「やっとマイナスからゼロに」西日本豪雨でミカンの木を失って…8代続く農家、再生への道のり
南海放送NEWS / 2024年11月21日 18時44分
西日本豪雨で土砂崩れの被害に遭い復旧が進められてきたミカン山で、今月あの日以来初めてとなるミカンの収穫作業が行われました。愛媛県宇和島市吉田町のミカン農家の6年4か月の記録です。
今月16日。宇和島市吉田町玉津地区のミカン山でボランティアを行っていたのは、香川県からやってきた大学生たちです。ミカンをイノシシから守る柵を、園地を取り囲むように取り付けていきます。学生たちの輪の中心にいるのがミカン農家、中島利昌さん(64)です。
あの日、350本の木を一瞬で失ったミカン農家
2018年7月7日の西日本豪雨。吉田町では、ミカン山を中心に2271か所で土砂崩れが発生。中島さんの園地でも、わが子同然に育ててきたミカンの木350本を一瞬にして失いました。
中島さん:
「この木ね、よくなってくれる木やったんですよ、本当に。なぁきれいにできたら東京行って、どんなお客さんに食べてもらおういうみかんなんやけど、どこの誰にも食べてもらわずに終わるんですよ。この子らは。見れば見るほど辛いです」
中島さんは吉田町で8代続くミカン農家。流されたミカンの木は長女の千佳さんが誕生したのにあわせて、中島さんが新たに苗木を植えたものでした。
長女・千佳さん:
「ちょうど、私が今年25なので、同い年の木になるので。ちょっと思い入れがありますね。ちょうど小学校への通学路があの道だったので、ちょうど山とか育っていくのを見ながら私たちも登校してたりしてたんで」
長男・圭吾さん:
「苗木ぐらいの頃から僕らも見てきたんで、かなり辛いですね」
"災害に強いミカン園地"として再生を決断
中島さんは国の補助事業を活用し、崩れた山を"災害に強いミカン園地"として再生させることを決めました。
「石段」が、排水と土留めの役割を果たすことで土砂崩れを防止。
さらに、「かご枠」を積み重ねることで安定性と耐久性の向上を図ります。
被災から2年8か月、中島さんのミカン山の復旧工事が完了しました。
そして…
中島さん:
「1年生の南柑20号(温州ミカン)の苗木です。もう本当に人間で言うと小さい赤ん坊ができるような感覚ですかね」
長さわずか30センチほどのミカンの苗木を大切に、大切に…
中島さん:
「よし、根っこ埋まったけん。残土もらおうか」
1本、1本…
中島さん:
「本当の節目ですよ、大きな節目です。玉津地区でもそう、我が家でもそうですけど後が『ミカン作りをするよ』って言うように、言ってくれるように、子どもが。しっかり育てたいですね」
静岡県で働いていた長男の圭吾さん。ミカン農家を継ぐため苗木の植え付けを前に実家に戻って来ました。
圭吾さん:
「この崩れた山で、ミカン収穫しているところを見て育ってきたもので。実際災害が起こってここが崩れたのを見た時に、自分も一緒に支えていかなきゃなと思って、帰ろうかなと思ったんですよね」
今年10月、猛暑とカメムシの被害に見舞われながらも着々と実を太らせる中島さんのミカン。
その一方で…
中島さん:
「骨折か所のCTなどを撮って診察を受けるため、市立病院へ向かっています。(去年)農道のすぐ上のところで摘果をしていたら足を滑らせて道路へ転落した。息子が帰って来てくれとって、本当に助かりました」
左足の痛みと戦う日々…ミカン山での農作業が満足にできない状態が続いていました。
医師:
「調子はどうですか?」
中島さん:
「調子は、そこまで変わりはないです」
医師:
「もうちょっと時間はかかると思うんですけど。前の写真と比べてみると骨はできているので。今はあまり力仕事はしていない感じ?」
中島さん:
「そうです。急なところは行っていません」
医師:
「こけないようにだけ注意してください」
“経験を次の世代に語り継ぐ”ことを使命として
あの日から6年あまりが過ぎ、中島さんは64歳となりました。
“経験を次の世代に語り継ぐ”ということを、中島さんは自らの“務め”だと感じています。
中島さん:
「横からこうやって崩れて。それで逆にここに一回土砂ダムができてまた流れていっちゃう。住民も宇和島市も、その当時災害と言えば、地震のあとの津波というイメージがものすごく強かった。だからまさか背中からやってくると思ってないので、みんな海の方ばかり見ていた」
記者:
「地下足袋はいてますね」
中島さん:
「4、5日前からようやく。これだけ大きくなってくれて、どうにか初なりのミカンがとれるんで、ちょっと一安心。こうやってミカンの苗木が育って、本当にミカンがなったところの姿を見るというのは本当感無量。本当に嬉しさですよね。これだけの補助事業で、国・県・市、本当にみなさんのお力添えがあって初めて、成り立った園地だと思います。 個人の力というものは本当に微々たるものです」
中島さん:
「初試食。うん。11月にしたら上等やと思います」
被災園地で新たに実を結んだミカン 初収穫の日
そして今月17日。被災したミカン山であの日以来、初めてとなる収穫の日を迎えました。豪雨の2か月後から継続的にミカンボランティアに来ている香川大学の学生の力を借りて摘み取ります。
中島さん:
「いいですね。ここのミカンは傷がないミカンが多いんです。風あたりが少ないのでここは。肌がね、ちょっと初なりでキメは粗いですけど。べっぴんさんですよ」
長男・圭吾さん、妻の恵津子さんもハサミを入れます。
恵津子さん:
「嬉しいです。やっと、マイナスからゼロまで持って行けそうなので」
あの日から6年4か月。ミカン産地再生に向けた大きな大きな一歩です。
中島さん:
「みんなに助けてもらった6年4か月だと思います。まだまだ4、5年はかかると思ってますので、おいしいミカンがなるのに。そこはあんまり欲張らずに。なかなか作ったミカンって胸張れるほど、よう働かんので、できたミカンで頑張りたいと思います」
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