老会が行われました。
西予警察署 西岡交通課長:
「運転免許証を返すことができる、そうした選択もあるということについて考えるきっかけになったらと思い参りました」
西予警察署と西予市が合同で開いた、運転免許の自主返納についての出前講座。バスが通る停留所まで送迎してくれるデマンド乗合タクシーなどのサービスが紹介されました。
80代女性:
「来年の5月まで免許(の有効期限)がある。もうそれには…どうやろう、考えているところ」
自主返納を決めた喜義さんも耳を傾けます。
息子・孝志さん:
「事故こそしていないが、シミュレーターの判定が悪かったり、反応が悪かったり。今日講習を一緒に立ち聞きして資料を見たら、なるほどそういうことになっているのかというのも理解できた」
島内での新たな生活の足に「チョイソコ」が好評
過疎地域の新たな生活の足へ…ヒントになる動きが瀬戸内の島で始まっています。
人口およそ2300人の今治市大三島・上浦町。65歳以上の高齢者が人口の半数を占める一方で、去年3月、町の中心部を走っていた路線バスが一部廃止されました。
この現状を解決しようと誕生したのが、「チョイソコおおみしま」です。会員制の乗合タクシーで、今治市と地元のタクシー会社などが協力し、去年1月に大三島で運行が始めました。県内にあるチョイソコの中では唯一、自治体がサポートしています。
今治市 しまなみ住民課 中山晃成課長:
「バス路線の廃止に伴い、今治市としても住民の(生活の)足を確保するため生活弱者の足を確保するために県から引き受け、(市が)委託料を支出しながら運行している」
年齢制限はありませんが、現在利用者のおよそ8割が65歳以上で、スーパーや病院など、島内におよそ120か所停留所があります。
運賃は一律 大人400円で、65歳以上や免許の自主返納者などは半額の200円で利用できます。毎日運行していて、利用する際は電話やインターネットで予約、移動手段が限られている高齢者を支えています。
チョイソコおおみしまを運行する「上浦交通」。チョイソコの専属ドライバー、赤尾龍司さんです。
赤尾さん:
「このタブレットに指示が来るのでこの通りに行けばいい」
84歳女性:
「お願いしますー。私は大助かり」
チョイソコに乗って買い物に行っていたという84歳の女性。自宅近くを走っていた路線バスの廃止以降、チョイソコを利用しています。
84歳女性:
「もうお父さん(夫)も90歳に近いからバイク辞めないといけない」
Q.免許返納した後は?
「これ乗りますよ」
女性を自宅近くまで送り届けた赤尾さんは、休む間もなく次の目的地へ。
赤尾さん:
「若者よりもお年寄りが多いので、どんどん需要は高まっていくんだろうなと思う」
この日は11件の予約が入りました。
こちらも買い物帰りの女性。車の免許を返納し、チョイソコを利用しています。
80代女性:
「便利ですよこの車はね。このように(チョイソコの)お兄さんの車が十分間に合うので、免許がないのに不自由なことは全然ない」
地元の人からも愛される"超"地域密着型の新しい交通システム。
上浦交通 西岡錦取締役:
「タクシー会社としては今までの売り上げが減る、そこが心配だったが、上浦交通として大三島の人に大変お世話になったので、このチョイソコがそういう人たちの便利になって喜んでもらえるものにしたい」
【スタジオ】
清家記者:
今回の取材を通して、その地域に特化した「乗合タクシー」は高齢者にとって心強い味方になっていると感じました。その一方で、民間で運行していく難しさや各地域での交通や地理的な事情など考えていくべき課題は多くあると感じます。
高齢者が車を運転しなくても暮らせる優しい社会に。家族や自治体、そして地元企業のバランスの取れた連携がその実現への近道だと感じました。
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